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KANGE's log

映画「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」

2022.06.11 11:14

【これもまた「君は生き延びることができるか?」の物語】

ジャブローでの防衛戦の後、ホワイトベースに、無人島の残敵掃討任務が言い渡される。アムロたちが、その島で見たのは一機のザクと大勢の子どもたち。ザクとの戦闘でガンダムを失い、ダメージを負ったアムロは、子どもたちの面倒を見ている男・ククルス・ドアンに保護されて…という物語。

ククルス・ドアンの島といえば、ファーストガンダムの各話の中でも、作画崩壊の代表として、ある意味ネタ的に扱われてきた存在。もともと、本編の制作進行が厳しくなった時に、いつでも挿み込めるように、メインストーリーからは独立したエピソードで、安彦先生も「The ORIGIN」ではオミットした話。これが、安彦先生にとって最後のガンダム映画になると報じられて、「マジか?」となりました。

本作には「The ORIGIN」のタイトルはつきませんが、「The ORIGIN」のサイドストーリー的な位置付けですね。北米に降下した後、ジャブローの攻防戦を経て、オデッサを攻めるためにベルファストでの補給に向かう途中。もとのTVシリーズとは順番が入れ替わっています。だから、スレッガーさんもすでに合流しています。

「機動戦士ガンダム」のモチーフの1つが「十五少年漂流記」であることはよく知られているかと思います。少年少女たちが宇宙戦争に巻き込まれ、船=ホワイトベースで漂流しながら生き延びるということですね。ただ、スポンサーから、それだけでは商品展開ができないということで、ロボット=モビルスーツが出てきたという流れ。

そういう意味では、アレグランサ島で過ごす20人の少年少女たちもまた、漂流こそしていませんが、戦争に巻き込まれ、島に流れ着き、自活している「十五少年漂流記」の少年たちのようなもの。

つまり、もしアムロたちがサイド7ではなく地球に住んでいたら、あるいは、もしアムロが途中でホワイトベースを降り、フラウ・ボウやカツ・レツ・キッカ達と一緒に暮らすことを選んでいたら…ということで、ありえたかもしれない、ホワイトベースクルーたちの別の姿だと言えます。

ドアンの少年少女たちもまた「君は生き延びることができるか?」と問われているわけで、これもやはり「ガンダム」なんだと思います。

旧作ファンへのサービスとして、ホワイトベースのクルーたちも多々出てきますが、あまり活躍の場はなく、どちらかと言えば、ギャグ要員。最も活躍しているのは、中間管理職として立ち回るブライトさんでしょうか。子どもたちの扱いに苦労しながらも、独立部隊のリーダーとして軍上層部と堂々とやりあって、なかなかいい仕事をしてくれました。

CGで描かれたモビルスーツ戦は、どうしてもゲームみたいに見えてしまいますが、今回は、少しデフォルメされているような表現も見られました。「the ORIGIN」の映画からも進化しているようです。ドアンのザクの鼻がちゃんと長いのは、笑えます。本作のオリジナルの「褐色のサザンクロス」の面々もいいキャラクターだし、高機動型ザクのホバリングも、インラインスケートみたいでカッコいい。そして、何よりも、彼らの前に現れるガンダム。その鬼神のような出で立ちは、ジオン側にとっては恐怖ですね。アムロってあの時点で、あんなに強かったっけ?

アムロがガンダムを操縦して、あることを行うシーンがあって、これがなかなかショッキング。躊躇はあるものの、当然のことのようにやります。アムロは、パイロットとして驚くべき能力を持ってはいますが、決して正義のスーパーヒーローなどではなく、不本意ながらも戦争に巻き込まれた一兵士として描かれているということでしょう。母との再会の後ですしね。

あと良かったのは、アムロの「電気電子工作好き」というところが発揮された点(ドアンとしては、やってほしくなかったでしょうが)。また、ドアンも、ある目的のために、みんなには隠れて、こそこそと研究して、ある仕掛けをつくっていました。一流のパイロットは、エンジニアでもあるべきだと思っているので、こういうシーンはいいですね。

気になったのは、アムロの歩く姿が、どうも不自然だというところ。特に、ガンダムを探して島を歩き回るところ。大きく肘を振ったり、腿を上げたり。地球の重力に慣れなくて、所作が大袈裟になっている? そんなことはないですよね。コミックであれば、そういう1コマがあっても「あぁ足場が悪いんだな」と理解しますが、アニメでずっとそんな歩き方だと、コミカルに見えてしまいます。

また、ドアンの内心が理解できるような描写が、もっとあっても良かったと思います。なぜ、軍を離れようと思ったのか。そして、どうやって子どもたちを連れてきたのか。残置諜者を命じられたときに、この島で子どもたちと暮らすことを決意したはずですが、そのあたりの描写がないんですよね。ある意味、主人公なのですから、もっと魅力的に見せる方法はあったと思います。

さらに、生活描写も気になります。どれぐらいの期間、この島で生活をしてきたのか分かりませんが、家庭菜園のような耕作地なのに、ずいぶん食事が充実していたような…。また、男児・女児の役割分担も気になります。原作から子どもの人数を大幅に増やして、生活の場面を丁寧に描こうとしているはずですが、詰めが甘いと感じました。

ラストの展開は、原作を踏まえたものですね。セリフもそのまま。ここはフィクション度が相当高い。「いや、そんなことしちゃって、本当に大丈夫なの? もしもの時のために…」と思ってしまいます。それでも、憲法9条的な戦力の放棄と平和主義という安彦先生の思想を色濃く反映したということでしょう。

オリジナルの声優の皆さんのなかにはすでに鬼籍に入られた方もいて、今回、声優陣は大きく入れ替わっています。もう、おじいちゃんの古谷さん古川さんが、変わらず少年アムロ、少年カイを演じているのが凄いです。当たり前だけど、ちゃんと少年の演技をしているんですよね。これは声優だからできること。

今後、冨野監督もいない、安彦先生もいない、大河原先生もいない、古谷さんもいない、池田さんもいない、そんなファーストガンダムの作品が作られることがあるのでしょうか。本作は、それに向けた習作でもあるのかな、と思いました。