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じゅて~む

じゅて~む エッセイ編 第62夜

2021.01.31 05:05












【あらすじ】



N県新潟市やN県長野市でコント活動をする集団の、コント台本を担当している江尻晴子(39歳)が、架空の男性・達太としてエッセイ連載にチャレンジ。



タイトルの「じゅて~む」は愛しているという意味だが、架空の男性・達太が主人公の小説「じゅて~む」からの引用でもある。



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こんばんは。



俺は達太。39歳の会社員。




似ている有名人は藤岡弘。



藤岡弘が役作りで40㎏増量したあげく、ブサ可愛くなった感じだ。





似ているアニメのキャラクターは、ジャムおじさんと紅の豚。





似ている車種はアンパンマン号。





好きな童話は「赤ずきんちゃん」



俺の入り込む余地があるからだ。





嫌いな童話は「雪女」



怖いからだ。





だが。



複雑だ。俺の入り込む余地がある。



例えば、雪女が吹雪の夜に、主人公の父親に冷たい息を吹きかけて殺めてしまう序盤。





俺もその小屋に居てあげようと思う。



俺は、豚汁を振舞ったり、天ぷらの揚げ方を親子に教えてやる。



中国大陸には、もっと素晴らしい揚げ物や、麺類があることも語ってやる。





やがて、雪女が小屋にやってくるだろう。



俺は美しいものが好きだ。



俺は、はしたなくも雪女にアプローチをする。



親子もいるにも関わらす、今度二人で会いませんかと繰り返す。



そして豚汁を食わす。



親子にしたように中国大陸のご馳走の話もする。





と、俺が、俺の入り込む余地について考えていると。




『文化祭』





の看板にぶち当たった。



なるほど。小学校の文化祭か。



俺の生活スタイルからして、定食屋を除いては地域との関係は希薄であろう。





たまには地域貢献でもするか。



バザーで焼き鳥を買ってあげよう。



それにコロッケも買ってあげよう。



焼きそばも食べよう。



PTAの焼く、豚串も食べよう。





小学校なんて何年ぶりだ。



廊下や教室を小さく感じる。



ここでは俺意外の大人も巨人。




そんな俺の横を、小学2年と思しき少年らが走り抜ける。





「おい、5組の劇はじまるぞ!」



「急げ、前の方で見ようぜ!」



「体育館行くぞ!」





劇ね。



いいだろう。俺も誘われた気分に十分なった。



俺も体育館へ。



しかし、劇は既に始まっていた。



出遅れたようだ。



それもそのはず、



俺は、走り去る少年たちから情報を得た後にバザーに寄り、豚串やフランクフルトや肉まんを購入してから体育館を訪れたから。




既視感のある劇だ。



パクりか?



いや、違う、古典だ。



いや、古典とも違う。



これは俺が最もよく知る童話ではないか?





「なあ、あっちの方にキレイな花畑があるぜ?」



「でも、おばあちゃんが待っているわ。ぶどう酒とチーズと木いちごのパイをお見舞いに持っていくのよ。」





赤い頭巾を被った少女と、オオカミが会話をしている!





俺の十八番じゃないか。





しかも、このシーンは、俺の入り込める場面。



「おい、キレイな花畑ってなんだ?



 花畑はだいたいキレイだろう?



 汚い花畑で誘うのがツウだ。



 俺はこの子の年の離れた兄さ。



 寄り道はレストランに限る。」



俺は急いで舞台へ上がろうとして、真正面から登場することを躊躇する。





ここは小学校の文化祭。



舞台の正面から登場する演出は、斬新すぎて、保護者や地域のお年寄りの心臓に、悪いんじゃないか。



演劇を見慣れてない連中は、俺の登場に困惑するかもしれない。



それはいけない。




俺は焦る気持ちを抑え、体育館のステージ脇の控え室に回る。



跳び箱やマットの匂いが懐かしい。





だが、懐かしがってもいられない。



俺は、おばあちゃん役の少女を探す。



灰色のカツラの少女。





見つけた。



俺は彼女に耳打ちをする。





「俺は達太。エッセイストだ。薔薇の花が好き。悪い奴ではないと、この一瞬で判断するんだ。」



「俺は君と一緒に、出る。」



「だから、その時が来たら、この腹に合図をくれ。この腹をそっと撫ぜるんだ。わかったね。」



「大丈夫、オオカミに君を食わせやしないよ。」





そして、いよいよ、おばあちゃんがオオカミに食われる場面だ。





おばあちゃん役の少女は、緊張して俺に合図をくれるのをスッカリ忘れてしまったようだ。



俺の腹に合図は無かった。



誰も撫ぜなかった。





だが、いいだろう。



俺はエッセイスト、文章を扱う仕事だ、少女の合図は無かったが、流れで、今だ、今が、赤ずきんちゃんに扮するときだ!と察知した。





俺は自作の赤い頭巾を被る。



そして舞台へ。



おばあちゃん役の少女に



「俺は赤ずきんの年の離れた兄だ。もうすぐオオカミが来る。ちょっとズレるんだ、狭いが我慢だ。」



と耳打ちし、ベッドに横たわる。





これで完成だ。



オオカミが来ても、大丈夫だ。



赤ずきんちゃんもおばあちゃんも、オオカミに食われることは無い。



オオカミも腹を切られることは無い。



しかし。俺の入り込む余地があるとはいえ、小学校の文化祭にこの年で出演することになろうとは、人生何があるかわからない。





ん?



でも何か違う、間違っている気がする。 



俺は焦る。



童話や日本昔話の世界に登場するのは俺の自由だ。それに正義だ。





だが、小学校の文化祭の劇に出るのは間違い。そうだろう?



そんなことをしては、会社員ではいられなくなる気がする。



逮捕される気がする。豚箱行き。



豚箱にブチ込まれたら、俺の見てくれだとダジャレみたくなってしまう!



それに俺は獄中でもエッセイを発表するだろう。おそらく暇だから。



だが、獄中で書いたエッセイだからって理由で売れても嬉しくないんだ!



痩せてしまいそうだ!




と、その瞬間。



「グウーーーーーー!」



という大きな音で、俺は我に返った。







俺の腹が、鳴ったのだ。



俺は目が覚めた。



俺は、自宅の布団の中だった。





傍らに老婆はいない。



俺の頭に赤い頭巾は無い。





じゅて~む



良い夢を



良い夢オチを