琉球政府 僻地探訪とダンク節
「山の降り登りあん苦りさあむぬ 道造てたぼり吾御主加那志」
北部やんばるまでのドライブが好きで、中南部とは違った生命力溢れる緑の景色を眺めては、ふとこの古い琉歌が頭に思い浮かばれるのです。
車での移動であっても、名護の東海岸から国頭村までの道のりは長く、激しい上り下りと急なカーブの連続には流石に疲れを感じてしまう。。
しかし最近、その長い距離だと感じていた印象が180度変わってしまう「僻地探訪」という記事を見つけて、誠心打たれた内容でしたので後に紹介したい。
道路が無かった時代、それから道造りに開拓され汗を流した人々のお陰あって、今豊かにやんばるまでの交通も楽しめていることに気付かされ、恥ずかしくなった。
沖縄の古い民謡に「ダンク節」という唄の内容を、私なりに簡潔にまとめてみますと次のようなものでございます。
「ダンク節を習うには、山道は険しく膝を痛めるほどで、その途中には幽霊が出る所もあり、安和の坂は盗賊も出る。
それでも通って物にした唄なのだ、松の下に集まって遊ぼう」とあるように、一つの歌を習うために朝晩かけて通い詰めたとあります。
「僻地探訪」を読むことで、ダンク節に歌われている昔沖縄の景色が、より明確に感じられるような気がいたします。
戦で失われたものも多いが、先輩達から語り継がれた歌や手記、書物などからも、当時の風景を想像して豊かに楽しむことができる幸せがある。
そのイメージ力こそ琉球を肌で感じられる最高の贅沢の一つなのだと思う。この島に生まれたことを誇りに思います。
以下 広報琉球 1959年10月号より ※琉球政府官房情報課
「僻地探訪」 陸の孤島・安田・安波・楚州
「本島内にありながら、陸の弧島と呼ばれてる国頭村東海岸の安田、安波、楚州は、名にし負うへき地であり、そこに通ずる道は險路である。
辺土名でバスを下車、かねて依頼してあった、辺土名工務出張所のジープに便乗、難路のほまれ高く、1951年着工、約6年の才月を要して完成した、与那、安田間の横断道路を突破、安田に着く。
この横断道路は、目下改修工事中であるが、やつと車一台通れるほどの所もあり、夜来の雨で泥沼化していて、バスやトラツク等ではとても通ることのできない悪路である。
国頭連山の中腹を切り拓いて作られたこの道は、片方に数十丈の断岩が迫り、片方は数百尺の谷底である。所々に谷間の清洌な流れが見える。周囲のウツソウたる樹木の緑と調和して、なんとも言えない景観であり、スリルに富んだ道ではあるが、気の弱いものや、女子にはスリルどころか肝をヒヤヒヤさせ、まともに目も開けておれない。一歩運転を誤まれば谷底である。しかし、目下与那の近くまで完成されている改修工事が終われば、この道は沖縄一の観光道路として、皆んなに親しまれるに違いない。山あり、河あり、渓流あり、そして海枝百米を越す連山の中に亭々と伸びた樫の木やスクスクと伸びた松があり、宮崎あたりの何処か田舎の景色を思い出される。然しこのスリルに富んだ道は観光を目的として作られたものではなく、今まで道一つなく西海岸にある役場所在地の辺土名に出るためには、それこそ十里以上の山道を歩いて、奥を廻つて行くか、または、嵩江新川を経て久志に出ていた、安田、安波部落にとつて唯一の文化を運ぶ道路であり、富を運んでくれる道路なのだ。重病人をまたハブに噛まれた急病人を、担架に担いで山の頂上から頂上へと通ずる林道を通ることもないであろうし、生まれ落ちてから一度も那覇を見たことのない人たちにとってもこの道は、こよなく愛されるであろうし、また東海岸の産業発展のため、山地開発の幹線として、琉球のために重要なる役割を演ずるであろう。
安田は人口六百余名、横断歩道ができたおかげで、安波、楚州に較べると比較的恵まれた部落である。然し映画館がある訳ではなく高等学校も辺土名迄行かなければない。電灯は七時ごろから十時ごろまで点灯されるが、親子ラジオも水道もなく、昼のニュースを知るために共同売店にトランジスターがあり野良帰りの農夫や、山から薪を運んできた人たちが、一息入れながら聞き入っている姿が見られた。診療所はあるが、盲チヨウー患者や重病人ができた時には、やはり辺土名まで行かなければならない。産婆も居らず、お産もこの部落では不安は去らない。広い平地もなくすぐ山が迫り、部落の西方に僅かばかりの田園と耕地があるのみで、これといつた農産業はなく、換金するものといえば、炭と材木ぐらいのものであり、住民所得は低く文化的な生活をするには余りにも貧しい。私の宿所に訪ねてきた区長の古堅さんは、こんな不便な僻地に訪ねてきたことを謝していた。那覇のような楽しい処ではないが、こんな山の中でも住めば都で、どうしても都会に出ない人も多いという。然し若者達にはたまらないらしく、殆どが中南部に出ていて、この部落には居らないという。私達から見ると、父祖伝来の地であるという以外、何の魅了もないこの土地に、一体何を求めて、何に希望をつないで、生きているのであろうかと思われる。深々と更け行く安波の静かな夜に、僻地に対する様々の思いが脳裏をかすめる。」