たからもの
2018.01.08 08:44
教室で彼女が寝ている。誰もいない教室、夏の日差しに輝く髪の毛。汗ばむ肌にかすかな寝息。
そこには完成された美があった。
…いつも騒がしくはしゃいでいるこの人も、寝ると静かになるんだな。
顔、じっくり見たの初めてだ。
おでこが広くて眉間が広い。 太めの吊り眉、たれ目で長いまつ毛。 鼻は小さく高い。
普段良く動く唇も今はじっとしている。
なんとなく、彼女の広いおでこに触れたくなり手を伸ばす。
「…」
思いとどまり手を止める。
この作品に私が加わるのは駄目だ。
わたしなんかが触ってはこの美術品の輝きを曇らせてしまう。 彼女を汚してしまう…
「…触んないの?」
驚いてそちらを見ると、彼女の睫毛の奥に輝く宝石と目が合う。
おでこ広いでしょ。触るとご利益あるよ。
――あはは。ありそうだもんね。
そう言いながら手を引っ込める。
今から帰るなら一緒に帰ろ!
――そだね。本屋寄ってもいいかな?
いいよ。じゃあ行こっかあ。
その言葉と同時に彼女が私の手を握った。
ハッとする。あぁ触ってしまった!
申し訳なく思い彼女の方を見る。彼女は相変わらず宝石を輝かせながら喋り続けていた。
…彼女にとって私の汚れなんかちっぽけなもので、彼女はそんなものじゃ曇らない。
くだらない杞憂だったんだ。
安心と嬉しさと、受け入れてくれたという気持ちを込めて彼女の手を強く握ると
笑いながら握り返してくる。
いつにもまして笑い声の絶えない、夏の日の廊下。