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デキレジ(デキる研修医)になろう!~一医学生の備忘録~

検査前確率・感度・特異度・尤度比・検査後確率 (メモ)

2015.12.02 08:51

2016.7/11 編集



【はじめに】

医師国家試験で問われるのは、ある疾患に対して「必要な検査の名前」と「その検査が何を測っているか」くらいしか必要としません。



たまに「検査の注意すべき副作用」や「ある疾患に対してしてはいけない検査(例えば、悪性黒色腫に生検など)」があるくらいです。さすがに血液検査は、正常値・範囲の知識が必要ですが。。



ですが、病院実習をしていて感じたことは、それだけでは足りなくて、



①検査の性能(感度・特異度、尤度比)

②異常値からどの疾患が鑑別に挙がって、なおかつ、どの疾患がどのくらいの頻度なのか

③検査にかかる時間

④検査そのものの手技の難しさ・侵襲性



などの知識も必要であることを感じています。



①は、Dダイマーは肺血栓塞栓症にたいして感度が高いので

→Dダイマーが低いと肺血栓塞栓症の可能性はかなり低くなる 



また特異度が低いので 

→Dダイマーの値が高いからといって、肺血栓塞栓症と言えるわけではない



②の例として、

Hb,Ht,RBCが低下していたとして、貧血を思い浮かべるわけですが、貧血の原因は様々あります。鉄分不足、出血、内因子の欠乏、骨髄造血能の低下。。。

まずは、MCHなどの計算で、正球性、大球性、小球性など分けますが、


例えば、小球性低色素性貧血という場合だとしても


鉄欠乏性貧血、鉄芽球性貧血、サラセミアなどが考えられますが、


一般的(市中病院の救急外来)な頻度(検査前確率)は、

鉄欠乏性貧血が圧倒的に多いです。


まずは鉄欠乏性貧血を意識しつつ、問診や身体所見、その他の検査を行わないと、非効率的です。



③は、結核が疑われる場合に性能の良い検査は培養検査です。喀痰塗抹検査は手技が簡単で結果もすぐ分かるのですが、もし染色される菌が出てきても、その菌は抗酸菌であるとしか言えません。抗酸菌には、結核菌だけでなく、マイコバクテリウムイントラセルラーレなどもいます。もし培養検査も結果がすぐ分かるならいいのですが、培養検査は時間がかかる(早くても2、3週間)かかるので、培養検査を待っていては、もし患者さんが結核である場合は、感染が周囲に広がってしまいます。


実際、ガイドライン的にも喀痰検査で陽性の場合(MAC症などの可能性もあり、それだけでは、本当に結核は確定できませんが)、まず隔離を行うとなっています。



④は、生検を行えば、実際に組織を見るので、がんと診断できる場合が多いです。


一方、最近健康診断でも取り上げられたりしている、腫瘍マーカーが上がっている(これだけでは、腫瘍があるという可能性が確実にはなりえません)というだけで、生検を行うのは安易だそうです。生検は侵襲性もあります。


やはり、腫瘍マーカーだけでなく、画像所見や身体所見も参考にして、ある程度事前確率を上げてから生検はすべきです。


以上、医学生の間では、自主的に学ばない限り中々学べないことを記載しました。




今回は、その内の

「検査結果の性能(感度・特異度、尤度比)」について、また、それだけでなく、検査の性能を分かった上でどのように検査を駆使していくかについても書きます。



【検査の性能】

《感度とは》

病気である患者さんのうち、検査で正しく陽性(異常)と出る人の割合のこと。


感度が高い

病気の人は陽性となる確率が高い

=見落とし(=病気なのに陰性となる=偽陰性)が少ない


感度が高い検査でもし陰性に

=病気の可能性が低い

→除外診断に有用!


ですので、感度が高い検査は、見落としを出来るだけ減らしたいときに選択します。


例えば、胸痛を訴えた患者さんがいたとします。でも患者さんの病歴から、肺塞栓というよりは、肋間神経痛が疑われたとします。病歴、身体診察からは肺塞栓の可能性が低いので、肺塞栓の可能性をより低めるために、D-dimerを測ってみて基準値よりも高くないなら肺塞栓の可能性はかなり低くなり除外できるレベルになります。



《特異度とは》

病気のない人のうち検査で正しく陰性(正常)と出る人の割合こと。


特異度が高い検査

=病気でない人は、検査で陰性が出る確率が高い

=過剰診断(=病気でないのに、陽性となる=偽陽性)が少ない


得意度が高い検査で陽性に

=陰性のものを間違って陽性と判定する可能性が低い

=Bという症状は、Aという疾患に特異的だ(特異度が高い)

→確定診断に有用



ですので、得意度が高い検査は、過剰診断されることによって危険な治療(放射線療法や手術など)を受ける場合や社会的負担を強いる場合など、少しでも偽陽性を減らしたいときなどに使用されます。



 


感度・特異度とも100%であることが望ましいが、現実にはそのような検査は存在しないみたいです。感度・特異度が最大限である検査が最終確定検査(gold standard)であり、臨床においては、生検や血管造影のように侵襲的な検査が多く、おいそれと簡単に行えるわけではないところが、臨床の難しいところみたいです。



また、検査での異常値や正常値などの決め方ですが、以下の様にカットオフ値を定めることで、決めています。




《カットオフ値の設定》

感度と特異度を同時に高めることは不可能なので、目的の疾患の特質(重症度・有病率など)に応じてどちらかを優先しカットオフ値を設定します。

 


定量的検査について、検査の陽性、陰性を分ける値のことをカットオフ値といいます。カットオフ値は基準範囲と異なり、特定の疾患(群)に罹患した患者群と非患者群とを分ける値であって、基準範囲はその検査項目に固有の値であるのに対し、カットオフ値は検査項目と疾患(群)の対に固有な値となります。

 

カットオフ値によって検査結果は陽性か陰性かに分けれられるので、感度、特異度を計算することができ、その疾患の診断における検査方法の優劣を比較することができる。

 


疾患群と非疾患群の検査値分布が図1のように離れている場合は、カットオフ値は図2のように設定すればいいですが、一般に患者群と非患者群の検査値分布は図2のように重なっていて、カットオフ値の位置により、感度、特異度は変動します。


図1



図2




カットオフ値を低めに設定すると感度は高くなる(偽陰性が少なくなる)が、偽陽性が増えて特異度は減少する。逆に高めに設定すると、特異度は高くなる(偽陽性が少なくなる)が、感度は低下する。(感度は疾患群の確率密度曲線(下図赤線)の曲線下の面積のうちカットオフ値より高値側の部分の割合であることに注意)

 


最適なカットオフ値はROC曲線(Receiver Operator Characteristic Curve)などを用いて設定されます。


ROC曲線は縦軸に感度、横軸に偽陽性率(=1-特異度)をとって、カットオフ値を変動させながらプロットしたときに得られる曲線です。

 

疾患群と非疾患群の分布が完全に離れているような理想的な検査の場合は(例えばこのページの一番上の図)、ROC曲線は図3の赤線のようになり。逆に両群の分布が完全に一致する場合は、上図青線のような点(0,0)、(1,1)を結ぶ対角線上にのります。この場合、検査は疾患の有無についてなんの情報も与えません。このとき

感度+特異度=1

の関係が成立します。



図3



通常の検査の場合は疾患群分布と非疾患群分布が重なるため、ROC曲線は図3の緑線のようになる。二群の分布が離れるほどROC曲線は図3の赤線に近づく。このため、ROC曲線はその疾患を診断するときの、いくつかの検査方法の能力の違いを比較するときに役立ちます。


疾患群と非疾患群とを分離する能力が高い検査ほど、そのROC曲線は上の赤線のグラフに近づくが、このときROC曲線の下の面積( Area Under Curve : AUC )は1に近づきまし。


すなわち AUC の値によって、検査方法の能力の差を定量的に比較できます。


1 > AUC > 0.5 ですので、AUCが大きい(1に近い)検査ほど診断能力が高いといえます。

 

感度、特異度をともに高める(1に近づくようする)ためには、カットオフ値はROC曲線上で点 (0,1) にもっとも近い点を与える値に設定すればよいことになりますが、通常は、その検査が診療の過程でどのような目的で(スクーリングとして用いたいのか確定診断のために用いたいのかなど)用いられるかということを考慮します。



《尤度比》



《検査前確率・検査後確率》






 



 



【メモ】

☆小球性貧血ー検査前確率 

1位:鉄欠乏性貧血(圧倒的)

2位:二次性貧血 



☆フェリチン<12 ng/mL

高(特異度)ー鉄欠乏性貧血



☆MCV≧120 

高(特異度)ー巨赤芽球性貧血



☆LDH

高(感度)ー溶血性貧血



☆赤血球増多症(検査前確率)

1位:相対的赤血球増多症



☆ハプトグロビン<25 mg/dL

高(特異度)ー溶血性貧血 



☆Ht≧男性60,女性55

高(検査前確率)ー絶対的赤血球増多症



☆小児の重症感染症に対する白血球(好中球) 増加 

・白血球>15000/μL

感度:64〜82%

特異度:67〜75%


・好中球>10000/μL

感度:64〜76%

特異度:76〜81% 

→感度・特異度ともに高くない



☆ITPに対するPAIgG

感度:60%

特異度:77%

→感度・特異度ともに高くない



☆伝染性単核球症の臨床症状をもつ患者に対するEBV抗体(VCA、EBNA)

感度:97%

特異度:94%



☆異型リンパ球数と伝染性単核球症

>10%  感度:75%   特異度:92%

>20%   感度:56%  特異度:98%

>40%   感度:25%  特異度:100%



☆深部静脈血栓症に対するDダイマー

感度:97%(89-100)

特異度:47%(40-53)

陽性尤度比:1.8

陰性尤度比:0.06



☆肺塞栓症に対するDダイマー

感度:94%(83-99)

特異度:42%(36-40)

陽性尤度比:1.6

陰性尤度比:-0.14

→Dダイマーは血栓症で、除外診断には向いているが確定診断には向いていない



☆腎前性急性腎障害に対するFENa,FEUN

FENa<1% 

感度:77%  特異度:96%  陽性尤度比:19.1  陰性尤度比:-0.2


FEUN<35%

感度:90%  特異度:96%  陽性尤度比:22.4  陰性尤度比:-0.1



☆消化管出血に対するBUN/Cre比

BUN/Cre比≧30

陽性尤度比:6.4  陰性尤度比:-0.65



☆急性膵炎に対する膵酵素

総アミラーゼ

感度:95〜100%  特異度:70%  


リパーゼ

感度:90〜100%  特異度:99%



☆急性心筋梗塞に対するCK-MB

特異度:96%

感度:発症4時間以内:28% 

           4〜8時間:56% 

           8時間以上 :73%

→除外診断には使えない



☆副腎不全の90%で低Na血症



☆原発性アルドステロン症

低K血症は20%

→低K血症のみでは感度・特異度低い



☆DKAに対するβヒドロキシ酪酸

尿定性でのケトン=アセト酢酸

感度:98%

特異度:85%



☆血糖値>250mg/dLでのDKAに対するAG開大

感度:84〜90%

特異度:85%〜99%



☆血清乳酸値>36mg/dL

死亡率が高い

→血圧が保たれていてもショックとみなす



☆肺塞栓に対する呼吸性アルカローシス

感度・特異度ともに高くない


☆試験紙法の特性

Bense Jonesタンパクは検出できないので、多発性骨髄腫を疑うときは、尿タンパクの定量と尿中BJPの確認検査が必要