F.P.シューベルト 弦楽四重奏曲第14番ニ短調D.810 《死と乙女》
今日は終曲のシューベルトの《死と乙女》を紹介いたします。
当夜でクァルテット・エクセルシオの来演は16回を重ねますが、この名作中の名作はお初!というところがこの演奏会らしいです。
F.P.シューベルト
弦楽四重奏曲 第14番 ニ短調 D.810 《死と乙女》
こちらがその動画ですが、前回に続いて、クァルテット・インテグラによる演奏です。
シューベルトは、弦楽四重奏において、ベートーヴェンの後継者です。
二人は同時期のウィーンに生き、27歳下の《歌曲の王》は楽聖の没の1年後に夭折しました。
シューベルトの弦楽四重奏曲は全15曲で、未完や破棄したものを併せるとその倍近くもあります。
最初の11曲は13歳から19歳の作で、演奏機会は少ないですが、青少年時代特有の溌溂さ、心の光と影が鮮やかに描かれています。
その後に創作の転換期が訪れ、23歳作の未完成曲《四重奏断章》では、衝動的な感情吐露が描かれ、これまでとは一線を画す楽曲となっています。
そして、3年後、シューベルトに弦楽四重奏の創作意欲を燃やす出来事が起こります。
ベートーヴェンの四重奏曲の創作実験に貢献した四重奏団が、7年ほど前にパトロンのお家事情で解散したのですが、再編成されたのです。
ベートーヴェンは、10数年の空白があった弦楽四重奏曲の創作へ回帰し、人類の至宝である後期四重奏曲を残します。
それらに1年先立ち、シューベルトは彼の四重奏曲の中で最もよく知られる第13番《ロザムンデ》、今宵の第14番《死と乙女》を書き上げたのです。
シューベルトにとって、この時期は多様な作品を生み出した充実期でしたが、生活の窮乏や心身の悪化などに悩まされていました。
《死と乙女》が全楽章短調で、曲全体に憂いが覆うのは、こういった生活背景によると思います。
そして、タイトルの由来である自作の同名歌曲《死と乙女》の引用(第2楽章の主題)も外せません。
その歌曲の詩は、病に伏する少女と、彼女を死に誘う死神との対話からなり、その4年後に没する自身の行く末を予見するかのようです。
しかし、終楽章ではそういった気分を払拭し、ポジティヴな気分で推進し、高揚し、壮大な音楽を聴かせます。
先日、クァルテット・エクセルシオは東京と札幌でこの曲を奏で、《4人のエネルギーで大海原を渡っているかのような感覚で演奏しておりました。素晴らしい世界です。》と語っていました。
乞う、ご期待!