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Graphic Catalyst Biotope

デザイン思考のアプローチを、紙とペンではじめてみよう! 「エモグラフィ特別講座」【創造的関係性をつくりだす「グラフィックカタリスト」プロジェクト(2)】

2022.06.15 01:41

こちらは2017年6月に「あしたのコミュニティーラボ」に掲載された記事を再掲載したものです。

ユーザーを中心に考え、イノベーションを起こす「デザイン思考」という考え方。近年急速に広まりつつあるこの考え方は新規事業のプロジェクト、アイデア創発の現場等で不可欠なものになりはじめています。しかし「デザイン思考」に関連した書籍などを読んでいても、いまひとつその本質は理解しにくいもの——。「創造的関係性をはぐくむ」を目的としたグラフィックカタリスト・ビオトープ(GCB)では、デザイン思考の一端を体感できる「エモグラフィ講座」を開講しています。今回は「富士通フォーラム2017」でGCBメンバー・タムラカイさんが講師を務めたエモグラフィ特別講座の模様を再録します。


そもそも“エモグラフィ”って何?

こんにちは、タムラカイです。グラフィックカタリスト・ビオトープのメンバーとして、企業やNPO、カンファレンスなどで行われるワークショップのファシリテーターを数多く担当しています。その場で参加者の方に「では絵を描いてみましょう!」と言うと、たいていみなさんはこう答えます。

「私、絵心ないからなぁ……」

「絵心がない」と、悩んでしまうことありますよね。

ここにいるみなさんはどうですか? 絵心、ないと思う人?……はい、やはりたくさんいますね(笑)。でも僕はズバリ言いたい。絵心は、誰にでもあります!

辞書をひいてみればわかるのですが、「絵心」という言葉は「絵を理解する能力」「絵を描きたいと思う気持ち」という意味です。僕は、ここに「絵から感じる気持ちや感情」を加えて「絵心」と解釈しています。

絵心は「絵を理解」したり、「絵を描きたいと思う気持ち」のこと。だから上手かどうかは関係ありません(出典:大辞林)

だから「絵が下手=絵心がない」ではありません。絵が苦手という人に足りないのは「画力」、つまりは“力”ですから、経験を積めば誰にでも備わります。

そして、それを養うための実践的な手法こそが「エモグラフィ・ワークショップ」、通称・エモグラです。エモグラフィ=エモーション(感情)+グラフィ(記法)━━「感情表現」を「記号」に落とし込んで絵を描いてみる、そんな講座だと思ってください。

「絵を描く」を、まずはこのエモグラフィからはじめ、コミュニケーションのきっかけにしてみましょう。


ワーク(1):100個の表情を描いてみよう

それでは、さっそくワークに入りましょう。

これからみなさんに実践いただくのは「表情を描く」というワーク。エモグラでは人間の表情をいったんパーツごとに分解し、それらのパーツを再び組み合わせることで、誰でも人の表情を作成できるようにしてみました。

人の表情ってついつい目で追っちゃいますし、たとえば表情の変化があったときに、間にどんな物語があったか想像することができます。つまり、表情は言語や文化を超えるグラフィック要素なんです。そんな、物語を生み出すきっかけとなる「表情」をまずは、簡単に描けるようになりましょう。


まずみなさんには、「100通り」の顔の表情を描いてもらおうと思います。用意するものはコピー用紙1枚、黒ペン1本。

それでは、まず紙に表情のベースとなる輪郭の○━━左から5個・5個・4個、計14個の○━━を描いてみてください。

輪郭のみを14個書きましょう。

次に、左の列には「口」、真ん中には「目」、右の列には「眉」を次の要領で描いていきます。人間の顔にはたくさんのパーツがありますが表情を作るために使うのは基本的にこの3つなんです。

・口の形:5種類(口の形が5母音(あ・い・う・え・お)になるように)

・目の形:5種類(黒目/白目/にっこりした目/瞑った目/より強くキュッと瞑った目)

・眉の形:4種類(横にまっすぐ/にっこり/上がり眉/下がり眉)

これでベースは整いました。これを好きなように組み合わせてみましょう

1つのパーツを入れるだけでも、少し人の顔に見えてきましたよね? さて、これらのパーツを組み合わせると、さまざまな表情を描けます。たとえばこんなふうに……。

表情の組み合わせは100通り。吹き出しでその顔がどんな言葉を発するか、書いてみるとさらに表現が広がります

5×5×4を計算してみてもらうとわかるかと思います。これで100種類の表情が描けるようになるんです。

さらに、眉の形にもう1種類を加えるだけで「5×5×5=125種類」となりますし、目や口などのパーツの種類も増やしていけば、もっと多くの表情をつくれるようになります。


Point:さらに表現のバリエーションを増やしてみよう

表情に加えて、胴体もバリエーションをどんどん増やすことのできるパーツです。人 の絵を描くときに体を線にする「棒人間」を描きがちですが、胴体を四角で表すとその中に「ネクタイを加えてビジネスマンに」みたいなこともできたりします。

顔の輪郭も同様。「Aさんは○の輪郭」「Bさんは□の輪郭」みたいに描き分けることも可能です。表情や人物のバリエーションを増やせることも、エモグラでは大きなポイントです。

左上の棒人間の胴体を長方形にすることで、人の特徴をさらに細かく表すことができるようになります。


デザイン思考に不可欠なインサイトを導く「エモーションマップ」

ところで、アイデア発想のワークには、紙の中央に主題となるキーワードを書き、その周辺に「商品」「接客」「市場」などの要素を加え、キーワードと要素の関連づけからアイデアを発想する━━いわゆる「マインドマップ」というワークがあります。

言葉だけでは、すでに顕在化しているものでしか表現、発想ができません。

もちろん言葉はとても便利なものですし、「マインドマップ」はとても効果的なメソッドではあるのですが、ことアイデア発想となると、慣れていない人にとっては「言葉にできていることしか扱えない」というデメリットもあります。

でも、アイデア発想で本当に得たいのは「そんな視点があったか!」という切り口です。デザイン思考プロセスの第一段階「共感」のフェーズは、そんな切り口、「インサイト」を得るためのものです。インサイトとは、ユーザー自身も気づいていない、真の欲求。そのユーザーが、いつ、どんな場所で、どんな表情をしていて、どんな気持ちなのか。そしてその表情を変えるには何をすればいいのか━━こうした洞察(インサイト)をどうやって掘り起こすか、それがカギとなります。

実際の商品開発やデザインの現場では、ユーザーを「観察する」「インタビューする」ということでインサイトを得るのですが、これも慣れないうちは簡単なことではありません。また、アイデア発想ワークの場にはそのユーザーがいないことがほとんどです。

それぞれの表情が持つ感情を起点にすると、新たな発見、アイデアが生まれます。

絵に描いた表情(感情)を起点に、ユーザーの深いインサイトにたどり着く━━そんなアイデア発想の手法を、僕は「エモーションマップ」と名付けました。


ワーク(2):エモーションマップをつくってみよう

実際にエモーションマップをつくってみましょう。

用意するのは先ほどと同じく1枚の紙。この中央に「主題」を書くところまではマインドマップと同じです。「エモーションマップ」ではその周辺に、人の表情、そしてフキダシを描きます。ここでは仮に「働く」を主題として、4つの表情&フキダシを描いてみます。

「働く」というテーマに対して、さまざまな表情があります。そしてその表情を起点に考えれば、不安げな表情なら「このままで大丈夫なのかなあ……」、やる気のある表情なら「お客さんから褒められるの最高!」……といったふうに、フキダシのなかのセリフを埋めてみたくなりませんか?

フキダシのなかが埋まれば、そのセリフが「働く」というテーマに対する「切り口」になります。「切り口」を深堀することで、アイデアを出すべき「課題」が見つかります。また、こうしてできた「エモーションマップ」をグループのなかで互いに見せ合えば、「それいいよね」「わかるわ~」という反応から意外な「切り口」が得られたりします。

エモーションマップを描くためのステップ。真ん中のテーマはなんでもOK!です。そこから生まれる感情をそれぞれ書いてみましょう

エモーションマップがいいところは、声が大きい人(発言権のある人)のアイデアだけが注目されるのではなく、参加者全員が均等にアイデアを出せるということ。そうした対話がなされ、おのずと新たな関係性が創発されていく━━それこそが、GCBが目指す「創造的関係性」の姿でもあるんです。

エモーションマップは、アイデア発想のみならず、自分のやりたいことを見つけ出すような、セルフコーチングなどのシーンでも使うことができます。まずは身の回りにあることから実践してみていただければうれしいです。