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じゅて~む

じゅて~む 第一夜 【弱】

2020.09.18 16:34












【あらすじ】



あらすじ?



そんなものは要らない。



小説の第一話めに「あらすじ」があったら「下巻を買ってしまった?!」と、人は取り乱すものだ。





俺は達太。39歳の会社員だ。



好きな花は薔薇。



好きな言葉は「弱肉強食」。



知らない奴は小学校からやり直しな。



似ている有名人はバッハ。



代表曲はフーガとG線上のアリア。



知らない奴は音大からやり直しな。



バッハについて教えてやれるほど、俺はバッハを知らない。



俺こそ音大からやり直しか。音大を出てもいないのに。乱暴な話だ。




ところで俺はエッセイストでもある。



仕事の無い土日限定でエッセイを発表している。





9月。四連休がやってきた。



俺は土日のエッセイを書くのを辞めた。



土日祝の四日間で、四話にわたる恋愛小説を書くことにしたのだ。



四日あれば「起承転結」に十分だ。



だが。



「起承転結」するくらいなら、好きな言葉である「弱肉強食」で行こうじゃないか。





一話めは「弱」





俺に、弱みができた。



女だ。





俺だって回転寿司くらい行く。



食い足りないという事は、無い。



何皿でも食うから心配無用だ。



頭を使えよ?



親指サイズの寿司のシャリだが、何皿も食えば、丼いっぱいの大盛ごはんに相当する。



だが、別の考え方もある。シャリが親指サイズで食った気がしないため「ゼロ」と捉える。



すると、何皿食っても、例えば32皿食っても「0×32=0」だ。



あくまで例だがな。




だから俺は32皿食い終え、まだ食えるが財布の都合でそろそろ会計をしようとしたとき。



俺の2つ空けて隣に、女が座った。



俺は横目で女を盗み見た。



回転寿司屋にいるというのに、ここが高級寿司屋と錯覚するくらい、雰囲気のイイ女であった。



俺の腹の左上あたりが、熱くなる。



俺はいつでも腹を中心に考える。



腹の右にあるのが、右手。



腹の左にあるのは、左手。



腹より上が頭脳。



腹からぶら下がっているのは両足だ。



そして、女を目にして熱く熱くなっている腹の左上。



胸というやつだ。面倒なことになった。恋愛は面倒なんだ。





俺は薔薇が好きなのだが、面倒なことに女は花で例えるなら白ユリ。



もしくは薔薇だった。





エプロン姿の板前が、女に注文の仕方を説明している。



野暮な。



高級寿司屋では大将に任せた方が、地のもの、旬のもの、を頂けるというのに。テレビでそう学ばなかったのか?



それに、何故この板前はエプロン姿なのだ、女装か。ならばナイーヴな問題、そっとしておいてやろう。





・・・違う。ここは回転寿司屋だからだ。



女の纏う高級な雰囲気のせいだ。



板前がナイーヴな問題を抱えていたのではない。ナイーヴなのは俺の方だったのだ。



しかし、我に返ってからの俺の判断力は素晴らしかった。



回転寿司となれば、一期一会のイイ女にご馳走しない手はない。





俺はボウイを手招きし、耳打ちする。



「彼女にこれと同じものを。」



ボウイは困惑する。



なんせ食い終えて積み重ねられた32皿だ。



同じものと言っても、ネタがわからなければ作れないというわけだ。



俺だって覚えちゃいない。何食ったかなんて。寿司を食った、それだけが真実。



どうするボウイ。



俺と薔薇女のキューピッドとしての君の力を、存分に発揮したまえよ。





ボウイは店長らしき男に相談。



そして店長は何やら端末を操作。



操作しながら店長は32と呟く。



無事に女の元に、俺が平らげたと同じメニュの寿司が流れてきた。





女は注文した覚えがない旨を、ボウイに告げる。



そのとき、俺は女の声に驚いた。



美しいのだ。



「炙りサーモンは頼んでいないのですが・・・」



には、まだ俺も理性を保てていたが、



「カルビ握り」も頼んでいない旨を女が述べたとき、俺の理性は吹っ飛び、女が焼き肉を注文する様を想像してしまったのだ。



カルビ、豚バラ、タン、トントロ、豚バラおかわり、ハラミ、冷麺。



美しかった。



しかし。同時に俺はカルビ握りのチョイスを恥ずかしいと思った。



こんな気持ちは初めてだ。



結構、寿司屋で肉を注文していたことを恥ずかしく思ったのだ。



思い出すだけで恥ずかしい。俺はカルビ握りを5皿は食ったはずだ。この後女の元に5回もカルビ握りが来る。



しまった。思い出した。ハンバーグ握りなる、ミニサイズのハンバーグが乗っかっているだけのヤツも食ったかもしれない。あれは寿司ではない。



俺の顔は真っ赤になる。





そのときボウイが



「あちらのお客様からです」



と女に説明。



俺はカウンター下に頭を突っ込む。





弱っている姿を女に晒すわけにはいかない。



こんなピンチにも俺は冷静だ。



「頭隠して尻隠さず」



という格言を思い出したのだ。



おそらく、中国の兵法が由来の格言だろう。



頭を隠して尻を思いっきり突き出せば、その突拍子もない様子に場は混乱し、攻守逆転する・・・という意味合いだろう。



相撲でいう猫騙しか。





さあ、攻守逆転なるか。





こうしている間にも、女の元に寿司はどんどん届くだろう。



もちろん「あちらのお客様から」だ。





しかし、そこにあるのは尻。



偶然だがリーバイス501だ。



せめてもの恰好はつく。





【第2話「肉」へ、続く。】