獣を背負った 男の子
家が近いというだけで
その男の子と娘は
一緒に
学校へ行く
一年生
黄色い帽子をかぶって
歩く
その男の子は
すぐに手を出す
すぐに死ねと言う
殺すと叫ぶ
乱暴ものと呼ばれた男の子
娘も
泣きながら帰ってきたこともあった
あざを創って帰ってきたこともあった
ある時は
お母さんに連れられて
ごめんなさい
そっぽを向きながら
伝えに来たこともあった
乱暴ものと呼ばれた男の子
小さかった
その子は
大きくなっていった
言葉は雑に大きくなって
行動は迫力を纏い
あからさまな
態度は
乱暴ものの成長を
さらに
大きくしたように見えた
見える姿は
荒れくれもの
形は
そう見える
でも
裏っかわは
全然違う
乱暴ものは
生き物を見ると目を下げる
優しく撫でる
生き物は
それを
感じて安心する
乱暴ものは
優しいと呼ばれる
言葉を発することは
少ない
でも
形ないもの
見えづらいもので
現す
娘の祖母が
肉体を置いて行った翌日
我慢しながら
学校へ行った娘は
乱暴ものだけに
そっと
起きたことを伝えた
そっか
お葬式
気を付けて行って来いよ
寄り添うのは
乱暴ものではなくて
優しい
男の子
単なる男の子と
単なる女の子の間に
静かに
在った
信頼感
見えるものって何だろう
見えないものって何だろう
乱暴ものと呼ばれる男の子
その
本当の姿は
誰に見えるのだろう
大人には
見えていない
信頼感は
いつの間に
男の子と女の子の間に
結ばれていた
大声を上げ声を枯らせて
体全部で
応援していた 最後の運動会
乱暴ものと呼ばれた男の子と
娘は
偶然
隣同士で踊っていた
その昔
家が近いというだけで
一緒にいなければいけなかった
そう不安を抱いていた
なのに
家が近くなかったら
一緒にいることはなかったんだ
思いは
いつの間にか
ありがとうに変わっていた
彼から
どれだけの
可能性を感じさせてもらったか
普通とは何か
普通じゃないとは何か
見えるものとは何か
見えないものとは何か
荒魂が在っての和御霊があるように
荒ぶる姿だけが
その姿じゃない
風と共に羽織った羽織
背中には
獣
その文字が書かれていた
獣の下にいる男の子
獣を背負った男の子
獣のおかげで
そのままの彼で居てくれたおかげで
活きた6年間を
送ることが出来たね
娘と私は
運動会の後
そう
話した