Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

じゅて~む

じゅて~む 第二夜 【肉】

2020.09.19 20:09












【あらすじ】



高木ブー氏にそっくりの青年、達太は、回転寿司屋で一人の女性に一目惚れをしてしまう。



達太は彼女にアプローチを仕掛ける。バーにいるわけでもないのに「これと同じものを彼女に」と、自分が平らげたお寿司と同じものを彼女にプレゼントしてしまう。



32皿もあるし、なかにはカルビ握り5皿も含まれているし、「あちらのお客様からです」と店員は達太を指すし・・・。



達太は恥ずかしさのあまり「頭隠して尻隠さず」を実践。カウンター下に頭をのめり込ませ、尻を突き出した。



なんと達太は「頭隠して尻隠さず」を「攻守逆転」の手段と覚え違えていて・・・。中国の兵法みたいだったから・・・。



おまけに、「起承転結」にのっとり物語を展開すべきところ、達太の好きな言葉「弱肉強食」にのっとり物語は進むことに・・・。



第2夜は、なんと「肉」・・・。



どうなる達太の恋愛。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



目が覚めると俺は、肉屋の自宅部分にいた。



お日様の匂いのする布団。



気持ちがいいではないか。





「お目覚めですか。」



肉屋のおかみだ。



ときどき小腹が空いたとき、そう、チャーシュー麺だからとチャーハンを頼まなかったときの13時頃にお世話になっている肉屋。



決まってメンチカツを2枚頂く肉屋。



トンカツ2枚だと多いからメンチがちょうどいいんだ。



「ここは。」



俺は問う。



肉屋の自宅部分と知りながら。こう問うことで、肉屋のおかみは俺がここに横たわっている経緯も含め話してくれるはずだ。



手っ取り早い。



「宮村さんは、回転寿司屋で倒れたそうです。カウンターに潜り込んで、上手に出られず、頭を強く打ったそうです。」



そら。経緯から話してくれたろう?



だが、それが聞きたいわけではない。なぜ、病院ではなく肉屋に?



「宮村さんは、意識が朦朧としてらして、何度も肉、肉、中田精肉店、と口走ったそうです。」



ははん。なるほど。わかってきた。



俺は寿司屋で32皿を平らげたが、所詮は魚介。物足りなかったのだろう。



回転寿司を食い終えたのは12時半。



おそらく13時にメンチを2枚頂きに、中田精肉店を訪れる予定だったため、意識朦朧の中、中田精肉店を連呼したのだろう。



正しいではないか。



現に、俺は今、中田精肉店の自宅部分の客間にいる。



メンチと隣り合わせだ。



おかみは続ける。



もう十分だ、俺は、すべてを察知した。



だが耳を貸してやろう。常日頃メンチに、それに実は鶏もも揚げにも、お世話になっているのだから当然だ。





何故だ、今日の俺は優しいな。まるで女にほだされたように・・・。



「宮村さんは、中田精肉店の方なんですか、との質問に深く頷かれたそうです。それで、ここに運ばれてきたって訳です。」





・・・は?



これには俺も驚いた。



「中田精肉店の息子さんなんですか、との質問には、宮村さんはコクコクと何度も頷かれたそうです。」



これには俺も驚いた。そうかコクコク頷いたか。



無意識は恐ろしいな。俺は、中田精肉店のせがれと認めてしまったようだ。



潜在意識の現れだろうか。



これまで中田精肉店のせがれになりたいと思ったことは、あったか、なかったか・・・。





そこへ。



うら若き女性の声が。



「ただいま」



ただいまだと?息子の俺を差し置いて、誰だ、中田精肉店の玄関を跨ぐヤツは。



「おかえり。ちょっと今、体調の悪いお得意さんが客間に寝ているから静かにね。」



おかみがそいつの相手をしてやっている。



すっかり息子の気分の俺は、おかみが他の誰かの相手をするのが気に入らない。



俺は、肉がまつわるとたちまちに心が狭くなる。そういうきらいがある。




そこへ肉屋の店主登場。



「宮村さん、元気になりましたか?



もしお腹が空いているようなら何か揚げようか。メンチがいいかな。」





「いや、トンカツを2枚、お願いします。」



俺はすらすらと答える。



店主の声で俺は我に返ったのだ。



やっと頭がはっきり、高速で回りだした。



俺は、肉屋の息子ではない。



回転寿司で倒れ、運ばれ、お世話になった。迷惑をかけたのだ。



いつものメンチ2枚では、感謝してもしきれない。



トンカツを2枚だ。



感謝を示すにはそれしかない。



そして、中田精肉店の息子になるには、先ほど聞こえた声の主、この家の娘に嫁ぐしかない。婿入りするんだ。





だが。



プロポーズの言葉が浮かばない。



いつもは手段を選ばず、冷酷なまでに目的を遂行する俺が。



中田精肉店の娘を口説き落とすくらわけない。毎日トンカツやメンチを食うためならば、手段はいとわない。



だが。



俺は、このまま婿入りしてはいけない気がする。





「やはりトンカツ4枚を。」



気付くと俺は、トンカツを倍、頼んでいた。



2枚は自分。もう2枚を、誰かに渡さなければならない気がするのだ。





「あいよ。4枚ね。



そうだ、ここに運んでくれた彼女に、宮村さんお礼を言いたいだろう。彼女の連絡先を聞いておいたよ。」



店主は俺に、電話番号の書かれたメモをくれる。



美しい文字が、そこにあった。



「これは。」



俺は店主に問う。



「回転寿司屋で宮村さんにご馳走になったとか言ってたなあ。そういや宮村さん、うなされながらバラ、バラって言ってたよ。豚バラのことかい?」





「ああ。おそらく、そうだろう。豚バラは大好きだからね。」



そう答えながらも、達太は薔薇の花を思い浮かべた。





薔薇?



今日はバラ園には言っていないし、薔薇を口に咥えてポーズして遊んだりも、していない。



なぜ、薔薇。





なんと達太は、頭を強く打った衝撃で、記憶喪失を起こしていたのだった。



しかも、薔薇のような女のことだけ、すっぽりと、忘れてしまったのだった。





トンカツ2枚は自分、トンカツ2枚はその女へ。



達太は自分の本当の気持ちに気付けるのか。それともこのまま、中田精肉店の娘にプロポーズしてしまうのか。



次回、弱肉強食の「強」に続く。