Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

yoyo

菊池良『タイム・スリップ芥川賞』

2022.06.06 14:06

ある書評で芥川賞の歴史を辿れば文学の歴史が見えてくると評されていたので、いつまでも文学というものが分からない私は手に取ってみた。とても面白くて、受賞者たちの存在をそばに感じながら文学という一本の筋が見えてくるようだった。しかしそれが見えてくるにしたがって「文学」として取り上げられなかった「文学」の存在もまた強く感じた。


読みながら思ったのは芥川賞から見えてくる「文学」(文壇と言った方がよいのかしら)はほんとに一部の人(賢い男性)たちが作り上げてきたものなんだなということ。批評家がすごいやついるからみてみてよと紹介し、編集者が書いてみてよと言って、書いて、受賞して。ゼミでいいやついるから就職先紹介するみたいな、インテリおじさまたちのゼミみたいな感じ。文学に限らずアカデミックな場というのはそういうものなのだろうけれども、文学史に触れるたびいつもそのことに新鮮に驚く。


00年代以降は女性の受賞者の割合も増えてきていて、そうなるには女性を受賞させようとした審査員がいるわけで、その審査員を審査員として迎え入れようとした人がいるわけで。その辺りフェミニズムの歴史と照らし合わせたら面白そう。というかすでにそんな本がありそうな気がする。


この本を読んで芥川賞の歴史を辿りふむふむと思う傍ら、賞がつくられた当時からきっとずっと賞とはかけ離れた場所で書いて、本を作っている人はいて、そういうゼミのような集まりだっていろいろとあったのだろうなと想像していた。そしてそれだって「文学」だよなと思った。数ある集団の中で賢い男性の集団が文学という通史としてまとめられるほどになったというだけで、芥川賞だけが真の文学で、最も偉いというわけでなく、いろいろある文学のうちの一つなのだ。