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「宇田川源流」 対ナチスドイツ戦勝式で語ったプーチン大統領のプロパガンダ

2022.05.18 22:00

「宇田川源流」 対ナチスドイツ戦勝式で語ったプーチン大統領のプロパガンダ


 5月9日は、旧ソ連がヒトラー率いるナチスドイツに勝った日であるという。1945年4月30日、ヒトラー総統が自殺し、5月2日にベルリンはソ連軍によって占領され、ベルリンの戦いは終結。5月7日、ヒトラーの後を受けて大統領になったカール・デーニッツ海軍総司令官により権限を授けられた国防軍最高司令部作戦部長、アルフレート・ヨードル大将が連合国に対する降伏文書に署名し、翌5月8日に最高司令部総長ヴィルヘルム・カイテル元帥が批准文書に署名した。その知らせがソ連のクレムリンにもたらされた日をもって戦勝記念日としているので、5月9日が記念日になる。

 さて、今回プーチン大統領は、ウクライナのゼレンスキー大統領を含め、その人々をすべて「ネオナチ」という言い方をしているのである。「対ナチス戦争」の戦勝記念日に「ネオナチとの戦争」をどのように表現するのか、非常に興味が持たれた。これが中国の習近平国家主席のように「自分は毛沢東を超える」などという野望があることを表明している人ならば、スターリンを超えるために、この日に「ネオナチとの戦争に勝利した」と表現したであろう。

 しかし、プーチン大統領はそのような野望は表明していないし、また現在のウクライナの戦況は、そのようなことを言えるような話ではない。そもそも「ネオナチ」と表現したゼレンスキー大統領に対して、まだ攻撃ができていないという状態である。基本的にウクライナ東部の占領はしているものの、それでもハリキウなどの都市では徐々に押し返されている状態である。また将校は多数死に、ゲラシモフ参謀総長も前線視察中に負傷しているという状態では、とても勝利宣言ができるものではなかった。

 一方、もう一つの考え方として「一方的に和平交渉をする」ということも考えられていた。すでに、ウクライナ東部で占領している地域を固定化するためには、現在勝手に和平をしてしまい、なおかつ停戦協定をして、そのままそこで固定化してしまうということができるのである。しかし、その場合「マリウポリ」をどうするのかということが大きな問題になる。マリウポリは、町はほぼ制圧しているものの、アゾフスタリ製鉄所の中にはまだ抵抗している勢力があり、そのことから、マリウポリの完全占領はできていない。そのように考えると、現在の停戦は「港湾都市マリウポリの放棄」ということにつながる可能性があるのだ。

 そのような意味で「勝利宣言」も「停戦宣言」もできない、状態で何を語るのかということが大きな問題になるのである。

 

【解説】 プーチン氏、今後の手がかりをほとんど示さず 戦勝記念日の演説

 モスクワでは第2次世界大戦の戦勝記念日を前に、うわさと憶測があふれていた。

 ウラジーミル・プーチン氏は、ウクライナへの攻撃について重大な発表を準備しているのか? 何らかの勝利を宣言するのか? それとも攻撃の激化を示唆するのか?

 結局、そのいずれもなかった。

 赤の広場でロシア軍およびロシア国民に向けて行われた演説で、プーチン氏はこれまで何度も口にしてきた、ウクライナ攻撃の正当化を繰り返した。現在起きていることについて、ロシア以外のすべてに責任があるとするような主張だ。

 彼は(いつものように)アメリカ、北大西洋条約機構(NATO)、ウクライナ政府を批判した。それらの行動が、ロシアの安全を危険にさらしたと訴えた。また(いつものように)ウクライナの「ネオナチ」に言及した。ロシア当局者からもよく聞く主張だ。そうした人たちは、ウクライナが全体主義者や過激な国粋主義者、ナチのシンパに牛耳られているという根拠のない言説を定期的に発している。

 プーチン大統領は、ロシアが軍事的損失を被ったことは認めた。だが、詳細は明らかにしなかった。ロシア国防省の直近の発表では、ロシア兵の死者は1351人だった。ただそれは6週間前の人数だ。その後の更新はない。

 不思議なことに、プーチン氏はロシアの攻勢を説明するのに、おなじみの「特別軍事作戦」という言葉を使わなかった。「戦争」と呼ぶこともなかった。それでも、現在の敵対行為と第2次世界大戦を並列に置こうとした。おそらく、ヒトラー打倒をめぐってロシア国内に存在する愛国心を利用し、ウクライナ侵攻に対するロシア国民の支持を高めようとしたのだろう。

 演説の後、数千人のロシア兵が赤の広場を行進した。ただ、昨年の戦勝記念日のパレードより人数は少なかった。兵器も披露された。だが、予定されていた軍用機の飛行は中止された。公式発表では天候不良のためとされた。

 ロシア政府はウクライナでの迅速な勝利を望んでいた。軍隊を送り込んでから数日以内に勝つと想定していた節がある。しかし、そうはならなかった。

 プーチン大統領の「プランB(次善策)」は、戦勝記念日の5月9日までに勝利を手に入れることだったと、ロシアの多くの人が考えている。だが、それも実現していない。

 プーチン大統領はこれからどこに向かうのか。9日の演説に、その手がかりはほとんどなかった。同時に、敵対行為を終わらせるというサインもなかった。まだしばらくは、続くことになるだろう。

(英語記事 Putin gives few clues in Victory Day speech)

2022年5月10日 BBC

https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-61389326

プーチン氏演説に欧米が非難

 ロシアのプーチン大統領が9日、モスクワで行った第2次世界大戦の対独戦勝記念日の演説について、「虚偽」の主張を並べてウクライナ侵攻を正当化したと、米欧各国から非難が噴出している。

 プーチン氏は演説で、米欧がロシアの国境付近で脅威を作り出しており、先制攻撃に踏み切るしか選択肢がなかったと主張した。これについて米ホワイトハウスのジェン・サキ大統領報道官は9日、荒唐無稽な虚偽情報だと指摘し、「この戦争が西側の計画で引き起こされたというのは明白なでたらめだ」と述べた。

 ドイツ外務省報道官も9日の定例記者会見で「この戦争はロシアが始めたものだ」と強調した。

 プーチン氏がウクライナのゼレンスキー政権を改めて「ネオナチ」と呼んだことも反発を招いている。

 英国のベン・ウォレス国防相は9日、「プーチンとその取り巻きは77年前のファシズムを忠実に模倣し、全体主義の失敗を繰り返している」と批判した。

 フランスのマクロン大統領は記者会見で演説への感想を問われ、プーチン氏の態度が「戦士のよう」だったと述べて、その強硬ぶりに苦言を呈した。

 一方、ロシアではウクライナ侵攻への反発が表面化している。

 独立系ニュースサイト「メディアゾーナ」などによると、政権寄りのネットメディア「レンタ」のサイトに9日、「プーチンは哀れな独裁者」「戦争で経済の失敗を覆い隠そうとした」などと政権を批判する約20本の記事の見出しが並んだ。

 反戦記事は、編集幹部2人が「良心に従って」掲載したという。その後、記事はサイトから削除された。

 ロシアでは軍に関する「虚偽情報」を広めたと裁判所が認定すれば、最高で禁錮15年の罰を受ける可能性がある。記事を掲載した幹部2人は出国したという。

2022年05月10日 20時56分 読売新聞

https://news.nifty.com/article/world/worldall/12213-1624305/

 さて、様々な憶測が流れたプーチン大統領の演説であるが、このことは解釈すれば当然に、5月9日には、ウクライナ全土を掌握しているという予定であったということを意味している。2月24日に始まり、もしかしたらウクライナ全土だけではなくモルドバやポーランドなども占領する予定で、旧ワルシャワ条約機構の復活を宣言する可能性もあったということになろう。いずれにせよ、プーチン大統領のそのような目論見は外れてしまい、ロシアの人々の考えとは異なる苦戦が伝えられたということになる。

 このような演説の時に、予定通りいかなかった場合が最もつらい。そのことの責任は、様々な政府幹部の「更迭」ということで出てきているのであろう。

 彼は(いつものように)アメリカ、北大西洋条約機構(NATO)、ウクライナ政府を批判した。それらの行動が、ロシアの安全を危険にさらしたと訴えた。また(いつものように)ウクライナの「ネオナチ」に言及した。ロシア当局者からもよく聞く主張だ。そうした人たちは、ウクライナが全体主義者や過激な国粋主義者、ナチのシンパに牛耳られているという根拠のない言説を定期的に発している。<上記より抜粋>

 さて、この演説からすれば(演説全文日本語訳は末尾にNHKから抜粋)「ネオナチ」といっているのは、ゼレンスキーだけではなくNATOそのものやアメリカなどをすべて指しているということになる。つまりプーチン大統領のいうネオナチの正体は「民主主義」とか「欧米の旧西側諸国」ということになる。ナチスという者が「アーリア人至上主義」や「ホロコースト」を行った主体ではなく「ロシアに対して敵意を持っているすべての国(人)」というように定義づけられているのではないか。そのような定義であるとみてみると、この演説はすっかりと入っている。つまりプーチンが戦っている相手は「ウクライナ」ではなく「NATO」であるということになる。

 そのことを感じたNATO諸国は、初めのうちは反応しなかったが24時間たって、一斉にロシア批判を行った。それが後半の記事になる。

 英国のベン・ウォレス国防相は9日、「プーチンとその取り巻きは77年前のファシズムを忠実に模倣し、全体主義の失敗を繰り返している」と批判した。<上記より抜粋>

 まさにこのように「自分たちがファシズムであるから、他が鏡のようにファシズムに見えているというような感じになってしまうのである。批判そのものが、プーチン大統領の意向そのものをよく見えていないので、何とも言いようがないのであるが、しかし、いずれにせよ、「相容れない価値観」であることだけは確かであり、このままではウクライナだけで戦争は終わらないということになる。ではこの戦争を終わらせるためには何をしなければならないのか。

 今後大きな問題になるのではないか。

 

<演説全文:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220509/k10013618261000.html>

【演説全文】プーチン大統領 戦勝記念日で語ったことは

2022年5月9日 22時55分

ロシアのプーチン大統領は、日本時間9日午後4時から戦勝記念日の式典で演説を行いました。演説全文は以下のとおりです。

尊敬するロシア国民の皆さん!

退役軍人の皆さん!

兵士と水兵、軍曹と下士官、中尉と准尉の同志たち!

そして同志である将校、将軍、提督の皆さん!

偉大な勝利の記念日に、お祝い申し上げる。

祖国の命運が決するとき、祖国を守ることは、常に神聖なことだった。

このような真の愛国心をもって、ミーニンとポジャルスキーの兵は祖国のために立ち上がった。

ロシアの人々は、ボロジノの草原でも戦った。

そして、モスクワとレニングラード、キエフとミンスク、スターリングラードとクルスク、セバストポリとハリコフ、各都市の近郊でも戦った。

そして今、あなたたちはドンバスで、われわれ国民のために戦ってくれている。

祖国ロシアの安全のために。

1945年5月9日は、わがソビエト国民の団結と精神力の勝利、そして、前線と銃後での比類なき活躍の勝利として、世界史に永遠に刻まれた。

戦勝記念日は、われわれ一人ひとりにとって身近で大切な日だ。

ロシアには、大祖国戦争の影響を受けていない家庭はない。

その記憶は薄れることがない。

この日、大祖国戦争の英雄たちの子ども、孫、そしてひ孫が「不滅の連隊」の果てしない流れの中にいる。

親族の写真、永遠に年をとらない亡くなった兵士たちの写真、そして、すでにこの世を去った退役軍人の写真を持っている。

われわれは、征服を許さなかった勇敢な戦勝者の世代を誇りに思い、彼らの後継者であることを誇りに思う。

われわれの責務は、ナチズムを倒し、世界規模の戦争の恐怖が繰り返されないよう、油断せず、あらゆる努力をするよう言い残した人たちの記憶を、大切にすることだ。

だからこそ、国際関係におけるあらゆる立場の違いにもかかわらず、ロシアは常に、平等かつ不可分の安全保障体制、すなわち国際社会全体にとって必要不可欠な体制を構築するよう呼びかけてきた。

去年12月、われわれは安全保障条約の締結を提案した。

ロシアは西側諸国に対し、誠実な対話を行い、賢明な妥協策を模索し、互いの国益を考慮するよう促した。

しかし、すべてはむだだった。

NATO加盟国は、われわれの話を聞く耳を持たなかった。

つまり実際には、全く別の計画を持っていたということだ。

われわれにはそれが見えていた。

ドンバスでは、さらなる懲罰的な作戦の準備が公然と進められ、クリミアを含むわれわれの歴史的な土地への侵攻が画策されていた。

キエフは核兵器取得の可能性を発表していた。

そしてNATO加盟国は、わが国に隣接する地域の積極的な軍事開発を始めた。

このようにして、われわれにとって絶対に受け入れがたい脅威が、計画的に、しかも国境の間近に作り出された。

アメリカとその取り巻きの息がかかったネオナチ、バンデラ主義者との衝突は避けられないと、あらゆることが示唆していた。

繰り返すが、軍事インフラが配備され、何百人もの外国人顧問が動き始め、NATO加盟国から最新鋭の兵器が定期的に届けられる様子を、われわれは目の当たりにしていた。

危険は日増しに高まっていた。

ロシアが行ったのは、侵略に備えた先制的な対応だ。

それは必要で、タイミングを得た、唯一の正しい判断だった。

主権を持った、強くて自立した国の判断だ。

アメリカ合衆国は、特にソビエト崩壊後、自分たちは特別だと言い始めた。

その結果、全世界のみならず、何も気付かないふりをして従順に従わざるを得なかった衛星国にも、屈辱を与えた。

しかし、われわれは違う。

ロシアはそのような国ではない。

われわれは、祖国への愛、信仰と伝統的価値観、先祖代々の慣習、すべての民族と文化への敬意を決して捨てない。

欧米は、この千年来の価値観を捨て去ろうとしているようだ。

この道徳的な劣化が、第2次世界大戦の歴史を冷笑的に改ざんし、ロシア嫌悪症をあおり、売国奴を美化し、犠牲者の記憶をあざ笑い、勝利を苦労して勝ち取った人々の勇気を消し去るもととなっている。

モスクワでのパレードに来たいと言っていたアメリカの退役軍人が事実上、出席を禁止されたことも知っている。

しかし、私は彼らに「あなたたちの活躍と共通の勝利への貢献を、誇りに思っている」ということを知ってもらいたい。

われわれは、アメリカ、イギリス、フランスといったすべての連合国の軍隊に敬意を表する。

そして抵抗運動の参加者、中国の勇敢な兵士やパルチザンなど、ナチズムと軍国主義を打ち負かしたすべての人たちに敬意を表する。

尊敬する同志たち!

こんにち、ドンバスの義勇兵はロシア軍兵士と共に、自分たちの土地で戦っている。

そこは、スビャトスラフやウラジーミル・モノマフの自警団、ルミャンツェフやポチョムキンの兵士、スボロフやブルシロフの兵士、そして大祖国戦争の英雄ニコライ・ワトゥーチン、シドル・コフパク、リュドミラ・パブリチェンコが、敵を撃破した土地だ。

いま、わが軍とドンバスの義勇兵に伝えたい。

あなた方は祖国のために、その未来のために、そして第2次世界大戦の教訓を誰も忘れることがないように、戦っているのだ。

この世界から、迫害する者、懲罰を与える者、それにナチスの居場所をなくすために。

われわれは、大祖国戦争によって命を奪われたすべての人々、息子、娘、父親、母親、祖父母、夫、妻、兄弟、姉妹、親族、友人を悼む。

2014年5月に労働組合会館で、生きたまま焼かれたオデッサの殉教者たちを悼む。

ネオナチによる無慈悲な砲撃や野蛮な攻撃の犠牲となった、ドンバスのお年寄り、女性、子どもたち、民間人を悼む。

そしてロシアのために、正義の戦いで英雄的な死を遂げた戦友を悼もうではないか。

1分間の黙とうをささげよう。

(1分間の黙とう)

兵士や将校、一人ひとりの死は、われわれ全員にとって悲しみであり、その親族と友人にとって取り返しのつかない損失だ。

国家、地域、企業、そして公的機関は、このような家族を見守り、支援するために全力を尽くす。

戦死者や負傷者の子どもたちを特別に支援する。

その旨についての大統領令が、本日署名された。

負傷した兵士や将校が速やかに回復することを願っている。

そして、軍病院の医師、救急隊員、看護師、医療スタッフの献身的な働きに感謝する。

しばしば銃撃を受けながら、最前線で、みずからの命も顧みず戦ってきたあなた方には、頭が下がる思いだ。

尊敬する同志たち!

今、ここ赤の広場には、広大な祖国の多くの地域からやって来た兵士と将校が肩を並べて立っている。

ドンバスやほかの戦闘地域から直接やって来た人々もいる。

われわれは、ロシアの敵が、国際テロ組織を利用して、民族や宗教どうしの敵意を植え付け、われわれを内部から弱体化させ、分裂させようとしたことを覚えている。

しかし何一つ、うまくは行かなかった。

戦場にいるわれわれの兵士たちは、異なる民族にもかかわらず兄弟のように、互いを銃弾や破片から守っている。

それこそがロシアの力。

団結した多民族の国民の、偉大で不滅の力だ。

こんにち、あなた方は、父や祖父、曽祖父が戦って守ってきたものを、守ろうとしている。

彼らにとって、人生の最高の意義は、常に祖国の繁栄と安全だった。

そして彼らの後継者であるわれわれにとって、祖国への献身は最高の価値であり、ロシアの独立を支える強固な支柱だ。

大祖国戦争でナチズムを粉砕した人々は、永遠に続くヒロイズムの模範を示した。

この世代こそ、まさに戦勝者であり、われわれは常に見習い続ける。

われわれの勇敢な軍に栄光あれ!

ロシアのために!

勝利のために!

万歳!