数学が苦手(梅田千加)
高校の時、ゆうちゃん、という同級生がいた。カラーペンをたくさん持っていて、個性的なヘタウマイラストを描く子だった。はっきりものを言うので、苦手に思う子も多かったけど、私はなんとなく彼女に好意を持っていた。
ゆうちゃんは勉強全般が苦手で、成績も良いとは言えなかったけど、本人はその事実をさっぱりした態度で受け入れていた。わたし、頭悪いし。とあっさり言って、特に気にする風もなかった。
ある時、担任が私を呼んで、ゆうこと一緒に数学勉強したってくれへん?と言う。ゆうこ、これ以上赤点とったらマズイねん。
私は数学がからきし駄目だった。どんなに頑張っても平均点に届かず、いつもなんとか赤点を取らないように四苦八苦していた。
ええやん。一緒にやったら、自分の勉強にもなるやん。
人と一緒に勉強してる場合じゃないと言う私の訴えを担任は簡単にいなして、結局私とゆうちゃんは、苦手な数学を一緒に勉強することになった。
そんな二人でどうやって勉強しろというのか。とにかく教科書と問題集を、順番に解いていこうとした、と思う。ゆうちゃんはよく質問をした。なんでこうなんの?これどう言う意味?自分自身よく理解してない私は、その度に必死で、教科書を読み解答と首っ引きで、どうにか説明しようとした。今にして思えば、泳げないのに、溺れてる人を助けようとして、二人でアップアップしてるようなものだ。助かるとはとても思えない。
ゆうちゃんの「数学わからん」は、私の想像を遥かに超えていた。あるとき彼女は、わたし九九がわからんねん、といつものようにあっさり言った。私はしばらく絶句してから、困らへん?と声を絞り出した。授業、わからんのちゃう?
授業中は、座ってるだけ。でも、別に困らんで。電卓あるもん。
まあたしかに、電卓は便利。
理解できない授業をずっと聞いている退屈さを想像して、私は絶望的な気持ちになった。
テスト前の勉強会は、何回か続いたが、殆ど成果も出せずに終わった。九九がわからないのに、サインコサインタンジェントに叶うわけもない。
私もゆうちゃんも、数学が苦手なまま卒業して、大人になった。何度か年賀状のやり取りをしたけど、私の筆不精で、それもいまは途切れた。
けど多分、どうにかやってるんだろう。私もなんとかやってる。
数学は相変わらず苦手だけど、私たちには電卓がある。