Heart of GOLD ∞ ④
レコーディングを始めてから数ヶ月。
最後のレコーディングの日、彼らは最後の曲を撮り終えた。
この数ヶ月、時にぶつかり合うこともあったけど、廣治はいつもアオハルの気持ちを全部受け止めてくれたし、無理やりにやり方を押し付けてくるようなこともなかった。
ものすごく「自然に」、廣治の音楽はアオハルに染み渡るように一体化していった。そうして出来上がった音楽は、まさに廣治が欲していたものだった。
4人は達成感にハイタッチをして喜び合うと、その夜新宿のスタジオの近くの店で打ち上げをした。
「こっからは僕の仕事だから。君たちには本当にいい演奏をしてもらったよ。感謝してる。本当にありがとう」
「ヒロさん、僕らもすごく楽しかった。新しい刺激をもらったし、すごく感謝してます」
忍が嬉しそうに微笑んで言った。充実感に満ちていた。
「俺も。自分たちにはこんなこともできるんだなって。ヒロさんと出会ってよかった」
仁が照れながら素直に言う。
「俺もです。これ、よかったら俺たちから。」
誠司がサプライズで廣治にプレゼントを渡した。細長い黒い箱だ。
「ええっ、うわ、ありがとう。その、、なんかこういうの久しぶりで、、」
廣治は照れくさい顔を鼻をつまんでごまかした。
受け取った箱を開けると、中にはネックレスが入っていた。シルバーの太めのチェーンに、ヘッドには涙型のターコイズがあしらわれていた。
「うわあ、かっこいいね、すごく嬉しい」
「僕たち、ヒロさんのイメージってなにかなって考えたんです。そしたら、ターコイズだなって。
それもただ青いだけじゃなくて、ムラのある石が混じったやつ。
ヒロさんは優しいけど、中に何かを飼ってるでしょ。それで、その石にしたんです」
中に何かを飼っている。
うん、そうかもな。
廣治は心の中で笑った。
「みんなありがとう。大事にするよ。さあ、好きなだけ飲んで食べて。」
廣治は彼らと過ごしたわずかな時間、まるで若い頃に戻ったように楽しかった。
その日もいつものように和やかに過ごしていたが、珍しく忍はいつもより酔っていなかった。
打ち上げが終わり、新宿の路上に出て解散をするとき、忍が言った。
「ヒロさん、また会えるよね」
誠司も仁も、廣治を見ていた。
「また会えるって、約束して」
廣治は優しい顔をしたまま黙っていた。
アオハルのメンバーは、廣治の心の中にある思いを感じ取っていた。
それはとても危うく、けれど廣治の中に確かにあるもの。
「お願い。約束してよ」
忍は廣治に駆け寄って、廣治の胸のあたりを掴んだ。
「約束できるだろ?僕らはまた会えるんだ、ヒロさん、、」
忍は泣き出しそうなのを押し殺して唇を噛んでいた。
「僕らはあなたと過ごして、あなたのことがすごく好きになったんだ。」
忍の背に手を当てつつも、廣治にはなにも言えなかった。
「守れない約束はしないって思ってるんだろ。ヒロさんは優しいから」
誠司が口を開いた。
「それでもいい。言わなくてもいいよ。でも、俺たちはヒロさんが好きだ。あなたと一緒にいるのが好きだ。心からそう思ってることを忘れないでほしい」
誠司の目も潤んでいた。
「俺は、ヒロさんは控えめで目立たないようにしてるけど本当はすげーかっこいいんだって知ってる。俺、尊敬してんだよ。絶対また会いたい。忘れないでくれよ。」
いつもは言葉数が少ない仁が、涙ぐみながら語った。
廣治は3人を心から愛しいと思った。
「みんな、ありがとうな。気持ちは、ちゃんと受け取ったよ。、、それじゃあ、また」
会おうな、という言葉は心の中で砂になって散った。
廣治は忍をやさしくなで、3人に微笑んで雑踏の中に消えていった。
笑顔が優しすぎて、3人はそれ以上なにも言えなかった。
どこまでも優しく不思議と魅力的で孤独な人。
廣治はそんな印象を残して去った。