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じゅて~む

じゅて~む エッセイ編 第44夜

2020.12.04 15:54












【あらすじ】



N県新潟市やN県長野市でコント活動をする集団の、コント台本を担当している江尻晴子(39歳)が、架空の男性・達太としてエッセイ連載にチャレンジ。



タイトルの「じゅて~む」は愛しているという意味だが、架空の男性・達太が主人公の小説「じゅて~む」からの引用でもある。



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俺は今、いちご狩りに来ている。



いや。正確には、いちご狩りを終わらせようと必死だ。





そして、ここらでひとつ、自己紹介を。



俺は達太だ。39歳の会社員だ。



外見は悪くは無い。ジャムおじさんやアンパンマンや、車種でいうとアンパンマン号に似ている。



ジブリ顔ならぬ、やなせ顔。



頬がとてつもなく盛り上げっている。盛り上がっているのに垂れ下がっている。重力の勉強にもってこいだ。



俺の腹だってそうだ。膨れ上がって、天を目指しているかと思えば、重力のせいで垂れてもいる。



とにかく勉強になる。




矛盾?



不条理?



SF?



すべて俺の腹に詰まっている。勉強になる。





俺は大盛が好きだ。定食が好きだ。ボリュームが好きだ。



グルメなのだ。



そんな俺がなぜ、いちご狩りをしているかというと、



正確にいえば、いちご狩りを終わらせようと必死かというと、



俺だって社会の一員。



出前を昼に食べるために出社しているとはいえ、歯車の一部。



会社行事だ。面倒くさい。





俺はいちご狩り開始5分にして、飽きた。



腰をかがめてまで、もいで、食べるものとは思えない。



このぶ厚い唇を、すぼめてまで食べる意味がわからない。





この腰は、味噌ラーメン大盛の食券を取り出すためや、華奢な美女のハンカチを拾うために、有る。



そのときには喜んでかがんでやろう。





また、このぶ厚い赤紫の唇は、



ーきっと肝臓に負担があるのだろう。



ボークソテーを大きく口を開いて食べるために、有る。



いちごの為に、すぼめるための唇ではない。




俺の唇をすぼめて良いのは、カツカレーの脇のカレールウだけだ。



それと麻婆豆腐。それと五目御飯のあん部分だけ。



それとグラタン。グラタンは冷ますときに。




この行事は、午前10時にいちご狩りを開始。



12時に「裕次郎」で松花堂弁当を、みんなで頂くスケジュールだ。



会議でよく通ったもんだ。



誰だGOサインを出したのは。



時間軸がおかしい。



移動も含めるとはいえ、いちご狩りに2時間はおかしい。



現に、俺は開始5分で、帰りたい。



いちご狩りは通常5分、せめて、13分で十分だ。



上も悪い。



年末で忙しいとはいえ、いい加減に企画案に目を通したのだろう。





かわいそうに。



女性社員らは、上に気を使い、さも楽しそうに唇をすぼめ、いちごを食べ続けている。



その唇は、彼氏のためにとっておけ。



かわいそうに、いちごなんか食いたくないだろうに。



「おいしいね!」



「いちご大好き!」



演技上手だな。涙が出そうだ。



これは立派なパワーハラスメントだ。





俺の中の正義に火が点いた。



本日は土曜。



何故、土曜にまで会社に気を使う必要がある。いちごを食べる必要がある。





俺は、いちご農園を出る。



車を走らす。





皆はバスで行事に参加中だが、俺は牛丼を食べてから参加したかったため、一人、自分の車でいちご農園に来ていたのだ。





俺は馴染みの定食屋に電話をかける。



「もしもし。唐揚げを60個、至急頼む。」



それだけ告げ、電話を切る。





おっとそれから忘れずに、



「もしもし。生姜焼き定食の用意も、頼む。こちらは1人前でよろしい。大盛でよろしい。」



大切なことを伝え、電話を切る。





おっと。もう一つ。



「もしもし。名乗るのを忘れていました。まずは自己紹介から。宮村達太。10分で行きます。」



電話を切る。





しかし、3分で定食屋に到着。





唐揚げ60個が揚がるのを待つ。



生姜焼き定食大盛は、美味しかった。店に気を使わせるのも悪いので、普段はいつの間にか腹に収めているお新香を、ポリポリと音をたてて食べ、しかし腹に飲み込まれないよう、しゃぶって待つ。



ポリポリ、しゃぶるには技が要る。



俺の唇はすぼまる。皮肉なもんだ。いちごの為に結局、唇をすぼめている。





なぜいちごの為か?



お察しの通り。



俺は、いちごと唐揚げをすり替えるつもりだ。



おおぶりのいちごと唐揚げの大きさが全く一緒で助かった。



いちごを食べているフリをして、唐揚げを食べる事ができる。





すべて、パワハラに耐える女性社員を救うため。



俺は厨房を凝視する。まだか。こうしている間にも、彼女らはいちごを食べさせられている。





「もしもし。唐揚げ10個追加で。そして、今出来上がっている10個を、こちらのテーブルへ。」



俺は今の一言で、先ほどの3度の電話が俺からだとバレたかもしれないとヒヤリとする。



だが、それでいい。



だってそうだろう?



唐揚げ60個(今となっては70個)を注文した人物がわからないままでは、困る。





俺は出来立ての唐揚げ10個を、大事に頂く。待ってろ女性社員。名前もウロ覚えの女たち。





やっと60個の唐揚げを受け取る。



「領収書はいりません。会社経費ではありません。」



俺はいちご狩りを企てた連中にあてつける。自腹だ。





いちご農園に戻った俺は、女性社員がいちごをもいで、手に取るなり、そのいちごをサッと奪う。



「え?宮村さん?」



俺は唐揚げを彼女の手に乗せる。





総勢5名の女性社員に、それを繰り返す。



女性社員は目を大きく見開く。手元のいちごが唐揚げにすり替わったことに驚く。



俺はぶ厚い唇に人差し指をあて、どんよりした目で彼女らの目を見つめ、「静かに」の合図を送る。





いちごを口元まで運んでいても構うものか。



いちごを奪い取り、唐揚げを口元に押し付ける。





いちごを口に含んでいる女性社員には、仕方ない、「お口直しに」と告げ、唐揚げを預ける。



本当は首にチョップしていちごを吐かせ、唐揚げをプレゼントしたいのだが、暴力は趣味ではない。





女性社員らの目には、俺がナイトに映るだろう。



イチゴをもぐなり側に現れ、イチゴを奪い、唐揚げをくれる、王子様。



間違った、ナイト。





上の連中には、十分いちごを食べているように見えるだろう。



少し色の悪い、いちごを。





いちご狩りを企画した奴らの悔しがる顔が目に浮かぶ。



「おおぶりのイチゴと、唐揚げの大きさが全く一緒だったとは、盲点だった・・・!」





さて12時の松花堂弁当まで、女性社員らの腹が空くか、それだけが心配だ。



俺の腹が12時の松花堂弁当まで、もつかも、心配だ。



女性社員5名に対し、唐揚げ60個。平等ではなくなるのも心配だ。





余る10個は俺が頂くか、それとも、部長にすり寄り、部長がいちごをもぐなり、唐揚げとすり替えて差し上げるか。



ナイトである俺だって部長には媚びへつらう。世の中そんなもんだ。



「宮村君、何やってるんだ!なんだこの唐揚げは!」



「へへへへ部長、すこぉし色の悪い、いちごですよ。何の問題もありません・・・・・・・・。」





女性社員らが、イチゴを狩らなくなってきた。



やはり、飽きたか。



それとも俺に恋するのが怖いか。



それとも、ただただ俺が怖いか。





今夜も俺がじゅて~むされる側になってしまった。



俺のような男性が、すべての女性の前に現れますように。





じゅて~む