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七枝の。

台本/駒井みどりはころされた(男2:女2:不問1)

2022.05.19 02:22

〇作品概要説明。

主要登場人物5人。ト書き含めて約1万字。不審死したクラスの中心人物の死の謎を解明する学園密室推理劇。推理と銘打っているものの、犯人は捕まらず仲良しグループが崩壊していく様を描くのがメイン。登場人物の個性は強め。


〇登場人物

駒井みどり:こまいみどり。ラストシーンにしか出てこない為、兼役推奨。

先生:男性。女性がしてもいい。

鈴木あやめ:すずきあやめ。気の強い女性

坂本なづな:さかもとなづな。庇護欲をそそる女性。

林かのえ:はやしかのえ。男性。一人称僕。なづなの幼馴染。

宇本つくし:うもとつくし。男性。正義感が強い。


〇ご利用前に注意事項の確認をよろしくお願いいたします。

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作者:七枝


本文


〇プロローグ。

先生:駒井みどりは特別な少女だった。

宇本つくし:時々いるだろう?同じ服を着て、同じような表情をしている群衆(ぐんしゅう)の中でも、ひと際目立つ存在が。

林かのえ:駒井みどりという少女はそういう存在だった。美貌も口調もなんていうことないのに、どこか目を引く。彼女に声をかけられると、否が応でも耳をかたむけてしまう。

鈴木あやめ:駒井みどりが言うならしょうがない。駒井みどりが言うならそうしよう。私達グループの中で、しばしば飛び交うそんな台詞。

先生:駒井みどりは、特別な少女だった。口に出さないが、皆そう思っていた。

宇本つくし:だから、この結末がもたらされたとき、悲しみと共に納得した気持ちさえあった。

林かのえ:もちろん悔んだり苦しい想いもしたけど、仕方ないとさえ思った。特別な人というのは特別な最後を迎えるものだ。それが物語の王道だろう?

坂本なづな:私は、彼女がただ事故で死んだとは思わない。あまつさえ、自殺なんてそんな、三文小説みたいなこともあり得ない。きっと、真実はこう。

鈴木あやめ:「駒井みどりはころされた」

   間。

〇学校。応接室にて。

先生:みなさん、とつぜん呼び出してしまってすいません。

宇本つくし:いえ……なんですか、先生。

先生:そう構えないでください、宇本くん。叱られるようなことではありません。

林かのえ:(ボソッと)そんなの、わかってるよ……

宇本つくし:………あの、駒井のことでしょう?先生。

先生:ええ。今学校に警察がきていましてね。

鈴木あやめ:――っ!

先生:駒井さんのことで刑事さん達が皆さんにお話をききたいと……

宇本つくし:刑事?先生、俺たちもう十分警察には話しましたよ

先生:ええ、ですから(これは)

坂本なづな:(かぶせて)やっぱり……やっぱり、そうなんだ……みどりちゃんは殺されたんだ!そうなんでしょう?先生!だから刑事さんがここまで来るんでしょ?

林かのえ:ちょっと、なづちゃん。

坂本なづな:おかしいと思ったんだ!みどりちゃんが事故で死ぬはずないもん!だれ?誰にころされたの!

林かのえ:落ち着いて、ね。

坂本なづな:だってかのちゃん!

先生:落ち着いて下さい、坂本さん。説明ができません。

坂本なづな:だって!だってぇ……(すすり泣き)

林かのえ:……すみません、先生。なづなはまだ駒井のショックがぬけてないんです。

先生:そのようですね。駒井さんが亡くなってから、まだ1週間。みなさんの気持ちが落ち着かないのも当然のことだと思います。

鈴木あやめ:……じゃぁなんで、警察なんかを学校にいれたんですか。

宇本つくし:おい鈴木、目上の人にそんな口のきき方……

鈴木あやめ:先生は学校にいる間、わたし達の保護者でしょう?それなのに生徒を警察に売るだなんて信じられない!しかもみどりが死んでからまだ1週間しかたってないのに!

宇本つくし:売るって、お前なぁ。

先生:みなさんのお気持ちは当然のことと思います。ですから……

鈴木あやめ:先生はわたし達生徒のことなんかどうでもいいんだ!仕事だからどんなことでもするんでしょう!やっぱり大人は信じられない!

宇本つくし:鈴木っ!言い過ぎだ!

鈴木あやめ:……っ

先生:ありがとうございます、宇本くん。いいですか、鈴木さん、坂本さん。話は最後まできいてください。

先生:私は昨日、警察の方から電話で説明をうけました。先週、廃墟ビルから転落死した駒井みどりさんの件について、仲のよかった貴方たちに何か知っていることがないか、っと。一度個別で聞いたことを踏まえて、もう一度皆さんで話をお伺いしたいとのことでした。

宇本つくし:………

先生:私達教員は皆で相談して、捜査に協力すべきとの結論に達しました。駒井みどりさんの死は、ひどく衝撃的でお友達の皆さんの悲しみは、まだ癒えていないでしょうが、それでも駒井みどりさんの死の謎の解明を、望むご家族の方がいるからです。

鈴木あやめ:……(小声で)うそよ。

先生:(無視して)しかし、そのまま刑事さんとあなた方を引き合わせても、混乱もあるでしょう。まずは担任の私があなた方のお話をきいて、刑事さんにお伝えしたいと思います。みなさん、とても辛い時期とは思いますが、駒井みどりさんの為にも、協力していただけますね?

宇本つくし:……ええ、ええ。もちろんです先生。それが正しいことなら協力します。

鈴木あやめ:でた。宇本のいい子きどり。

宇本つくし:なんだよ。

鈴木あやめ:ふん。

林かのえ:僕は別に。……話すようなことなんて、もうないけど。

坂本なづな:先生、もし犯人わかったら私にもおしえてくれますか?私、みどりちゃんを殺した人がゆるせないっ

先生:坂本さん。私は教師として貴方たちを守る義務がある。それは貴方の身体や精神だけではなく、これからの将来も当然含まれます。その情報が貴方の将来に暗い影を落としかねないとわかっている以上、お答えすることはできません

坂本なづな:そんなっ!みどりちゃんは私たちの友達です!

先生:これは決定事項です、坂本さん。

鈴木あやめ:なんの権利があってそんなこというのよ……

宇本つくし:鈴木。

鈴木あやめ:………なによ(つくしをにらむ)

宇本つくし:………

林かのえ:あー……っとぉ。それで、先生は僕らに何がききたいんですか。

先生:そうですね……まず、駒井さんが亡くなられた廃ビルですが。あの場所はみなさんご存じでしたか?

宇本つくし:知ってました。あそこは駒井の父親の持ち物だって聞いてます。

坂本なづな:私たち、みどりちゃんからあそこの鍵もらってて。みんなの秘密基地ねって…

先生:そうでしたか…(溜息)あそこは取り壊し予定の立ち入り禁止区域でした。どのような手段でみどりさんがその鍵を手に入れられたかわかりませんが、今後は使用されないようにお願いします。

宇本つくし:なっ!

坂本なづな:ええ!?そうだったんだ!さすがみどりちゃんっ

宇本つくし:何をいってるんだ!こんなの犯罪だろうっ!正しくない!

鈴木あやめ:あんたがそういうから、みどりも黙ってたんでしょ

宇本つくし:それが正しくないんだ!

鈴木あやめ:正しい正しいって、あんたいつもそう。どうしてみどりがこんなのを構ってたかわからないわ

宇本つくし:駒井は本来正しい人間なんだ。お前みたいなのがいるから、こんなこともするんだろう!

鈴木あやめ:どういう意味よ、それ!

坂本なづな:や、やめてよぉ、あやめちゃん。つくしくん……

先生:宇本くん、落ち着いてください

宇本つくし:わかってます!

林かのえ:鈴木、おちついてよ。話が進まない。

鈴木あやめ:わかってるわ!

   一呼吸おいて。

先生:話を戻しますが…あの廃ビルで、みなさんはよく集まっていらしたんですか?

坂本なづな:そ、そうです……放課後あそこに集まって、ゲームをしたり、何時間もしゃべったり……あの日も、委員会が終わったら寄るねっていって別れて……

林かのえ:僕は新作DVDのレンタルが始まってたから、ビルには直行せずに町に寄りました。ビルに着いたのは一番遅かったかな。

鈴木あやめ:私は一度家に帰ったわ。あそこ埃っぽいから、いつも着替えてからいくの。ビルに着いたのは一番最初、って思ってたけど……屋上にみどりがいたみたいね。

宇本つくし:俺もビルに着いたのは林とほぼ同時だったな。あの日は用があったから、一度家に帰ったんだ。

鈴木あやめ:何の用?

宇本つくし:鈴木には関係ないだろ

鈴木あやめ:はぁ?それを聞くのが目的でここに集まってるんでしょ?先生、そうですよね?

先生:そうですが……話が進まないので、私が聞くまで黙ってていただけませんか。

宇本つくし:ふふん

鈴木あやめ:うぐっ(悔しくて唸る)

先生:それで、皆さん悲鳴をききつけて、廃ビル前に集合した、と……第一発見者は坂本さんでしたね。

坂本なづな:は、はい。いつものように委員会が終わってから、ビルに向かってたら、ドシャってすっごい音が聞こえて。なんだろうって観にいったら、そこでみどりちゃんが……みどりちゃんがぁ…うっ(吐き気を催してえづく)

林かのえ:なづちゃんっ!

坂本なづな:う、うぇぇ…みどりちゃんが、みどりちゃんがっ

林かのえ:おちついて、なづちゃん。だいじょうぶ、だいじょうぶだよ

坂本なづな:かのちゃん、みどりちゃんが死んじゃったよぉっ

林かのえ:なづちゃん大丈夫だよ。僕がここにいるよ。僕が君の傍にいるから。

坂本なづな:どうして、どうして死んじゃったの。どうしてぇっ

鈴木あやめ:なづな……

先生:……すみません。少し、休憩をいれましょうか。

宇本つくし:いえ、先生。ちょっと待ってくれませんか。

先生:はい?

宇本つくし:おい、坂本。お前に聞きたいことがある。

鈴木あやめ:ちょっと!今話を聞ける状態じゃないの見てわからない?

宇本つくし:いいから鈴木は黙っててくれ。林、お前も坂本を離せ。

林かのえ:いやだ。

宇本つくし:お前まで何いってんだ……はぁ、じゃぁそのままでいい。坂本、演技はやめろ。

林かのえ:……は?

坂本なづな:(すすりなき)

宇本つくし:俺は知ってるんだよ。あの日俺はちょうど坂本の後ろにいたからな。お前は気づかなかったようだが。

鈴木あやめ:そ、そんなこと今まで一言もっ!

宇本つくし:いいから黙れ!

鈴木あやめ:……っ!

宇本つくし:坂本。あの日、お前は死体を前に何をしていた?

鈴木あやめ:何がいいたいの……なづなは悲鳴をあげてたじゃない。それを聞いて私たちはロビー前に集まったんでしょう?

宇本つくし:俺と林はな。ああ、お前は何も気づかず、2階のたまり場でゲームをしていたんだっけ?

鈴木あやめ:うっ

坂本なづな:(すすりなき)

林かのえ:宇本は何が聞きたいの?

宇本つくし:俺は坂本のすぐ後ろを歩いていた。だから知ってるんだよ。物音をきいて、駒井のあの姿を初めて見た時の坂本の反応を!坂本は悲鳴なんてあげちゃあいない。あれは演技だ。そうだろ?坂本は駒井をみて、声も出さずにしゃがみこんでいた。腰をぬかしたのか?じゃあどうしてわざわざ悲鳴をあげたりした?駒井の死体をみた後の数分間、お前は何をしていた?

坂本なづな:(すすりなき)

鈴木あやめ:…………

林かのえ:なづちゃんは駒井が死んだとき現場にいなかった。なら、それと駒井の死に関係はないよね?余計なこときくなよ

宇本つくし:あるに決まっているだろう!坂本は何かを隠してる!この件にかかる「何か」をだ!わかってるだろう、林!

林かのえ:うるさい、なづちゃんをいじめるな!

宇本つくし:いじめてなんていない!これは正当な疑問だ!やましいことがないなら応えられるはずだ!

坂本なづな:(すすり泣きを続ける)

林かのえ:なづちゃんは弱いんだ!ショックで少し呆然としてただけだろ!(大体お前こそ)

宇本つくし:(かぶせて)じゃああのわざとらしい悲鳴は何だって言うんだ!言えよ、坂本!あの日あの廃ビル前で!お前は駒井の死体に何をしていた!いえ!

坂本なづな:…………(すすり泣きをやめて、つくしをにらむ)

先生:……今宇本くんが言っていることは本当ですか、坂本さん?

坂本なづな:…………

林かのえ:なづちゃん、言いたくなかったら言わないでいいんだ。僕が君を守ってあげる

坂本なづな:…………いて

林かのえ:え?

坂本なづな:どいて、かのえ

林かのえ:は、え……なづ、なづちゃん…?

先生:坂本さん。貴方は死体を前に、数分間しゃがみこんでたのですか?

坂本なづな:……はい、そうです。先生。

宇本つくし:ほら、やっぱりな

鈴木あやめ:……なづな!?

坂本なづな:なぁに、あやめちゃん。

鈴木あやめ:なづな、まさか貴方……

坂本なづな:やだぁ、ちがうよぉ、あやめちゃん。変な勘違いしないでね。私みどりちゃんを殺した犯人を本当にゆるせないの。これはその証。

   なづな、懐から赤いハンカチを取り出す。

鈴木あやめ:赤い、ハンカチ……?

宇本つくし:なんだ、この匂い……

先生:まさかと思いますが、それは……

坂本なづな:うん、そうです。これにみどりちゃんの血を染み込ませたんです。これで私とみどりちゃんはいつも一緒。永遠に一緒なの。ほら、歯だってある。

鈴木あやめ:ひっ!

先生:……なるほど。しゃがみ込んでいた理由はわかりました。わざわざ悲鳴をあげたのは何故ですか?

坂本なづな:皆に教えてあげようと思って。それだけ、です。

宇本つくし:信じられないな。おまえ、真犯人の共犯なんじゃないのか?

坂本なづな:バカなの?

宇本つくし:は!?

坂本なづな:男も女もバカばっか。みどりちゃんだけだよ。みどりちゃんだけが特別だったの。みどりちゃんは私の神様だったんだよ。なのに、なのに……ゆるせない。

林かのえ:なづちゃん……

坂本なづな:ね、かのえはわかってくれるよね。一緒にみどりちゃんを殺した奴をみつけてくれるよね。みどりちゃんが事故でしぬはずないもん。ましてや自分で、なんてありえないもんね。かのえならわかってくれるよね。

林かのえ:もちろんだよ、なづちゃん

宇本つくし:そ、そんなこと口からならいくらだって言える。坂本、(お前は)

林かのえ:(かぶせて)そういう宇本も嘘ついてるよね。

宇本つくし:なにいってんだよ。

林かのえ:なんだっけ?『俺は坂本のすぐ後ろを歩いていた』だっけ?そんなこと、あるわけないよ

宇本つくし:……っ!

林かのえ:なづちゃんの後ろを歩いてたのは僕だもの。宇本じゃないよ。

宇本つくし:ちがう!

林かのえ:違わない。

宇本つくし:違う!証拠でもあるのか!

林かのえ:違わないよ。証拠、証拠か……

坂本なづな:見せたらいいじゃない

鈴木あやめ:え?

坂本なづな:かのえの気持ち悪いとこ、皆にみせてあげなよ

鈴木あやめ:なづな、それはどういう……

林かのえ:(ためいき)………なづちゃんが、そういうなら。

かのえは携帯を操作し、つくしに差し出す。

林かのえ:ほら、証拠。

宇本つくし:――っ!?これ、は……

鈴木あやめ:なに?携帯になにが映ってるのよ?

先生:宇本くん、私にもみせてくれますか?

宇本つくし:……は、い。

鈴木あやめ:なんなんですか、先生?

先生:おやこれは……坂本さんですね。

鈴木あやめ:え?

先生:勉強する坂本さん、通学する坂本さん、授業を受ける坂本さん……坂本さんの写真ばかりだ。ああ、これは事件の日の写真ですね。

林かのえ:ええ、なづちゃんの後ろ姿の横にビルがみえるでしょう?それが例の廃ビルです。

先生:なるほど。確かにそのようだ。こちら、お返しいたします。

林かのえ:はい。

鈴木あやめ:え……まって。まってどういうこと?え、これってつまり、

坂本なづな:かのちゃんは私のストーカーなの。

林かのえ:ちがうよ、護衛だよ。

坂本なづな:護衛なら隠さないでしょ。自覚あるからみんなに隠してた。そうでしょ?

林かのえ:あははは

宇本つくし:きもいな、お前……頭おかしいんじゃないのか。

林かのえ:宇本に言われると腹がたつな。お前も十分イカレてるくせに。

宇本つくし:なっ

林かのえ:ともかく。これで僕の方が正しいってわかりましたよね、先生?

先生:ええ。林くんと坂本さんの関係については今後ゆっくりカウンセリングしていくとして……本件については林くんの主張の方に正当性がありますね。

宇本つくし:………

鈴木あやめ:ちょ、ちょっと、どういうこと?でもあんた、なづながしゃがんでるとこみたんだよね?なづなもそれは認めてたし、それは嘘じゃないんでしょ?

林かのえ:そうだね、でもなづちゃんの背後には僕がいた。だから、彼女の背後からみたわけじゃない。あの廃ビルの周辺は他にも高いビルが乱立していて見通しも悪いし、道も狭い。

先生:それでは、一体宇本くんはどこから坂本さんを見ていたのか、ということになりますが……宇本くん、話してくれますか?

宇本つくし:…………

林かのえ:まぁ、考えられる場所は一つしかないよね。

先生:確か、あのビルには表玄関の他に勝手口がありましたね。

鈴木あやめ:2階のたまり場は、階段に面していないから、踊り場を通っても気づくことは難しい……

林かのえ:階段をおりて、こっそり勝手口から出たら、後から来たことを装うことぐらい簡単だろうね。

  間。

坂本なづな:お前か?

宇本つくし:………………

坂本なづな:お前がみどりちゃんを殺したのかぁっ!

宇本つくし:ちがう!

坂本なづな:嘘をつくな!ならお前はどこから私をみていた!あのビルの屋上以外の、どこで!!

宇本つくし:さ、3階だ!

坂本なづな:さんかい?つまらない嘘をつくな!この人殺し!おまえが、おまえがみどりちゃんを!!殺してやるっ!

先生:林くん、坂本さんをとめてください!

林かのえ:いやです。

先生:……っ!鈴木さん、手伝ってください!

鈴木あやめ:は、はいっ

坂本なづな:はなせぇっ!はなせよっ、こいつがみどりちゃんをころしたんだ!こいつがっ

鈴木あやめ:なづな、おちついてよ。なづな!……痛っ

宇本つくし:ちがう、本当に違うんだ。俺じゃない。俺のせいじゃない……

坂本なづな:はなせよぉ!みどりちゃんの仇。みどりちゃんの仇をうたなきゃっ

先生:落ち着いてください、坂本さん!あー、もうこの件はあとで親御さんに言いますからね!林くんの件もですよ!

林かのえ:よしよしなづちゃん。君の願いは僕が叶えてあげるからね。

先生:!?宇本くん、避難してください!鈴木さん、林くんをとめてください!

鈴木あやめ:え、えええ!?

   間。

先生:(深いためいき)とりあえず、坂本さんも落ち着いたことですし……宇本くん、話してくれますか?

鈴木あやめ:お願いだからもう暴れないでね……特に林。

林かのえ:あはははは

坂本なづな:…………話せよ、宇本つくし。お前はみどりちゃんに何をした。

宇本つくし:……俺は、俺は駒井を殺してない

坂本なづな:(舌打ち)

宇本つくし:本当なんだ!確かに俺は嘘をついた。あの日、あの廃ビルに一番最初に着いたのは俺で、次に駒井がきた。俺は駒井に聞きたいことがあって、屋上で話をした。それで…その後少し気まずくなって、2階のいつものたまり場に戻る気にもなれずに、3階の空き部屋から外を眺めていた。本当にそれだけなんだ!

坂本なづな:なぜそれを隠した?

宇本つくし:それは………

林かのえ:やっぱり君が?

宇本つくし:ちがう!俺のせいじゃない!俺のせいで駒井が自殺するはずない!

鈴木あやめ:(息をのむ)

先生:自殺……?穏やかではない言葉ですね。宇本くん、君は駒井さんに何を話したのですか?

宇本つくし:それは……おい、鈴木。

鈴木あやめ:な、なによ。

宇本つくし:悪く思うなよ。俺は言うからな。

鈴木あやめ:はあ?なんのことよ。

宇本つくし:しらを切るのか。

鈴木あやめ:いやだから何のことだっていうのよ。私あんた達みたいにやましいことなんてないわ

宇本つくし:………救えないクズだな

鈴木あやめ:なんであんたにそこまで言われないと(いけないのよ)

坂本なづな:(かぶせて)いいから言え!宇本つくし!!

宇本つくし:駒井は売春をしていた

坂本なづな:…………え、

宇本つくし:手引きしたのは鈴木だ。あのビルの鍵も、駒井をよく『利用』する客から手に入れたものだ。

坂本なづな:………うそ、うそよ

宇本つくし:俺もそう思いたかった!でもみたんだ。駒井が派手な格好をして、おっさんとラブホテルに入っていくところを。きいたんだ、駒井から。あの廃ビルは『お得意さん』から借りてるって。駒井がいったんだ!!

坂本なづな:そんな、ちがう。みどりちゃんはそんなことしない。ちがう。

林かのえ:なづちゃん

坂本なづな:ちがうちがう、ちがうよね?ちがうよね、そう思うよね、かのちゃん!

林かのえ:おいで、なづちゃん。

坂本なづな:かのちゃぁん。

先生:………鈴木さん、今の話は本当ですか?

鈴木あやめ:は?いえ、何を言ってるんですか。そんなわけないでしょう!

宇本つくし:だが、駒井がそう言っていた。

鈴木あやめ:なんて?なんて言ったのよ。

宇本つくし:『あやちゃんがいつも連絡をくれる』っと。

鈴木あやめ:あ、ああ、合コンのこと?確かにちょっと年上の男性と合コンを組むことはあるわ。でもせいぜい大学生とよ。まぁ、人が足らなくて社会人が混じることもあるけど。

宇本つくし:『お金の計算はあやちゃん。交渉とか難しいことは全部やってくれるの』とも言っていたな。

鈴木あやめ:そんなの、合コンの参加費に決まってるでしょ?言いがかりやめてくれない?

宇本つくし:つまらない言い訳だな。駒井はすぐ認めたぞ

鈴木あやめ:(舌打ち)あの馬鹿……

宇本つくし:あの日、俺は駒井にもうこんなことはやめろと言った。鈴木と縁を切ろとも。でも駒井はわかってくれなくて、それで……

鈴木あやめ:屋上からみどりを突き飛ばしたの?

宇本つくし:そんなわけないだろう!口論になっただけだ。最後まで意見はまとまらなかった。

鈴木あやめ:ふーん。でも、証拠はないのよね?

宇本つくし:だ、だが、俺は間違ったことはしない!

鈴木あやめ:自殺を心配するくらい、みどりを追い詰めたのに?

宇本つくし:ぐっ

先生:鈴木さん、こたえてください。本当に売春はしてないのですか?

鈴木あやめ:してません。

先生:宇本くんは、ああ言ってましたが?

鈴木あやめ:証拠はないですよね?ああ、そうだ。宇本がみどりを殺してない証拠もないですね。もしかしたらみどりを殺して、その罪を私になすりつけたくて、こんなこと言ってるのかしら。その可能性も十分ありますよね?

先生:……では、携帯をみせてもらえますか?

鈴木あやめ:……っ!

先生:先ほど宇本くんは、鈴木さんが売春のセッティングをしてくれると駒井さんが言っていた、といいましたね。でしたら携帯に顧客名簿があるはず。なかったら貴女の主張を信じましょう。見せてくれますか?

鈴木あやめ:…………

坂本なづな:あやめちゃん見せるよね?できるよね?また宇本つくしが嘘ついてるんでしょう?ねぇそうでしょう?みどりちゃんが売春なんてするはずないよね?

林かのえ:そうだね。先生、必要以上に生徒の携帯を漁ったりはしないでしょう?

先生:ええ、もちろん。

宇本つくし:見せろよ、鈴木。お前が間違ってないというなら。

鈴木あやめ:…………なによ。

宇本つくし:……………

鈴木あやめ:なによなによなによ!何が悪いっていうの?若い私たちが、持てる武器を最大につかって何が悪いっていうの?悪いのは私じゃない!私たちを買う大人たちじゃない!

坂本なづな:……あやめ、ちゃん。

鈴木あやめ:私はできることをしただけ。なによ。あんたたちだってあのビルで散々遊んだじゃない。私とみどりが稼いだお金でカラオケいったこともあったじゃない。今更そんな目で私をみるな!

坂本なづな:じゃぁ、やっぱりみどりちゃんは……やだぁ。ああ、かみさま…

鈴木あやめ:ぷっ。なによかみさまって。なづな、あんたって本当に気持ち悪いわ。みどりは普通の女の子よ。勝手に神聖視して、勝手に幻滅して、ばかみたい。

林かのえ:なづちゃんを悪くいうな。

鈴木あやめ:はぁ?事実でしょ。林、あんたには自分ってものがないの?いつもいつもなづな、なづな。犬みたいについてまわって。他人に依存した生き方はさぞ楽でしょうね。

宇本つくし:鈴木、お前は間違ってる!

鈴木あやめ:自分は間違ってないとでもいいたいの?結局みどりはどうして死んだのかしら?事故かしら?自殺かしら?ねぇ、宇本つくし。お前はどう思うの?お前は自分が間違っていないと本当に思っているの?

先生:(深いためいき)……わかりました。鈴木さん、今後はご家族とご一緒に面談をいたしましょう。林くんと坂本さんもです。宇本くん、言いづらいことをありがとうございました。この件は、私共教師で一旦もちかえります。

鈴木あやめ:はははは、やっぱりそうなるのね!大人はいつもそう。結局臭いモノには蓋をして、私たちの苦しみに寄り添うこともない!私は悪くないわ!悪いのは大人たちよ!

〇場面転換。先生のモノローグ。

先生:生徒が帰った応接室で、私は頭を抱えながらメモを眺めていた。これから職員室にもどり、教頭に報告して書面にまとめなければならない。だが一体これをどうまとめたものか……頭は重くなるばかりだ。

先生:駒井みどり、か。

先生:初めて死なせてしまった私の生徒。烏合の衆の生徒の中で、ひと際可憐にさえずるこまどり。結局のところ、彼女の死を起因としてあの4人の関係はバラバラに崩れてしまった。そして、この私の人生も。

先生:すべては彼女が悪いのだ。

   間。

駒井みどり:先生、呼び出してしまってごめんなさい、私先生にご相談したいことがあって……

先生:そう言って、いつも私を頼るくせに。

駒井みどり:え、先生それどういう意味?やだわ、私たち良いお友達でしょう?

先生:すり寄ってきては、突き放して。

駒井みどり:あら、先生?どうしてここへ?

先生:雑多な男どもに身を任しても、私の手をとってくれない。

駒井みどり:やだ、先生やめてっ

先生:すべて彼女が悪いのだ。すべてすべてすべて。

   長めの間。

先生:(長いため息)目撃者はなし、か。よかった、よかった。面倒ごとは増えたが、死体は少ないほうがいい。

先生:誰がころしたクックロビン。それは私と、すずめが言った。……なんてね。

   おしまい



※補足。クックロビンはこまどりのこと。「誰がこまどり殺したの」というイギリスの民謡が元ネタ。

※登場人物の上2文字と下2文字、上2文字と下1文字、ないし上下1文字ずつとると、この民謡の登場キャラクターになります。

※駒井みどり⇒こまどり、鈴木あやめ⇒すずめ、坂本なづな⇒さかな、宇本つくし⇒うし、林かのえ⇒はえ。ここらへんは小ネタなので、こんな民謡あるんだなーって認識があれば大丈夫です。