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超人ザオタル(71)草原の体験

2022.06.07 01:22

「たしかに、草原の雰囲気は独特でした、アジタ殿。

そこを旅して、私も変わったのです。

ただ、それは私が変わったのであって、世界を変えたわけではない。

それは私の身体や心も変わらなかったということ。


身体は相変わらず年老いていきますし、

心はあれこれと考えを巡らしています。

心配もすれば、悲しくなることもあります。

心の弱さは以前の私とさほど変わってはいないのです。


私がそこで知ったことといえば、

自分が誰なのかということだけです。

それが私を変えたことになるのでしょう。

それを知って、私は草原から戻ってきたのです」


私の話を聞いて、アジタは少し困惑したような顔をした。

多分、自分と同じ体験があるのではないかと期待していたのだろう。

しばらく間をおいてからアジタが口を開いた。

「自分が誰なのかを知る、ですか。


それはザオタル殿にとって意味があることなのでしょうな。

ただ、それは私にとってはすでに明らかなことですが。

それはつまりこの身体と心です。

それ以外にどこにも自分は存在しませんでしょう。


それ以外、どこに自分がいるというのですかな。

私にはザオタル殿の言っている意味がよく分かりません。

人間にとって大切なこと、つまりその願望は、

自分の身体と心をまったく健やかにすること。


そのために世界を旅して、あの草原さえそのためにあるのです。

健康な身体、慈悲深く、それでいて強靭な心、

そういった自分になることが、私たちの求めていること。

何も変わらないということは最も恐れていることです。


あの草原はそれを与えてくれる場所。

実際に私がそう感じているのですから。

自分を知ることなど、当たり前のことであって、

それを知っても、当然ながら何も変わりはせんでしょう。


失礼ながら、

ザオタル殿はそんなことのために草原に行かれたのですかな。

いやいや、もしかして謙遜されているのか。

本当は私よりももっと強い身体と心を手に入れたのかもしれない。


それをあえてひけらかさない。

強い心をお持ちの方はきっとそうするでしょうな。

自分が誰かを知るとは、そういう奥深いことを意味している。

いや、なんだか私は自分が恥ずかしく思えてきました」


アジタは私を敬うような目で見つめた。

「そういうことではないのです、アジタ殿。

私はあの草原で知ったことは自分が誰なのかだけなのです。

ただ、それは明らかに身体や心のことではないのです」