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映画レビュー!『モガディシュ 脱出までの14日間』韓国ベテラン/準ベテラン俳優が描いた対立構造の真実

2022.05.31 21:50

(C)2021 LOTTE ENTERTAINMENT & DEXTER STUDIOS & FILMMAKERS R&K All Rights Reserved.


1990年、アフリカ・ソマリアで内戦に巻き込まれた韓国と北朝鮮の大使館員たちによる脱出劇を映画化した『モガディシュ 脱出までの14日間』。 

 時代背景となるこの年は韓国民主化から3年、ソウル五輪からわずか2年後という、いわば近代韓国の幕開けともいえる頃合いでした。 

 一方、世界で起きた事件に彼らがどのように関わったのか?近年の国際問題などに重なるような場面もあり、非常に興味深いテーマでもあります。 

 今回は第42回青龍映画賞で作品賞、監督賞ほか5部門を受賞し、韓国で大ヒットを記録したこの作品を紹介します。


【STORY】


韓国は1990年、多数の投票権を持つアフリカ諸国でロビー活動を展開していました。その目的は、韓国の国連への加盟でした。

ソマリアの首都モガディシュでは、韓国大使ハンがその責務に向けて奔走していました。

一方、韓国よりも先にアフリカ諸国との外交を始めていた北朝鮮も国連加盟を目指し、朝鮮半島から遠く離れたアフリカのこの地でも対立は続いていました。

ところがそんな中、ソマリアで内戦が勃発してしまい、各国の大使館はじめ外国人にも命の危険が迫ってきます。

韓国大使館では、参事官カン・テジンの機転を利かせた取り計らいで大使館内に警備員を配備し安全を確保することに成功します。

しかし北朝鮮大使館では代表者リム・ヨンスが職員と家族たちを連れ大使館を脱出、他に選択肢もない絶体絶命の中、参事官たちの反対を押し切って韓国大使館へ助けを求めることを決断するのでした。


【ここに注目】

アフリカ大陸と韓国、日本から見ると意外にあまり接点を感じない関係に見えるかもしれません。

実際、物語はタイトルにあるモガディシュという都市を首都に持つソマリアでの出来事をモチーフに描かれていますが、主軸となるポイントはやはり分断された国同士のつながりをどう描くかというところにあります。

韓国映画では『シュリ』『ハナ 奇跡の46日間』『レッド・ファミリー』など、韓国と北朝鮮の対立構図の中でも歩み寄りを感じさせるテーマを取り上げた作品も多く、この作品もそういった作品の一つになります。

自国の外交発展を画策しソマリアにアプローチする韓国と北朝鮮。それぞれの国が持つ建前により対立する両国ですが、物語は危機に陥った際にそういった建前などは全く無意味であることを示しています。

興味深いのは、物語で内戦が勃発するソマリアという国の背景にもあります。

ソマリアは植民地として発展しやがて独立を果たした国でありますが、もともと入植した国の地域により国は朝鮮半島同様に北と南に政治的勢力が分かれたという事実があります。

物語中のソマリア人たちの振る舞い、そして韓国、北朝鮮両国の外交官一行の振る舞いというものが強い印象をたたえたコントラストとして、この対立というテーマをより鮮明に描いており、物語構成の巧みさが光る作品となっています。


【あわせてここも見どころ!】

この壮大なテーマを描いた物語にキャスティングされた俳優陣も秀逸です。

韓国側の大使ハン・シンソンとしては『暗数殺人』, 『1987、ある闘いの真実』, 『天命の城』, 『あなた、そこにいてくれますか』, 『プリースト 悪魔を葬る者』など、数々のヒット作で重要な役側を演じてきたキム・ユンソク。

対する北朝鮮の大使リム・ヨンスとしては『火山高』『シルミド』『国家が破産する日』などのホ・ジュノ。映画の出演もさることながらドラマの出演実績も多く、あのイ・ビョンホンと共演した『オールイン 運命の愛』で日本での指名度も高めました。

さらにそれぞれ参事官役として若い世代のキャスティング。韓国大使館参事官カン・テジンには、映画、ドラマ、バラエティーと幅広く活躍し日本でも絶大な人気を誇るチョ・インソン。

一方、北朝鮮大使館参事官  テ・ジュンギ役には、「キングダム:アシンの物語」,「D.P. -脱走兵追跡官-」、『新感染半島 ファイナル・ステージ』など俳優として活躍する一方、監督として精力的に作品作りに携わるク・ギョファン。

メインキャストとなる両国の登場人物が、このように対照的な人物構成となっているところが非常に印象的です。

また興味深いのは、この四人がどちらかというと年配/若年という格好で対立的な関係を見せているところです。

どちらかというと若い世代のカン、テはどこか相手に対して反発的な姿勢を見せますが、年配のハン、リムはそれに比べると歩み寄る感じがあります。

この対立関係は歴史的経緯を考えると逆ではないのか?と思われる人もいるかもしれませんが、物語では自然な空気感を示しており、それが物語の重要なポイントを示しているようでもあります。

この四人は巧みにその絶妙なバランス感を保っており、物語のメッセージ性をより深く描いているともいえるでしょう。


そして4人以外のキャストも見どころたっぷり。韓国大使夫人キム・ミョンヒを演じたキム・ソジンは、芯の強い女性像を表現し、物語をしっかりと締めています。

また韓国大使館書記官コン・スチョルを演じたチョン・マンシクは、韓国ドラマではラスボスや堅物的役柄のイメージがありますが、本作ではどこかユーモアを感じられるイントロよりどこかヘタレな人物像を描いており、いい意味で自身の印象を崩しています。

社会的テーマを織り込みつつ、韓国らしい人間ドラマに近年の壮大なスケール感を覚えさせる迫力の脱出劇。

その映像は、近年の韓国映画における世界的評価の高さも、十分納得させるものといえるでしょう。


【作品情報】


『モガディシュ 脱出までの 14 日間』

監督:リュ・スンワン

出演:キム・ユンソク、ホ・ジュノ、チョ・インソン、ク・ギョファン、キム・ソジン、チョン・マンシク

原題:모가디슈 ESCAPE FROM MOGADISHU/2021 年/韓国/カラー/121 分/シネスコ/5.1ch/字幕翻訳:根本理恵

提供:カルチュア・エンタテインメント

配給:ツイン、 カルチュア・パブリッシャーズ 宣伝プロデュース:ブレイントラスト

公式サイト:mogadishu-movie.com

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7月1日(金)新宿ピカデリー、グランドシネマサンシャイン 池袋ほか全国ロードショー