富士山(ふじさん)入門編:5合目日帰り
日本の中でいちばん高い山は富士山。標高3776mです。平成の日本は国際社会が進み、外国から短期滞在者や永住の在留資格等を取得した外国人が増加しています。その人たちは、生まれ育ってきた国と日本国の大自然や文化、技術を比較し、様々な違いを感じていることが考えられます。「富士山」という山に対して、あなたはどのようなイメージを持っていますか?もしかすると、近くにいる海外出身の方はそれほど高い山と思っていないのかもしれません。
各日本百名山で海外の方がラフな服装・靴や装備で歩いている姿を見ることがありますが、登山に対する知識・技術が初心者レベルというわけではなく、その方が母国と日本国の大自然を比較し意味を持って活動していることが考えられます。国際社会の特徴は、様々な価値観が飛び交うため、向かい合う人の行動に意味があるという認識を持ってコミュニケーションをとることも国際マナーのひとつになると考えられます。自分が旅行先で目の前の人にいきなり否定をされたり笑われても、その人の意見を素直に信頼して頷けばいいか不安になります。
今回も、海外から来た方が冬山をハーフパンツ・普段靴で富士山を登山していました。そのルートを紹介したいと思います。富士山には4つの登山道があり、今回は「吉田口登山道」を選択しました。吉田口登山道は、『馬返し』という1合目よりも更に下からスタートする地点と、5合目から合流できる『富士スバルライン5合目』という地点があります。
<馬返し:交通アクセス>
マイカー・・東富士五湖道路富士吉田ICから30分
バス・・富士山駅(富士急行線)より馬返し行きの運行バスに乗車
<富士スバルライン5合目>
マイカー・・東富士五湖道路富士吉田ICから富士スバルライン有料道路を利用
バス・・新宿高速バスターミナル、横浜⇒センター北駅、たまプラーザ駅より高速バスに乗車
※富士スバルライン5合目にはタクシー専用乗り場があります。
富士スバルライン有料道路の営業時間は季節で異なり、11月後半から4月までは9:00~16:00で営業時間外にマイカーを駐車しておくことができません。その期間は富士山の氷雪地帯で登山事故が発生しやすくなるため、5合目より上で宿泊登山することを防止していることが考えられます。また、富士スバルライン有料道路は積雪により通行止めになる日が多いため、5合目からの登山計画を予定通りに遂行できるとは限りません。そのため、冬の吉田口登山道は上の写真にある馬返しという1合目より下の駐車場からスタートする登山者が多くなっています。
5合目には1年中営業している山小屋があり、この『馬返し』から2時間45分(休憩なし)で登ることができます。5合目山小屋と富士スバルライン5合目との間は1時間です。5合目山小屋と頂上までの間は5時間(休憩なし)で登ることができますが、天候や季節によって大きく左右されます。
では、この馬返し、なぜ馬返しという名前。昔は下から馬に乗ってきた人たちが、ここで登れなくなることが多くなり、引き返すための準備・休憩場所として茶屋がありました。それが馬返しの名称由来と言われています。
大正時代、馬返しには身のお清めをする禊所(みそぎじょ)が建てられました。古来より馬返しから頂上までは富士山の聖域とされていたため、信仰により登山する人々が禊所でお祓い(おはらい)を受けてから山頂を目指しました。この禊所が建つ前の時代には馬返しと1合目を結ぶ旧登山道がありました。吉田口登山道ができた後、旧登山道入口の上に禊所を建てて新しい道へ迂回させていました。
登山道は足元が整備され幅も広く一列にならなくても歩ける余裕があります。
案内標示では、馬返しから1合目まで15分とされています。富士山の初登山・再会により、ここまでは時間を意識せずに大自然の魅力を堪能しながら歩く方が多いのではないかと思います。
案内標示では、1合目から2合目は30分とされています。どこの登山でも、最初の服装でスタートすると体中が熱くなり汗が出てきます。2合目は小休憩するのにおすすめです。水分補給や上着を1枚脱いでみたり、ザックの中のものを出し入れしてもう一度準備を整えると2合目より先の登りがラクになります。
2合目には崩壊した冨士御室浅間神社があります。781年から長期に渡り富士山が噴火し、周囲の住民が遠くに避難することになりました。富士山には浅間の神(火山の神)がいるとされ、富士山の周囲から火山を鎮めるために浅間の神を祀ったのが浅間神社です。この冨士御室浅間神社は山宮とされ、本宮(里宮)は富士河口湖町の河口浅間神社に境内があります。この2合目の山宮は浅間神社のなかでいちばん古く、富士山周囲に複数ある里宮は遠くから鎮火を祈る場所として祀られました。
吉田登山道の馬返しに向かう際に寄ることができるのは北口本宮冨士浅間神社です。世界文化遺産に登録されていることや、重要文化財に指定されたものが多くあります。
朝いちばんの水がとても冷たかったです。
本殿の両脇には大きな神木が立っています。
この北口本宮冨士浅間神社の当初は諏訪神社であったことが伝えられています。
2合目の上には御室浅間橋があり、そこから流れて固まった黒い溶岩を見ることができます。冬は森林の葉が落ちるため、その溶岩を下まで見渡すことができます。
案内標示では、2合目から3合目まで20分。3合目には江戸時代から三軒茶屋が建っていました。ここからの見晴らしがよかったため、多くの登山者がここで休憩をとったことが伝えられています。富士登山の行程ではここで昼食をとることが多かったことから、三軒茶屋は中食堂とも呼ばれていました。
3合目を過ぎると、少しずつ雪や氷が増えてきます。登るときはそれほど恐怖感はありませんが、降りるときはよく滑べるので、複数で歩いていても会話が減少し緊張感が高まる道になります。
雪があまりないと思っていても、土が凍結しているためストックが簡単に地面から逃げてしまいます。こういった場合は、登る時も降りるときもストックに頼りすぎると簡単に転倒してしまうので注意が必要になります。
案内標示では、3合目から4合目まで20分。4合目には江戸時代から大黒天という茶屋が建っていました。屋内には開運大黒天が祀られ大黒室または大黒小屋とも呼ばれていました。開運大黒天は福の神とされ、茶屋では木版で削った大黒天像を登山者たちに授けていました。
この日の4合目は、足元の雪が硬くて自分の足跡が着きませんでした。でも人間とは違った形の足跡を色んな場所で見ることができました。
ちょっと、ややこしいのが5合目。この山小屋を見て「もう5合目まで来ちゃったじゃん。」と思う人がたくさんいたのではないかと思います。ここは5合目のまだ入口。御座石浅間の社と井上小屋があります。この山小屋はしっかりと残っていますが、営業はしていません。
更に上にも5合目という標示があります。ここは、登山切手を交付する場所として中宮役場といわれたものが建っていました。この先は「中宮」「天地の境」の領域として登山者から入山料(122文)を徴収していたことが伝えられています。他にも中宮役場は早川館、たばこ屋、不動小屋がこの先に並び、当時の写真や建物の図面が案内されてありました。
5合目に入ると雪の量が増え、柔らかいところを歩いている感覚も増えてきます。にしても、まっすぐに伸びた先に太陽があったため、足跡をつけるのが少しもったいないくらいでした。
目の前に、道路に出るための階段が見えてきました。
道路に出ると、カーブミラーのある方は「富士スバルライン5合目」です。
道路を跨いで上に登ると、これぞ本当の5合目「佐藤小屋」です。標高は2230m。4合目からは60分となります。残念ながら、本日休業となっていました。この先は、山頂へ繋がっている登山道と小御岳社へ進むための小御岳道があります。
この上の写真が、山頂へ繋がっている登山道。
この上の写真が、小御岳社へ進むための小御岳道。小御岳社は富士スバルライン5合目の中にあります。ここから休憩なしで60分になります。
5合目の小御岳道から見た富士山の頂上です。
小御岳道から北側(正面)に河口湖が見えます。
小御岳道から東側(右側)に山中湖が見えます。
小御岳道の恐ろしいのは、積雪でいちばん端側しか歩けないため、足を滑らせると下まで滑落する危険性があるところです。
上を見ると、とにかく眩しい。雪が太陽を反射させて光っていました。
富士スバルライン5合目に到着。冬場はどこも営業をしていません。また、小御岳社も休業となっていました。富士スバルライン5合目は、高速バスやタクシーでも来ることができるため、もし5合目から宿泊登山を計画する場合はマイカーではなく高速バスかタクシーを選択することをおすすめします。
お店は営業していなくても、トイレが利用できるため休憩場所として助かるポイントになります。
富士スバルライン5合目は、標高が2305m。スタート地点や5合目の佐藤小屋よりも西側へ移動するため、富士山の見え方が違います。
富士スバルライン5合目側は、11月から4月まで頂上へ行くための登山道が冬季閉鎖されています。そのため、5合目の佐藤小屋の方から頂上へ向かう登山者を見ます。
今回は日帰り登山のため、ここで折り返しとなりました。また小御岳道を慎重に歩いていきました。
あれ?さっきは、休業中の札が営業中に変わってました。
佐藤小屋の営業は通年で収容人数が100名になっています。
〈佐藤小屋HP〉
佐藤小屋のご主人はとても明るく親切な方でした。また行きたくなるようなあたたかさを持った山小屋です。
富士山は5合目をスタート地点にすることや、折り返し地点、宿泊地点として利用されます。5合目の魅力は、①標高が高く景色がいい②山頂を見上げた景色が綺麗③高山病のリスクが少ない④日帰りできる時間で登山できるといったもがあります。まずは、5合目に慣れることで頂上への安全な登山道が開かれるといえます。