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短編小説:『恋水』

2018.01.10 12:15
「恋水」

 

 「ありがとう」


と言った途端に、ひと粒ぽろりと涙が零れた。


 あなたの痛ましそうな、すまなそうな眼差しが、困惑させ、少しだけ私を傷つける。


 どんなに変わらないと思っていても、どんなに愛していても、時が移ろう事を、人の心が移ろう事を止められない。


 彼は彼のやり方で、私にたくさんの幸せと、心をくれた。そして今、彼のやり方で、告げた別れを、私は受け止めるしか出来ない。それが、私が彼に最後にあげられる最大のギフトだから。


 「涙じゃなく、恋水よ。」


精一杯の微笑みで告げる。そう、涙じゃなく恋水。恋の為に流す涙。愛した証。後悔じゃなく、やさしくて、愛しかった恋の為に流すあたたかい涙。


文:麻美 雪