Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

なるの台本置き場

【男1:女1】「もしもし」(逆転版)

2022.05.20 12:00

男1:女1/時間目安15分



【題名】

「もしもし」(逆転版)



【登場人物】

男:死んだ恋人を忘れられずにいる

女:10年以上前に事故で他界



(以下をコピーしてお使い下さい)


「もしもし」作者:なる

https://nalnovelscript.amebaownd.com/posts/34457061

男:

女:




-------- ✽ --------






001 女N:最近とある公衆電話が話題となった。その公衆電話から深夜0時に電話をかけると霊界に繋がる、という事らしい。周りには街灯1つしかなく、近くの住宅までは歩いて15分かかる。そんな迷信とも思われる噂を信じて電車に揺られる男がいた。受話器を上げ、五円玉を一つ入れる。1・4・1・0・6。



<電話が鳴る>



002 男:もしもし……?


003 女:……もしもし。久しぶり。



004 男N:今日も冥界への電話がひとつ。



(間)



005 女:もしもーし。聞こえてる?


006 男:……うん。聞こえてる。


007 女:これどういう原理で繋がってるの?


008 男:俺もわかんない。


009 女:え、まさか死んだとかじゃないよね?


010 男:違う。俺は生きてる。


011 女:それなら良かった。


012 男:うん。……公衆電話に五円玉入れたらなんか、繋がった。


013 女:公衆電話に五円玉って入るんだっけ?


014 男:今かけてる電話は五円玉しか入らないらしい。


015 女:へぇ、面白いね。ご縁が繋がりますようにーとかそういうやつかな?……もしもーし?


016 男:あっ、ごめん。まさか繋がると思ってなかったから。その、結構びっくりしてる。


017 女:まぁそうだよね。私も電話がかかってくるとは思ってなかった。


018 男:うん。……そっちはどんな感じ?


019 女:普通だよ。世界はそんなに変わらないかな。仕事もしてる。


020 男:そうなんだ。なんの仕事してるの?


021 女:魂の管理の仕事。


022 男:どんな仕事?


023 女:そっちでいうカウンセリングみたいな。疲れてる魂を癒して転生の手伝いをする仕事。


024 男:なれたんだ、カウンセラー。


025 女:うん。


026 男:良かったね。なりたいって言ってたもんね。


027 女:まぁ大変なことも多いけど、それなりに楽しくやってるよ。……そっちは変わらず?


028 男:ちゃんと第一志望の会社入った。


029 女:え、凄いじゃん!


030 男:そこで今部長やってる。


031 女:新卒で?!え、それ凄くない?!


032 男:新卒なわけないじゃん。もう10年だよ。


033 女:あ、そっか。……ごめん。


034 男:謝らないで。



(間)



035 女:元気にしてる?


036 男:してるよ。


037 女:ちゃんとご飯食べてる?


038 男:うん。食べてる。


039 女:料理、少しはできるようになった?


040 男:今は家に作ってくれる人がいるし、俺も前よりかは作ってる。


041 女:もしかして結婚した……?


042 男:してない。


043 女:そ、っか。


044 男:してて欲しかった?


045 女:うーん。半々かな。結婚してて欲しかったとも思うけど、結婚してなくて良かったと思う自分もいる。


046 男:そう。……そっちこそ恋人出来た?


047 女:出来ないよ。なんだろうなぁ。死後の世界だからかもしれないけどさ、不思議とこっちで出会う人を好きになるとか無いんだよね。


048 男:そっか。


049 女:新しい恋人でもいた方が良かった?


050 男:聞くなよ、そういう事。


051 女:どうなの?


052 男:そうだな……新しい恋人でもいた方が吹っ切れたかもしれない。


053 女:……ごめんね。


054 男:あの時、一緒にそっちに行けたら良かったって。ずっと思ってた。


055 女:そんな事言わないでよ。


056 男:恋人が死んだら皆そう思うんじゃない?


057 女:……そう、か。


058 男:無我夢中で仕事してさ。……死なないように必死だった。


059 女:こうやってまた話すのがこっちじゃなくて良かった。……よく耐えたね。


060 男:手繋いだ時の柔らかい手とかさ。体温が高くて布団替わりになる温もりとかさ。……もう全部忘れた。


061 女:うん。


062 男:……どうして先に逝ったの。


063 女:先に逝くつもりなんて無かったんだけどね。


064 男:あの日行く予定だったカフェ、もう潰れちゃったんだよ。


065 女:ごめん。


066 男:いつもより気合い入れて髪の毛のセットしたんだけどな。


067 女:うん。


068 男:なんで事故にあったのがお前だったんだよ。


069 女:小さい子がね、ボールを追いかけて車道に飛び出したの。そこに車が来て、それを助けた。それだけだよ。


070 男:それで死んだだろ。……死んじゃ意味ない。


071 女:それで小さい子は死なずに済んだ。痛い思いもしてない。違う?


072 男:どこまでお人好しなんだよ。


073 女:子供は宝だからね。


074 男:本当に好きだね、子供。


075 女:うん。


076 男:心残りはない?


077 女:今無くなった。


078 男:どういう意味?


079 女:何も言わずに置いてきたのが心残りだったから。それも今叶った。もう心残りはないよ。


080 男:そう。


081 女:何か言いたいことは?


082 男:なんでそんな急かすような言い方するんだよ。


083 女:たぶんもうすぐ電話切れちゃうから。


084 男:嫌だ。


085 女:……ごめんね。


086 男:……そっちから俺のことって見えるの?


087 女:うん。見える場所があるよ。


088 男:じゃあ見てて。俺が幸せになるところ。一人でも大丈夫ってところ、ちゃんと見てて。


089 女:分かった。……でもさ、


090 男:うん。


091 女:一人じゃなくて、誰かと一緒に幸せになって欲しいな。


092 男:……どうして?


093 女:一人で生きるのが上手じゃない人だから。


094 男:俺が?


095 女:そうだよ。色々溜め込んで壊れちゃうから。無理に作れとは言わないけど、寄りかかれる人を見つけられたらいいなって思うよ。


096 男:寄りかかれる人……か。


097 女:心当たりがあるんじゃない?


098 男:ないわけじゃないけど……。


099 女:そっか。……よかった。一人じゃないなら。


100 男:うん。寄りかかれるかは分からないけど。


101 女:きっと大丈夫。私もついてるから。


102 男:ちゃんと後ろにいてね。


103 女:分かったって。


104 男:……約束な。


105 女:うん、約束。……じゃあそろそろ。


106 男:うん。……じゃあ。


107 女:またね。


108 男:また、ね。



<電話が切れる>



109 女M:またご縁がありますように。愛してるよ。



110 男M:受話器を置いて、外に出る。暗さが嘘だったかのように、空には朝日が昇っていた。振り返ると、電話ボックスは消えていた。



111 女N:今日もどこかで、冥界への電話がひとつ。



(終)




追記.

「眠りのクラヴァット」という台本も合わせてお読み頂くと、少し印象が変わるかもしれません。