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じゅて~む

じゅてむりん⑥ 第68夜「最終回じゅてむりん」

2021.02.22 17:30












【あらすじ】



N県新潟市やN県長野市でコント活動をする集団の、コント台本を担当している江尻晴子が、架空の男性・達太としてエッセイ連載にチャレンジ。



タイトルの「じゅて~む」は愛しているという意味だが、架空の男性・達太が主人公の小説「じゅて~む」からの引用でもある。



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俺は達太。



もうダメかもしれない。



俺は高木ブウ似の日本人の中年。



どこにでもいる大食漢のおっさんだ。



そんな俺が、映画グレムリンのせいで5体に増え、緑色となり凶暴化してしまった。





人間だというのに。



これでは化け物ではないか。



こんなことが家庭内で起こってもみろ。



いくらアメリカの家庭とはいえ、どうするどうする!となる。





幸い、まだ家族の誰にも知られてはいない。



父上は呑気に眠っているし、



ビリーも呑気に眠っている。



俺の気も知らないで。





では、良いではないか。



俺達も眠ればいいだけの事・・・。



そして明朝、落ち着いて、緑色の俺達5人と、ビリーの家族で家族会議を行い、家のリフォームの計画を練る。



子供部屋を増築するか、達太部屋をガレージ脇に据えるかじっくり話す。



それが最善だ。



肌色の塗料もネット注文しよう。





ところが。



俺達は凶暴化している。



明日の朝を待てない。



しかも俺達は、既にビリーの部屋に5体とも集結している。





「おい、そこのジュテムリン!



 何してる!」



「何って、ビリーにキスするのさ。」



「やめろ、そんなことしたら、ビリーが目を覚ます!」



「大丈夫だ、ビリー少年のほっぺに、ブチュとやるだけだ。チャーシュー麺をすするときの唇の形で、ね!



HAHAHAHAHぁ~」



「全っ然面白くないぞ、よせ。



 ジュテムリン全体の笑いの精度が落ちる、適当なジョークは禁止だ。」





ダメだ。



凶暴化した俺に、俺の話が一向通じない。





また別の俺は、



「ねえ、ジュテムリンさん。これどう思う?」



と、真っ赤な口紅を緑色のぶよぶよの唇に塗り始めた。





「おい、やめろ。そんな唇でビリーにキスするんじゃない、余計にビリーが目を覚ます。」



「ほう。眠っている子供に唇の色が伝わるとでも?



それより見て。全身緑色の俺の唇が赤くなった。クリスマスカラーの完成に、メリークリスマスだ。」



「クリスマスカラーの完成に、メリークリスマスだと?



ふざけるな。そのルージュは何処から持ってきたんだ。」



「もちろん、ビリーのママの部屋から。」



「やめたまえ、女性の部屋をウロつくのは。」



「今、女性と言ったな。



思い出したようだなリーダーの達太。



俺達5体ともが、女性のジュテムリンの不在を実は淋しく思っていた。違うかな?」



「何のことだか。」



「あのバスルームでの出来事を、もう忘れたか。じゃあ、これでどうだ。」





リーダーの達太か。悪くない。



本体のジュテムリンと呼ばれるよりアガる。



凶暴化した俺と口論しながらも俺は思う。



しかし、



「ジュテムリンの皆、お待たせ。」





振り返ると、口紅を塗ったジュテムリンが、ミニスカートを履いていた。





「おい、何してるジュテムリン!



 みっともないだろう!」



「何って女性のジュテムリンだ。



 お待ちどう様。」



「よせ。定食屋みたく挨拶しても俺はほだされない。」



「ミニスカートは脱がない。」



「先回りも、やめろ。まだ脱げと言っていない。」



「いいや。絶対に脱がない。」




ダメだ。凶暴化し過ぎだ。



俺はキッチンで、ジュテムリン皆でオードブゥルを食べたことを激しく後悔する。





ところがそのとき、



「おい、女性のジュテムリン。



リーダーのジュテムリンがミニスカートを脱げと言っているんだ。



脱いだらどうだ?」





俺は耳を疑った。



凶暴化した俺の中に、まともなジュテムリンがいるようだ。



ヴェジタリアンのジュテムリンか?





「いいや。脱がないと誓ったんだ。



これを脱いだら、口元が赤いだけの緑色のおじさんに逆戻りだ。



もうあんな思いは嫌だ。」



「そうか。そんなに思い詰めていたのか。だがよく見てみろ。ミニスカートから、短くて太い緑色の足が2本、出ている。美しいとは言えない。」



「すまんが、腹が出ており、よくわからん。薔薇の花とどちらが美しい?」



「そうか。腹が邪魔か。では姿見のある部屋へ移動しよう。」





まずい。



味方であるジュテムリンも、暴走化の傾向にある。正義の暴走ほど怖いものは無い。





「リーダー。俺達はママの部屋に行ってきます。姿見でミニスカート姿の確認をしたく。もちろん、ついでに口紅もお返しして来ます。



もちろん女性の部屋なので、ノックを入念に5回してから入室します。」





やめろ!



そう俺が言おうとしたとき。



玄関のチャイムが鳴った。





ヴェジタリアンのジュテムリンの目が輝く。



フィッシュ&チップスとシーフードピザをデリバリーしたと彼は言う。



いつの間に、と俺は思う。



そして味方であるジュテムリンは彼ではなかったようだ。





玄関のチャイムが再び、鳴る。





俺達5体のジュテムリンの間に、張り詰めた空気が漂う。





玄関のチャイムが再び、鳴る。





結構、鳴らすな・・・。



こういうときは張り付けた空気がもう少し続いてもいいのだが。





誰が出るか。



俺達は緑色だ。



今夜がハロウィンなら通じるだろう。



「日本の芸能人高木ブウの、ゾンビのコスプレです。5人で申し合わせました。こだわりは、ゾンビなのに奇麗な緑色であることです。」





だが今夜はクリスマス。



聖なる夜に、そんなフザけた理由は通じない。





「ぴ、ぴ、ピザ屋に見つかったら、俺達は遠い外国に売られちまうのかい?」



臆病者のジュテムリンが泣きべそをかいている。



「さ、さ、サーカスで見世物になんて、なりたくないよう!」





俺は臆病者のジュテムリンを励ます。





「大丈夫だ。サーカスで見世物にはならない。見てみろ女性のジュテムリンのミニスカ姿を。見世物には、ならない。」



「リーダー。」



「よし。イイ子だ。」





ピザ屋の出現で、俺達ジュテムリンのチームワークは復活しつつある。




「皆、すまなかった。



ヴェジタリアンの俺が、食い足りなかったせいで、面倒ごとに皆を巻き込んだ。俺が、出よう。



そして正直に、勝手にシャワーを浴びてバスタオルを5枚も使ったことや、深夜0時を過ぎにどんちゃんやったことなどを、を謝ろうと思う。」





俺はリーダーとして、彼一人を送り出すわけにはいかない。





「待て。ピザ屋に自首することは無い。」



リーダーシップを発揮しながら、確かにそうだよなぁと思う。





俺は凶暴化した緑色の体と頭で必死に考える。





二択だ。





ビリーを起こし



「すまんビリー。夜更けに。



 俺だ、達太だ。



 ピザ屋が来た。



 俺は今緑色なもんで、ピザを受け取れない。ねえビリー、いったん起きて、ピザの受け取りを頼む。」





それとも。



①の約束「太陽を浴びてはならない」を破って、朝日を浴びるか。





二択と見せかけ、後者しかない。



ビリーにとっては可愛い達太でも、俺は男であり、大人。





①②③の約束のうち、②③を破ってしまった今、①は既に約束ではない。



物語に終止符を打つ『正解』だ。



ビリーに迷惑をかける訳にはいかない。



だってクリスマスだろう?




①を実行した場合、明朝ビリーは「達太がいない~」と悲しむかもしれない。





だが、①を実行しなかった場合、



「緑色の太っちょのおじさん5人の世話が本当に大変なんだ・・・」「面白かったのは最初だけで・・・」と、一生をかけて悲しみ続けるだろう。







俺達5体は、ビリーの部屋を出る。



そっと、ビリーを起こさないよう、5人順番にビリーのほっぺにキスを捧げながら。





そして玄関にて、ピザ屋から、ピザ5枚とフィッシュ&チップスとフライドチキンとミートソースパスタとソーセージ盛り合わせを受け取る。



思った以上に注文していたようだ。





驚くピザ屋は無視だ。



無視しながらもクレジットカードを差し出す。



ビリー家に迷惑をかけるわけにはいかない。自腹上等。本当に上等。



暗証番号をピザ屋に伝える。



ピザ屋は俺の、どんよりした目に、いいんですか?との眼差しをよこす。



俺はどんよりした目で「イエス」と返す。



このクレジットカードも俺もろとも消滅するだろう。暗証番号などくれてやる。





薄暗かった外が、明るくなってきた。



もうじきだ。



ピザ屋よ、クリスマスの明け方までご苦労さんだったね。



おや、クレジット決済がうまくいかないようだ。



もう一度、暗証番号を言おうか。



今度は、せっかくだから、ジュテムリン全員で、言おうか。





スリー、トゥー、ワン、ゼロ





そのとき、朝日が昇った。




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「おはようママ。ねえ、僕が寝てる間にキスしたでしょう。」



「してないわよ?」



「だって、ほっぺに口紅が。



 僕も愛してるよママ!」





じゅて~む