山本理顕の 街は舞台だ「谷戸地域」
第11 回
魅力的な住宅地、新たな観光地にしよう
谷戸*地域 (横須賀市)
行燈のようなカフェハウスがあちこちに点在している谷戸の景色
(実際の谷戸の写真に、山本理顕が東日本大震災の被災者のために設計した「みんなの家:岩手県釜石市平田」を合成)
横須賀は明治初期から軍港として栄えた街だ。市内には平坦地が少ない。そこで谷戸地域が住宅地として選ばれ、発展につれ傾斜地へと広がっていった。
近年、谷戸地域で深刻な空き家問題と高齢化が進んでいる。2011年の報告書によると市全域の空き家率(戸建住宅)は7.5%、谷戸地域は7.9%とさほど差はないが、車で家に横付けできない建物の空き家率は12.3%、中でも階段のあるエリアは14%と非常に高い比率となっている(1)。階段状道路は台車やキャリーバッグが使えず、日常の配達・買い物もままならない。また、少子高齢化の指標である老年化指数*も1983年は53.49だったが、2010年は261.06と約5倍となっている(2) 。
斜面地というのは実は大きな観光資源なのである。イタリアのアッシジやペルージアやサン・ジミニャーノのような中世都市、エーゲ海の島々の町、みんな斜面地の街である。いずれも世界有数の観光地だ。
その斜面の街の高低差を解消させる巧妙な技もある。例えば、ポルトガルのリスボン。上と下の街を結ぶ高低差45メートルのエレベーターは1902年完成の24人乗り。その美しい立ち姿は市民の足であり、今でも街の観光資源だ。ブラジル・リオのファベーラでは、ロープウェイが日常の交通手段だ。
この横須賀の谷戸も、ちょっとの工夫で楽しくなる。住み易くなる。例えば、高低差5〜10mごとに小さなカフェハウスをつくる。休憩所であり、住民が世間話をする場所である。こうしたカフェハウスが斜面に点在していれば休みながら登れる。景色が良ければ観光客も来る。大きな行灯みたいなカフェハウスが斜面のあちこちに点在していればそれだけで楽しい。(談)
階段が続く斜面地
*谷戸:丘陵地が浸蝕された谷状の地形。
*老年化指数:老年人口(65歳以上)÷年少人口(0〜14歳)×100で算出する。
(1)、(2):平成23年谷戸地域空き家等実態調査報告書(横須賀市)より
企画・監修:山本理顕(建築家)
1945年生まれ。71年、東京藝術大学大学院美術研究科建築専攻修了。東京大学生産技術研究所原研究室生。73年、株式会社山本理顕設計工場を設立。2007年、横浜国立大学大学院教授に就任(〜11年)。17年〜現在、横浜国立大学大学院客員教授。
©Jake Waltersm
キャリーバッグも使えない階段状道路
谷戸を取材する山本理顕