議員提案条例を手伝う職員は飛ばされる?
Googleニュースをカスタマイズして、特定のキーワードに関連する記事をメールで配信されるように設定している。昨日、富士市議会議員の鈴木こうじ氏の下記の記事が配信されてきた。2016年5月13日に受講した一般財団法人地域開発研究所の 牧瀬稔氏の講義内容のようだ。
私は、鈴木氏及び牧瀬氏と一切関わりがないことをあらかじめお断りしておく。
「議員提案条例を手伝う職員は飛ばされるのが現状」という一文が大変興味深い。
首長と議長は、別個の任命権者なので、議会事務局の職員を議会が独自に採用することは、法的には可能なのだが、実際には、首長が採用した職員を議会事務局へ転任させているので、議会事務局職員は、いずれ首長部局へ戻ることを念頭に、首長の方を向いて仕事をしていると言われている。
議会事務局職員が議員提案条例を手伝うと、常に飛ばされるかというと、統計がないので、確定的なことは言えないが、議会事務局職員が議員提案条例を手伝った結果、評判の良い条例が成立した場合には、この職員の評価が高まり、プラスに働くこともあるだろうが、逆に「出る杭は打たれる」でマイナスに働くこともあり得る。
プラスに働くかマイナスに働くかは、条例の内容やこの職員の人柄・能力、首長と議会との関係等の不確定要素によって左右されることが多いと思われる。
例えば、首長と議会との政治的対立が深刻化している場合に、議会事務局職員が議員提案条例を手伝うと、敵に塩を送った裏切り者として、首長部局に戻った際に、報復人事をされることもあり得るだろう。その条例が首長の意に添わない場合には、なおさらだ。
議員提案条例を手伝った職員さんは、ご自身の仕事を誠実に遂行しただけであって、それを理由に報復人事をされるというのは不条理だが、官民問わず、組織で働く以上、組織の論理に翻弄されるのは世の常だ。
このような組織の不条理から職員さんを守るためにも、議長が議会独自に議会事務局職員を採用するのが一番手っ取り早い。
上記記事にもあるように、法制執務担当だった元職員を再任用するのも良いだろう。また、弁護士を任期付職員として採用したり、近隣自治体の議長と一緒に又は議長会で合同の職員採用試験を実施したりする方法もある。首長と議会が政治的に良好な関係に立っている場合には、首長部局の職員採用試験と合同で行うこともできる。
いずれにせよ、ネックは、予算だ。議会は、予算案審議において予算案の増額・減額修正をすることができるが、予算案の調製・提出権は、首長の専権事項であることから、首長の予算案提出権を侵害しない範囲内で増額修正をすることができるにすぎず、例えば、予算案に新たな「款」又は「項」を加えることは、原則として長の提出権の 侵害になると解されている(猪野積『地方自治法講義〔第4版〕』第一法規。193頁)。
従って、議長が議会事務局職員を独自に採用するための予算を首長が予算案に盛り込んでくれない場合には、議会がこれを新たな「款」又は「項」として付け加えることができず、結局、独自採用を行うことができなくなるわけだ。
では、どうすべきか。条例化すればよいのではなかろうか。例えば、議会基本条例の中に、議長が議会事務局職員採用試験を実施する旨の規定を追加すれば、首長もこれを予算化せざるを得ないからだ。
ただし、「議会が予算を伴うような条例その他の案 件を提出する場合においても、地方自治法 第 239 条の4(現行法では第 222 条)第1項の規定の趣旨に則って、予め長との連絡 を図って財源の見透等意見の調整をする ことが適当である。」というのが行政実例だ(昭和32年9月25日栃木県総務部長宛 行政課長回答)。
再任用される元職員さんは、自治体行政に精通しておられるが、議会事務局職員として新規に採用された人は、行政実務の知識経験が皆無ないし乏しいから、研修が必須だ。近隣自治体又は議長会で合同研修をするにしても、予算が必要なので、この点についても、条例化する必要がある。
まあ、以上述べたことは、机上の空論にすぎないけれども、例えば、横浜市議会(「横浜市会」と呼ぶそうだ。)は、議会事務局(「議会局」と呼ぶそうだ。)に政策調査課を設けて、議員のための情報誌 『市会ジャーナル』を発行するなど、議会事務局の強化に力を入れている。実現可能性の高いものから、少しずつやっていくことが現実的だ。
議会事務局の強化については、中央大学法学部礒崎初仁教授の「自治体議会の課題と事務局の役割 ―「政策に強い議会」をつくる―」が詳しい。