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七枝の。

台本/ララバイ・ハミングバード(男2)

2022.05.23 01:17

〇作品概要説明。

主要人物2人。ト書き含めて約8000字。滅亡した世界でひまわり畑を探しに行くだけの話。


〇登場人物

千隼:脱走者。

飛鳥:死んでる。


〇ご利用前に注意事項の確認をよろしくお願いいたします。

https://natume552.amebaownd.com/pages/6056494/menu

作者:七枝


本文




〇本文ここから。Mはモノローグ。

千隼:(M)大多数の人類が消えて233日。

千隼:(M)彼は唐突に、俺の元へ戻ってきた。

飛鳥:やあ、ちはや。

千隼:あすか……?

飛鳥:なっさけない顔。

千隼:おまえ、どうして?

飛鳥:ん~……ほら、お盆だから?帰ってきちゃった。

千隼:はぁ!?

飛鳥:ね、どうしたの?防護服もなしで。夜逃げ?

千隼:………みりゃわかるだろ。

飛鳥:せっかくみつけたコロニーだったのに。

千隼:………

飛鳥:いいじゃん、すこしくらいさぁ。我慢しなよ。

千隼:……いやだ。

飛鳥:どうしても?

千隼:どうしても。

飛鳥:そ。きみ、しぬよ?

千隼:覚悟の上だ。一応準備はしてる。

飛鳥:ほうほう。すっごい食料つめこんでるぅ。こんだけ盗んだらさぞ恨まれそうだね。

千隼:戻る気はないからな。

飛鳥:そりゃそうだ。これで戻ったらただの馬鹿でしょ。

千隼:わかってる、っと!

〇千隼、飛鳥のすぐ横の壁を蹴る。崩れた壁の中にバギーが隠されている

飛鳥:うひゃあ!な、なに!!

千隼:移動手段。

飛鳥:これバギー?えー!かっちょいい!

千隼:だろ。

飛鳥:いいなぁいいなぁ、どこからみつけてきたんだよ、こんなん。

千隼:高橋から。

飛鳥:え!?

千隼:ばらして、ここで組み立てた。

飛鳥:ちょっ、まてよ。あの高橋から盗んだの?君ずいぶんと大胆にやらかしたね!?

千隼:いいだろ、これくらい。正当な取り分だ。

飛鳥:なんの?

千隼:……おれの命の?

飛鳥:きみの命なんてそんな上等なもんじゃないだろ!(わらう)よっと。

〇飛鳥、バギーにのりこむ。

千隼:……まて、お前ついてくるのか?

飛鳥:あったりまえ~お盆が何日あると思ってんの。

千隼:他行けよ。家族とかいるだろ。

飛鳥:ざんね~ん。きみ以外全員死んでますぅ

千隼:はぁ?じゃあ天国で休んでいればいいだろ?

飛鳥:ひゅ~!ちぃくんは僕が天国行けるタマだとおもってたの?

千隼:地獄へかえれ!

飛鳥:はははっ……ほら。

千隼:………

飛鳥:逃げるんでしょ?はやくいこうよ。

千隼:………おう。

千隼:(M)幽霊なのに。死んでいるはずなのに。飛鳥の手は温かった。

飛鳥:さぁて!人生最期の旅にしゅっぱつしんこーだ!

千隼:(M)そうして、俺は逃げ出した。人類数少ない生存圏【エリア20】から外の世界へ。

千隼:(M)砂塵渦巻く死の世界へ、亡くなったはずの友人と共に。

〇場面転換。バギーに乗りながら話すふたり。

飛鳥:それでさぁ、どこに行くの?

千隼: ………

飛鳥:ちーはーや。

千隼:ちょっ、つつくな!

飛鳥:答えてくれないそっちが悪いんだろ~

千隼:……ナヨロ。

飛鳥:ナヨロ~?なんでまた。

千隼:おまえ、見たいっていってただろ。

飛鳥:へ?

千隼:ナヨロのひまわり畑。

飛鳥:………もうないよ。

千隼:わかってる。

飛鳥:馬鹿だなぁ、全部砂の中だよ。

千隼:それでも行くんだ。

千隼:(M)ハンドルを切って、砂塵(さじん)の中を突っ切る。後ろにいる飛鳥から、呆れたようなため息が聞こえた。

   間。

〇世界観説明と回想。

千隼:(M)いつからか、は正確にはわからない。そのころの俺は平凡な学生だったし、ニュースに興味なかったから。でもいつからか、異常気象がやたらと取り沙汰にされるようになって、乾燥注意報が乾燥警報になるのも、日常になっていった。

飛鳥:あっちぃ~

千隼:どけ、邪魔だ。

飛鳥:だって夜、眠れないんだもん。寝苦しくてさぁ~

千隼:まぁ、たしかに。こう熱いとな……

飛鳥:今年はホワイトクリスマスはなしかな~

千隼:何言ってんだ。年齢=恋人いない歴のくせに。

飛鳥:うっせ。

千隼:事実だろ。

飛鳥:いやガチな話。最近雪どころか雨もみてないよね。

千隼:その話はもう聞き飽きた。

飛鳥:僕も。いったい、どうなっちゃってんだろうね~

千隼:原因不明だってニュースでは言っていたが。

飛鳥:「地球が悲鳴をあげてるんですぅ」

千隼:うっわ。

飛鳥:ゴキブリみたような反応しないでよ。

千隼:例の街頭インタビューだろ。

飛鳥:そうそう。

千隼:あーいうやつらの気が知れんな。馬鹿か?

飛鳥:信じてる人もいるんだから、そう毛嫌いしなさんな。

千隼:距離を置くのは間違ってないだろ。あいつら絶対なにかやらかすぞ。

飛鳥:そーね。

千隼:不穏なニュースばっかだな……

飛鳥:ねぇねぇ、どうする?核とか落ちたら?

千隼:なんだそれ?飛躍しすぎじゃないか?

飛鳥:ほら、汚物は消毒だ~!みたいなの。

千隼:人類が死ねば地球が助かる~!って?

飛鳥:そう。

千隼:アホか。

飛鳥:え~?

千隼:起こるわけないって、そんなこと。

〇回想おわり。

千隼:(M)起こった。そんな「アホなこと」がいともたやすく。原因は、一国の首脳がそんな「アホなこと」を信じたからだった。

千隼:(M)あとは転がる石のように単純だ。俺達人間の住めるところはどんどん少なくなっていって、暴動とか犯罪とかも起きて、家族ともはぐれてしまった。

千隼:(M)連絡手段なんてとうに無かった。身寄りもなく、どうしようもなくなった俺は、たまたまそばにいた飛鳥と、避難所を求めてさ迷った。いつかきっと元の日常が戻ってくると信じて。だが、

飛鳥:でもさぁ~……やっぱりダメだったわ。

千隼:なにが?

飛鳥:家族。

千隼:………

飛鳥:死んでた。やっぱり。

千隼:……向こうで会えたのか?

飛鳥:会えてないよ?会えるわけないじゃん、僕地獄行きだって言ったろ。

千隼:ならなぜ?

飛鳥:ふつーこういうのは家族の元にいくもんでしょ。なのに、きみんとこ辿りついたから。

千隼:おまえ方向音痴なんだから、迷っただけだろ?

飛鳥:いやいやきみ、いっつもそう言うけどね、それ僕のせいじゃないから。方向音痴なのはきみだから。

千隼:いやいや。

飛鳥:いやいやいやいや。

千隼:いやいやいやいやいや。

飛鳥:いや、絶対千隼だから!

千隼:飛鳥だろ。何回おまえに付き合ってエリア移動したと思ってんだ。

飛鳥:あれはしつこく襲われるからっ……あ。

千隼:は?

飛鳥:…………

千隼: なぜそれを言わなかった。

飛鳥:………だってさぁ。

千隼:なんだ。

飛鳥:言えるわけないじゃん。いじめられてこわいよ~ピエーンなんてさ。

千隼:……忍耐強いお前のことだ。よほどしつこくされなきゃ逃げたりしないだろ。

飛鳥:わーい、僕ほめられてるぅ?

千隼:ふざけるな。

飛鳥:えへ。

千隼:かわいくねーぞ。

飛鳥:……ほんと、そんなたいしたことなかったんだけどね。初期は避難先から避難するの流行ってたからちょうどいいかな~って。

千隼:こっちはふらふらしっぱなしのお前から目が離せなかった。

飛鳥:………これでも気は使ってたんだよ?あの頃の千隼、いっつもピリピリしてたし、強がってたし?これ以上負担かけちゃいけないだろうな~って。

千隼:そんなやわじゃない。

飛鳥:ただでさえ僕達よそ者でさぁ。どこでもなんとなーく冷遇されてたし?耐えてたわけよ。けなげ~

千隼:そういうのは健気じゃなくてエゴっていうんだ。

飛鳥:むぅ。僕のがんばりをちょっとぐらい褒めてくださいよ~

千隼:しるか。

飛鳥:ちはやぁ

千隼:一人で勝手に死にやがって。

飛鳥:…………

千隼:置いていかれた俺のことも、考えないで。

飛鳥:………ごめんね。

千隼:………ふん

飛鳥:ナヨロはさぁ、ここからどれくらい遠いの?

千隼:無事に道路が使えたら25時間くらい。

飛鳥:意外にちかい!

千隼:だろ。

飛鳥:まって?ナヨロって本州から離れてるよね?フェリー乗らないと無理だよね?

千隼:そこはトンネルがあるだろ。

飛鳥:まさか……

千隼:そう、セイカントンネル。

飛鳥:嘘でしょ!あそこ車通れないじゃん!むりじゃん!

千隼:ふふん。策があるんだ。策が。

飛鳥:策……?

千隼:伊達に人類衰退してるわけじゃないからな。

飛鳥:あ、そっか。誰もいない今なら侵入できる可能性も……?え、でもそれ策っていう?

千隼:(無視して)巡回車とか通ってたスペースもあるだろうから、いけるだろ。

飛鳥:トンネルが崩落してなければ、でしょ。

千隼:そこは運。

飛鳥:運かぁ。

千隼:俺達、運で生き残ってきたようなもんだしな。

飛鳥:僕死んでますけど。

千隼:今ここにいるだろ。

飛鳥:そう思う?

千隼:……え?

飛鳥:今ここにいる僕が、千隼の妄想じゃなくて現実の僕なんだと、本当にそう思う?

千隼:……こわいこという。

飛鳥:えへへへへ!

千隼:笑うな!

飛鳥:げへへへへ!

千隼:笑い方変えればいいってわけじゃないからな!

飛鳥:だって千隼いじめるからさぁ。仕返し。

千隼:いじめてない。

飛鳥:いじめたもん。

千隼:いじめてないって。

飛鳥:いじめたよ。……僕だって、好きで死んだわけじゃないのにさ。

千隼:それは………だが。

飛鳥:………いいよ。気持ちはわかるから。だから化けてでてきたわけだし。

千隼:お前、言い方!

飛鳥:あははははっ!

千隼:(M)古ぼけた地図をたよりに、進路はひたすら北へ。砂塵はひどいし、道路はでこぼこだ。ときおり、人だか動物だかわからない死骸を轢いてしまうこともある。それでも俺は、俺達はひたすら進んだ。戻る道など、ありはしないのだから。

飛鳥:うひゃー!

千隼:ここがセイカントンネル……

飛鳥:線路に侵入するのってめっちゃどきどきしない?

千隼:した。クセになりそうだ。

飛鳥:危ない性癖に目覚めちゃいそうだねぇ!げへへへ!

千隼:黙れ。

飛鳥:は~トンネルを抜けたら、ついに雪国かぁ……

千隼:ワクワクするな。

飛鳥:うん。約束したしね、昔。

千隼:ん?

飛鳥:昔、っていうか一年前?卒業旅行どこいこうか話してたじゃん。

千隼:ああ……

飛鳥:だからわざわざナヨロいくんでしょ?そうでしょ?

千隼:……まあな。

飛鳥:お、素直!

千隼:ここまできて意地を張る方が馬鹿だろ。

飛鳥:だねぇ。命がけできてるわけだし。

千隼:では、ここから約54kmトンネルの旅!と、いきたいとこだが。

飛鳥:だが?

千隼:今日はもう寝るぞ。ここなら雨風しのげるし。

飛鳥:ワ、ワイルドー!

千隼:男ならこれくらい耐えろ。

飛鳥:で、でもさぁ。ほら、道すがら民家あったじゃん。

千隼:あったな、バリケードされてたが。

飛鳥:それをさ、こう、バールのようなもので、くいっと。

千隼:くいっと?

飛鳥:ぐいっかもしれないけど。

千隼:擬音はどうでもいい。

飛鳥:じゃあ、くいっとして侵入すりゃいいじゃん。

千隼:……却下。

飛鳥:却下!?え、なんで!

千隼:そういうのは限界までしたくない。

飛鳥:前はふつーにしてたじゃん!

千隼:前は前。今は今。

飛鳥:ええ、なんで!

千隼:あいつらと同じになりたくないから。

飛鳥:…………

千隼:お前を殺した、あいつらと同じになりたくないからやめたんだ。

飛鳥:馬鹿じゃん。

千隼:そうだな。

飛鳥:………ちはや。

千隼:何。

飛鳥:(何かを言いかけてやめる)

千隼:何が言いたいんだ、飛鳥?

飛鳥:……ううん。卒業旅行、楽しみだね。

千隼:卒業旅行って。

飛鳥:でしょ?

千隼:……だな。

千隼:(M)向けられた笑顔に、同じく笑みで応える。……これがたとえ、俺の幻覚だったとしても、俺は俺の信じたいものを信じよう。そう決めて、目を閉じた。

   間。

〇翌朝。

飛鳥:うーん、気持ちのいい朝~じゃ、ない!

千隼:仕方ないだろ。早く出なきゃ間に合わないんだから。(咳)

飛鳥:でもこれでトンネルぬけたし、もうひとふんばりだね!

千隼:そうだな。もうひとふんばり660キロ。

飛鳥:うわぁ……

千隼:(激しい咳)

飛鳥:ちょっと、千隼。大丈夫?

千隼:大丈夫。こうなるのはわかってた。薬も用意してある。

飛鳥:あのさ、もしかしたら他のコロニーが道中にあるかもしれないしさ。そしたら、

千隼:(かぶせて)いかない。

飛鳥:………

千隼:どうせどこのコロニーも一緒だ。よそ者に冷たく、虚偽と欺瞞に溢れてる。もう、いいんだ。

飛鳥:でも、あいつらじゃなければまだ……

千隼:嫌だ!……うっ、ごほごほっ

飛鳥:千隼!

千隼:お前が何と言おうと俺はいかない。

飛鳥:…………

千隼:それに。お前のお盆だってまだ終わっちゃいないだろ?最後まで付き合えよ。

飛鳥:……わかった。

千隼:それでこそ相棒。

飛鳥:……あはは。

〇再び二人でバギーに乗り込む。

飛鳥:ねーえー

千隼:なんだ。

飛鳥:このままさぁ、どこまでも遠くにいけたらいいのにな。

千隼:馬鹿じゃないのか。

飛鳥:つーめーたーい

千隼:終わりがあるからわくわくするんだろ。目的地があるからいいんだ。

飛鳥:そっか。……千隼?

千隼:ん?

飛鳥:卒業旅行、楽しくしようね。

千隼:そうだな。……(小声で)今でも十分たのしいけどな。

飛鳥:なにー?ききとれなかった!

千隼:なんでもないっ

千隼:(M)砂煙がまきあがり、肺を濁った空気が埋めつくす。毒の空気だ。人類を衰退させた死の世界だ。それでも今、俺の振動はバギーのエンジンと共鳴して、勢いよく跳ねていた。素晴らしい未来を、ガラにもなく思い描いた。

飛鳥:(M)………そんなもの、ありもしないのに。

   間

〇ふたり、バギーから降りてあたりをみわたす。

千隼:げっ

飛鳥:いやーん

千隼:橋がなくなってる……

飛鳥:コンクリって意外ともろいねぇ

千隼:整備する人がいないからな……(咳)

飛鳥:……今日はもうやすむ?

千隼:馬鹿。日が落ちるまで進むぞ。さっきのガソリンスタンドまで戻れば遠回りできるはず……あっ!

飛鳥:千隼!

〇千隼、バランスを崩し勢いよく転倒する

千隼:っく、だ、だいじょう(激しくせき込む)

飛鳥:千隼、やすもう?民家がだめなら、そのへんのホテル……そうだ、さっきラブホがあっただろ!そこいこう?

千隼:却下。

飛鳥:無理したっていいことないよ?

千隼:絶対嫌だ。

飛鳥:駄々こねるなよ!

千隼:時間がないんだ!少しでも進まないと!

飛鳥:でもっ

千隼:どうせ死ぬだろう!

飛鳥:………っ!

千隼:こうして外に出た以上、どうせ死ぬ……

飛鳥:……でも、それでも。僕はすこしでも千隼に長生きしてほしいよ。

千隼:…………

飛鳥:ほら、立って。もう少し進んだら、しっかり休もう?

千隼:ああ……

飛鳥:…………

〇千隼、ひとりで立ち上がりバギーに乗り込む。

   場面転換

   間。

〇世界観説明つづき。Mはモノローグ。

千隼:(M)すこし、人類衰退までの道筋を整理しよう。

飛鳥:(M)大国の首脳を信じ込ませた宗教・通称「グリーンアース教」の、その主張は当初、「私達の星を守ろう」だけだった。実に単純明快。それだけなら素晴らしいことだし、好きにやってろっていう感じだけど、厄介になったのが過激派。「星を守るために人類を削減しよう」と主張する連中だ。

千隼:(M)最初は奇異の目でみられた彼らだったけど、機運がよかったのだろう。続く異常気象とそれによって引き起こされるハプニングによって、徐々にその勢力を伸ばしていった。

飛鳥:(M)そして2026年、冬。ついに彼らは一つの発明を成し遂げた。

千隼:(M)以後、「M307」そう呼ばれるそのウイルスは、彼らにとって画期的な発明だった。ウイルスに感染すると、咳、発熱、五感の麻痺や重度の幻覚等を引き起こし、80%の確率で一週間以内に死に至る。もちろん、既存の薬学で太刀打ちできるワクチンはない。

飛鳥:(M)ウイルスは、「特別な信者」によって、ある冬の日、空中にばら撒かれた。世界中に。同時多発的に。国家規模の、無作為なバイオテロだった。

千隼:(M)たくさんの人が死んだ。たくさんの人が悲しんだ。公共機関も電子器具も、ほとんど使えなくなった。……当たり前だ。仕事する人がいないのだから。

飛鳥:(M)それでもなんとか生き残った人々は、汚染されてない数少ない生存圏で、息をひそめるように生きている。外の世界が、いつか自然に浄化されることを願って。

千隼:(M)皮肉なことに、このウイルスは彼らの守りたかった「グリーン」にも作用した。……おかげさまで、植物はほとんど枯れはて、死の世界にふさわしい砂の光景が外には広がっている。

飛鳥:(M)だから、千隼の言う、「ひまわり畑」なんてどこにもあるはずがない。

千隼:(M)それでも進む。進むしかないのだ。もう俺の希望はそこにしかないのだから。

飛鳥:(M)……最初から、希望なんかないって知ってるのに?

   場面転換。

   間。

〇三日目の朝。

千隼:(激しい咳)

飛鳥:………

千隼:(大きく深呼吸して)よし、いくぞ。

千隼:進路は北西だな。昨日だいぶ遠回りしたが、今日の夕方までには着くはず……飛鳥?

飛鳥:ん?

千隼:さっきから無言だが。どうかしたか?

飛鳥:あ~……えっと、千隼。ほんとうに大丈夫なの?もう一泊して休んでいけば?

千隼:なにいってんだ。

飛鳥:………

千隼:これは休んだって治らないって、お前もよく知っているだろう。

飛鳥:そうだけど………

千隼:いくぞ。時間がないんだ。今日には辿り着かなくては。

飛鳥:………

千隼:飛鳥?

飛鳥:………今乗る。

千隼:早くしろ。

〇飛鳥と千隼、バギーに乗り込む。

千隼:昨日のとこからだいぶリカバリーできたな。あとは、ここの交差点を左に曲がって、道なりに30キロ行けば目的地だ。

飛鳥:ずいぶん坂が多いね。燃料大丈夫?

千隼:ギリギリってとこかもな。

飛鳥:……帰りの分は、用意してないんだね。

千隼:ん?

飛鳥:なんでもない。いこう。

千隼:…………

   少し間をおいて。

飛鳥:千隼。

千隼:(咳をしながら)なんだ?

飛鳥:ナヨロについたらどうすんの?

千隼:どうするとは?

飛鳥:どうせさぁ、ひまわり畑なんてあるはずないじゃん。砂地じゃん。

千隼:…………

飛鳥:それみてさぁ、はいさよなら。って帰るの?無駄じゃない?それするくらいなら、ここらへんで諦めて食料の捜索とかする方がいーんじゃない?

千隼:……それでも行く。

飛鳥:……なんで?

千隼:お前がみたいっていったからだろ!だから行くんだ!

飛鳥:…………

千隼:そうだろ?飛鳥言ってたじゃないか。ナヨロのひまわりみて!SL(エスエル)乗って!お腹一杯たべて……!それで、それで……

飛鳥:家帰って、みんなにいっぱい自慢してやろう、って。……言ったね。

千隼:……そうだ。

飛鳥:そっか。

千隼:ああ。

飛鳥:なら、ついていくよ。最期まで。

千隼:……ああ。

   間。

千隼:飛鳥、みろ!

飛鳥:……なに?

千隼:坂の向こう!ほら!!

飛鳥:なーに?砂煙ひどくてなーんも見えない。

千隼:あ、そうか。お前ゴーグルしてないもんな。ちょっとまっててろ!もうちょっと!もうちょっとだから!

   間をおいて。

千隼:ほら、みろ!ひまわりがある!!

飛鳥:(息をのむ)

千隼:すごい!ここはまだ汚染されてなかったのか?すごいぞ、飛鳥!ひまわり畑だ!

飛鳥:……そう……そうだね。

〇千隼、バギーを降りて『ひまわり畑』に駆け寄る。

千隼:……本物だ!信じられない!

飛鳥:……うん。

千隼:はは……あはははは!あった!ほんとうにあったんだ!ひまわり畑はあった!飛鳥!!あははははははは!!

飛鳥:…………

千隼:ははは!あはははは(徐々に笑いをおさめて)……あすか?

飛鳥:なに?

千隼:嬉しくないのか?

飛鳥:嬉しいよ。嬉しいに決まってんじゃん。

千隼:じゃぁ何だよ、その顔。

飛鳥:ちょっと凄すぎて……信じられなくて。(鼻をすする)

千隼:ははは、なんだ。お前泣いてんのか~?ははは。

飛鳥:……うん。

千隼:あ~……きてよかったなぁ、ここまで。

飛鳥:千隼も泣いてる。

千隼:ちがう、これはその……心の汗だ。

飛鳥:ネタ、古っ

千隼:はははははっ

飛鳥:………ふたりで、来れてよかったね。ナヨロのひまわり畑。

千隼:頑張った甲斐あった。

飛鳥:………ほんとうに。

   少し間をあけて。

千隼:……飛鳥。

飛鳥:んー?

千隼:……おまえ俺の幻覚じゃないよな?

飛鳥:いまそれきく?

千隼:………

飛鳥:きみ、僕が最初に言ったこと気にしてたの?

千隼:………そーいうわけじゃない。

飛鳥:「仕返し」って言ったじゃん。

千隼:……ははっ、だよな。

飛鳥:………うん。

千隼:ならさ。おまえは怒るかもしれないんだが。

飛鳥:………

千隼:俺の事、つれていってくれるか?

飛鳥:……僕、いったじゃん。

飛鳥:最期まで、ついていくよって。……だから、心配しなくていいよ。安心して。

千隼:……そっか。

飛鳥:うん。

千隼:そうかあ……

飛鳥:そうだよ。

千隼:………じゃあ本当に急がなくてよかったのか。俺、焦りすぎたな。

飛鳥:はは、そうだね。

千隼:でもふたりで卒業旅行、できてよかった。

飛鳥:……うん。

〇以下のセリフは、言っても言わなくてもどちらでもよい。

千隼:(M)希望なんてなくても、行く先が地獄でも。この夏だけはきっと、本物だと、そう俺は信じている。

おしまい。