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じゅて~む

じゅて~む エッセイ編 第47夜

2020.12.12 18:34












【あらすじ】



N県新潟市やN県長野市でコント活動をする集団の、コント台本を担当している江尻晴子(39歳)が、架空の男性・達太としてエッセイ連載にチャレンジ。



タイトルの「じゅて~む」は愛しているという意味だが、架空の男性・達太が主人公の小説「じゅて~む」からの引用でもある。



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俺の目の前に、むせび泣く男児がいる。




正確にいうと彼は、俺と、アジフライとロースカツとコロッケの間で、むせび泣いている。



小学1年くらいか。小さいため、俺が揚げ物を眺める障害にはならない。



一人だ。



スーパーマーケットのお惣菜の、揚げ物の前だ。





ははん。



全部欲しいのだな。



俺は彼の心が読めてしまった。




しかし。



カツもコロッケも、とにかく全部を彼が食べたいのはよくわかったのだが、それでは何故、泣く必要があるだろう。



全部食べれば良いだけのこと。



俺は彼の理解に苦しむ。





声をかけてみようか。



まずは自己紹介から。





「こんばんは。俺は達太、39歳。会社員だ。月~金曜は会社員として働き、会社では主に定食屋からの出前を待っている。



そして土日はエッセイストとなる。エッセイを発表するんだ。



ところで、おま・・・君は何故、泣いているんだい。」





しまった!



彼に問いかけた瞬間、俺は答えがわかってしまったのだ。



しかも俺としたことが、小学1年位だからと初対面であるにも関わらず、彼をお前呼ばわりしそうになってしまった。



俺としたことが。



確か、もうすぐ人権週間じゃなかったか?来週あたり、どうだ。忘れた。どうでもいい。



俺は彼を、君と呼ぼう。





ところで俺は彼がむせび泣く理由がわかってしまった。



「俺は達太。それはわかったね?



今ほど俺は、君に何故泣く必要があるんだいと問うてしまったが、俺は自力で君の泣く、その理由がわかったぜ?」



「君、俺をお母さんと間違えたんだろう。



それで俺に、メンチカツやポテトフライを中心に、全種類の揚げ物をおねだりしようとしたんだろう。



ところが。



なんかいつものお母さんと違う。



雰囲気はもちろん、髪型も横幅も縦の幅も、いつものお母さんと、違う。



それで、不思議がいっぱいで泣いている。違うか?違わないだろう。なんかいつもと違うお母さんに泣いているんだ君は。」





「だが安心してくれたまえ。



俺は、君のお母さんではなく、達太なんだ。君のお母さんは、きっと精肉売り場だ。



だから泣く必要は全く無い。」





ここまで説明して、俺の脳裏にバッと「迷子」という二文字が浮かんだ。





迷子だと?



どういう意味だったか。



俺としたことが忘れてしまった。



では、考えようじゃないか。



俺は音楽家バッハに似ていた時期があるとはいえ、立派な日本人だ。



食生活の欧米化や中華料理化が進んでいるとはいえ、まだまだ日本人。





迷子の「子」は、紛れもなくこの男児のこと。



では「迷」は?




俺は、ハッとする。



俺は大きく勘違いしていたようだ。



俺は、彼が、このコーナーの揚げ物をすべて欲しがっていると思い込んでいた。



何故なら俺もそうだから。



いや、俺はししゃもフライは要らないのだが。



そんなことはどうでもいい。





彼は、迷っていたんだ。



メンチかロースカツか。小学1年らしくコーンクリームコロッケ3個かで、迷っていたんだ。




そうすると、自ずと彼の涙の理由も変わってくる。



彼は迷い、悩み疲れ、途方に暮れて泣いていたんだ。



お母さんが俺に変化したことに感激して泣いていたのでは、ない。



俺は恥ずかしくなる。



顔や、無い首まで真っ赤になる。



自惚れていた。



自身を彼のお母さんだと、自分を買いかぶっていた。



母は偉大。



俺の腹は、偉い大きいが決して偉大ではない。



俺の腹の中に彼が居たことなど、一度も無い。俺はお母さんにはなれません。





それではしきり直しだ。



彼の悩みが、どの揚げ物にするか?であれば、俺が決めてやろう。



それで全て解決だ。



彼の泣く理由はなくなる。



俺の中のコンシェルジュ魂に火が点く。





「意外と、アジフライなんじゃないか?」





男児の涙が止まった。



「は? おじさん、誰?」




「嘘だろおい。先ほど、あんなに自己紹介したじゃないか。



それに君のお母さんじゃない。それも説明したはずだ。まだ俺をお母さんと思っているのか。



困った奴・・・失敬、人だ。」




「え?え?



ごめんなさい、迷子になってしまって、泣いてて聞いてなかった。」




「そうか。では仕方あるまい。



俺は、こう見えて君のお母さんじゃないんだ。



俺の腹は、偉い大きいがね・・・。君は、君のお母さんの腹の中にのみ、居たことがあるぞ。」





「では、あらためて宜しく。



迷子の君に、俺が答えをあげるよ。



意外と、アジフライだ。



わかったね、アジフライなんだ。」





彼はまだきょとんとしている。



仕方ない、背中を押してあげよう。



俺は、彼と揚げ物コーナーの間に、ぐいと体を捻じ込む。



彼は俺の思い切りのいい背中に、惚れ惚れする。



俺はトングでアジフライを掴む。



もちろん2枚。



俺は2枚掴みが上手だ。ロースカツもそうする。





その瞬間。



「お母さん!!」





彼が急に声を張り上げた。



なんだ?!



今日イチ、デカい声だ。



急に演劇の練習を始めたのか!?





「お母さん!!」





なんて大きい声だ、小学1年の声とは思えない。



やはり演劇の練習か。



しかも、アジフライに決まったというのに、再び泣いている。



しかも、今なんて言った?



あんなに説明したのに、まだ俺をお母さんと呼んでないか?





俺は腹を軸に、ぶるんと体を回転させ、アジフライをその勢いでビニル袋に入れ、彼の方を振り返った。





彼は俺の知らない女性に、泣きついている。



情けない男児だ。



アジフライに決まったのに、まだ迷って、あの女性の意見も参考にしようというのか。



あの女性のどこが揚げ物マイスターだというのだ。





俺は、彼を女性から引き離そうと、腹を推し進めるように、にじり寄る。





「やめたまえよ。」





「ごめんよおじさん、アジフライに決まったのに。」



と男児が反省を述べると思いきや、意外、女性が口を開いた。





「はい。もうしません。



この子から目を離さないようにします。ご迷惑をおかけしました。」





ははん。



そういう事だったか。母親の登場。





「彼女、嫌がっているじゃないか。」



しまった。



やめたまえよ、彼女嫌がってるじゃないか、と言いたくて仕方なくて、つい言ってしまった。





女性は



「え。この子は男の子です。」





俺は心の中で「はい。」と思う。



そして



「ははは、冗談ですよ。よかった、よかった。」



と社会性を持って述べる。





彼と女性は俺に礼をし、手を繋いで、去った。



「あのおじさん、達太さんていうんだよ!」



彼の声が聞こえた。




なかなか、見どころがある。



しっかりと俺を達太と認識していたのだな。わかっていないフリをしていたか。遊びの効いた小学1年だ。



家に着くなり、親子でWEBで「達太」と検索するといい。





このエッセイに辿り着き、「これ僕のことだ!」「そうね!」と親子で盛り上がるといい。



父親は蚊帳の外、それは申し訳なく思うがね。盛り上がるといい。





そして20年後、小学1年だった彼も大人になり、書籍化されたこのエッセイを手に取る。



「じゅて~むか。面白そうだな。



・・・・・。



これ、俺の事だ。」



そのときこそ、彼は本当の涙を流すんだ。



そして毎年のように俺に歳暮でアジフライを贈ってくるだろう。



頼む、ハムのセットに代えてくれ。





じゅて~む







※人権週間について、適当に書いたら、なんと先週でした。驚きました。