3rd season6/12
平和とは何か?
戦争をしないことである。
戦争をしないとは何か?
人と争わないことである。
たとえ同国の同郷の同じ思想を持っていたとしてもそこに争いがあれば戦争と呼ばざるを得ない。
では、戦争可否状態を維持するためになんでもござれというのは自由という観点から否定するべきだろうと私たちは考えている。議論の余地があるのではなく、議論して折り合うことで平和を実現できるからだ。
平和とは形骸的なものではない。人間が努力して作り上げていくものである。
芍薬先生と元取締役の出会いを演出したひとりの青年がいる。可愛らしい男の子だと芍薬先生はいまもなお懇意にし身を案じている。
元取締役以上にその可愛らしい彼のことを大切に思っている芍薬先生に対して、誰も何も言うことができなかったわけだが今日幸にして大事件を向こう様が起こしてくれたからすべては明るみに出すことができた。
献灯たちが金髪豚野郎(♀)とあだ名をつけた件の女性である。
彼女と芍薬先生はさほど会ったことがないのに先生はとても嫌っている。護衛の男の子を取り合ったと勘違いされたことが遺恨だと思っていたようだが、実際はもっともっと金銭的な家族的な切羽詰まったものだった。
出会いの場にいた彼らのことを元取締役は「兵隊」と表現する。
「承認欲求を満たしてほしい昨今のSNS中毒をうまくついてあいつらは兵隊を養成している」
言い過ぎじゃないかと私たちがアワアワしていると珍しく献灯が同調した。
「何人か異常にいいね!を集めるministerがいるんだよ。そいつらを見ていると兵隊予備軍はガキだからなんだかすごく見えるわけよ。その先生方がね。で、認められたいから同じようなことを言う、すると先生がいいね!してくださる。図式は簡単、大人の思惑なんてわかんないから、SNSも使いこなせる親しみやすい先生くらいにしか思わないんだろうけど、大人同士で60近いおっさんがそんなSNS真剣にやること自体社会の落伍者である証拠だと思うよ」
芍薬先生が目を泳がせ始める。先生の目が泳ぐときは考えを巡らせているときで、案外ポーズだったりする。(祈祷が言うには先生が真剣に考えているときは無言で家事をしているときらしい)。
「じゃあ、あの子の親もそうってこと?」
「苗字はいただきもの。先祖伝来のものではないはず」
「となると、そのまわりの親派の先生たちも?」
「なんでそんなことするの?しかもなんであんなに忠実なの?」
「借金を肩代わりしてもらっているから。ブラックリストをチャラにしてもらったから文句言えないんだよ。国後島でも奄美諸島でも今日いけって言えばいけないんだよ。つまり奴隷ってこと」
「そんなに金があるわけ?向こう様は、、、」
「ないない!でも仕組みを仕切ってる人間がケーンって鶴の一声鳴けばなんとでもなる」
先生が自撮りに夢中になりながらも、ふっと宙を見上げ、おもむろに慎重に言葉を選びながら「あのさー、、、」と真剣な表情をした。
「今日美容院に、元取締役と出会ったあの団体の元締めがいたの。隣にはかつての金髪ブスがいて、シャンプー台にはうちの教会に来ている人と似ている人がいた。なんで?ありえないって不思議だった」
献灯がにやける。
「なんでいたと思う?」
「まだまだ、先は長いってこと?」
「違うよ。借金をチャラにしてもらったんだから気合いの入り方が違うってこと。向こう様が倒れたら自分たちの借金は耳揃えて負債として自分たちのもとに戻ってくるんだから」
先生が絶句する。
「椿はお嬢さんだからなあ、、、金髪ブスだって家族一丸となって奔走しているのはそういうこと。運命共同体なわけさ」
先生が俯く。
「私ね、パパにのんびりしているってよく言われた。擦れてなくて純粋すぎるって。そんなんじゃ世の中生きていけないよって。甘やかして育てちゃったからって」
今日はお父さんのお誕生日でもある。そのことも少し心に引っかかっているんだろう。
「椿?」
献灯が先生の髪を撫でる、
「だから俺たちがいるんだよ?大丈夫。お父さんは安心して天国に旅立ったし、君が悔やむことはひとつもないんだよ」
MT公会堂が暖かいココアを持ってきてくれた「さあ、寝ましょう!考えあぐねていても何も進まないんだから、とりあえずは寝て頭スッキリさせて。また明日」
苗字はどの家系の財産配分に該当するかを物語っている。借金と借用の家庭には相応の苗字が与えられている。鶴の一声の鶴がどの種類の鶴であるべきなのかを表すように。