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空想都市一番街

Heart of GOLD ∞ ④

2022.05.12 13:41

レコーディングを始めてから数ヶ月。

最後のレコーディングの日、彼らは最後の曲を撮り終えた。


この数ヶ月、時にぶつかり合うこともあったけど、廣治はいつもアオハルの気持ちを全部受け止めてくれたし、無理やりにやり方を押し付けてくるようなこともなかった。


ものすごく「自然に」、廣治の音楽はアオハルに染み渡るように一体化していった。そうして出来上がった音楽は、まさに廣治が欲していたものだった。


4人は達成感にハイタッチをして喜び合うと、その夜新宿のスタジオの近くの店で打ち上げをした。



「こっからは僕の仕事だから。君たちには本当にいい演奏をしてもらったよ。感謝してる。本当にありがとう」


「ヒロさん、僕らもすごく楽しかった。新しい刺激をもらったし、すごく感謝してます」


忍が嬉しそうに微笑んで言った。充実感に満ちていた。


「俺も。自分たちにはこんなこともできるんだなって。ヒロさんと出会ってよかった」


仁が照れながら素直に言う。


「俺もです。これ、よかったら俺たちから。」


誠司がサプライズで廣治にプレゼントを渡した。細長い黒い箱だ。


「ええっ、うわ、ありがとう。その、、なんかこういうの久しぶりで、、」


廣治は照れくさい顔を鼻をつまんでごまかした。


受け取った箱を開けると、中にはネックレスが入っていた。シルバーの太めのチェーンに、ヘッドには涙型のターコイズがあしらわれていた。


「うわあ、かっこいいね、すごく嬉しい」


「僕たち、ヒロさんのイメージってなにかなって考えたんです。そしたら、ターコイズだなって。

それもただ青いだけじゃなくて、ムラのある石が混じったやつ。

ヒロさんは優しいけど、中に何かを飼ってるでしょ。それで、その石にしたんです」


中に何かを飼っている。

うん、そうかもな。

廣治は心の中で笑った。


「みんなありがとう。大事にするよ。さあ、好きなだけ飲んで食べて。」


廣治は彼らと過ごしたわずかな時間、まるで若い頃に戻ったように楽しかった。


その日もいつものように和やかに過ごしていたが、珍しく忍はいつもより酔っていなかった。



打ち上げが終わり、新宿の路上に出て解散をするとき、忍が言った。


「ヒロさん、また会えるよね」


誠司も仁も、廣治を見ていた。


「また会えるって、約束して」


廣治は優しい顔をしたまま黙っていた。


アオハルのメンバーは、廣治の心の中にある思いを感じ取っていた。

それはとても危うく、けれど廣治の中に確かにあるもの。


「お願い。約束してよ」


忍は廣治に駆け寄って、廣治の胸のあたりを掴んだ。


「約束できるだろ?僕らはまた会えるんだ、ヒロさん、、」


忍は泣き出しそうなのを押し殺して唇を噛んでいた。


「僕らはあなたと過ごして、あなたのことがすごく好きになったんだ。」


忍の背に手を当てつつも、廣治にはなにも言えなかった。


「守れない約束はしないって思ってるんだろ。ヒロさんは優しいから」


誠司が口を開いた。


「それでもいい。言わなくてもいいよ。でも、俺たちはヒロさんが好きだ。あなたと一緒にいるのが好きだ。心からそう思ってることを忘れないでほしい」


誠司の目も潤んでいた。


「俺は、ヒロさんは控えめで目立たないようにしてるけど本当はすげーかっこいいんだって知ってる。俺、尊敬してんだよ。絶対また会いたい。忘れないでくれよ。」


いつもは言葉数が少ない仁が、涙ぐみながら語った。


廣治は3人を心から愛しいと思った。


「みんな、ありがとうな。気持ちは、ちゃんと受け取ったよ。、、それじゃあ、また」


会おうな、という言葉は心の中で砂になって散った。


廣治は忍をやさしくなで、3人に微笑んで雑踏の中に消えていった。


笑顔が優しすぎて、3人はそれ以上なにも言えなかった。

どこまでも優しく不思議と魅力的で孤独な人。


廣治はそんな印象を残して去った。