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労災認定の法律相談(過労死・長時間労働)

2018.01.11 07:23

過労死ラインという言葉をよく耳にする。過労死ラインを超えると危ない。過労死ラインは危険だ。

では、過労死ラインとはいったい何なのか?誰が決めて、どのような基準で作られたのか?超えると違法なのか?

過労死ラインとは、厚生労働省が、労働者に発症した脳・心臓疾患を労災として認定する際の基準として 「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。) の認定基準(これを「脳・心臓 疾患の認定基準」といいます。)を定めた内容の一部である。

これによると、長時間労働による労働者の健康障害の発生の因果関係を判断するための基準として、いわゆる「過労死ライン」とされる労働時間の目安は、月80時間の超過労働とされている。

これは、あくまで労災認定のための基準(目安)であり、使用者が上記目安を超えて時間外労働を労働者にさせたとしても、直ちに違法とされたり、罰せられるということにはならない。使用者への労基署の監督指導などの問題や、使用者の責任はここでは触れない。

また、これとは、別に、厚生労働省は、精神障害の労災認定についても、基準を定めている。

1 脳・心臓疾患の労災認定

  パターンとして、(1)異常な出来事に遭遇した場合、(2)短期間の過重業務に就労した場合、(3)長期間の過重業務に就労した場合の3つがあり、その3つ目の長期間の過重業務における労働時間として、発症前1か月間に100時間又は2~6か月間平均で月80時間を超える時間外労働は、発症との関連性が強いとされる。

  

2 精神障害の労災認定

  厚生労働省は、平成23年12月に「心理的負荷による精神障害の認定基準」を新たに定めた。この労災認定のための要件として、

 ① 認定基準の対象となる精神障害を発病していること

 ② 認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること

 ③ 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発症したとは認められないこと

としている。

  そして、認定基準の対粗油となる精神障害は、国際疾病分類第10回修正版(ICD-10)第Ⅴ章「精神および行動の障害」の分類によっている。

詳細は割愛するが、争点となるのは、業務による強い心理的負荷であり、その強度を「強」「中」「弱」の3分類に分け、「強」に当たる場合に原則として(目安と表現している)認定要件を満たすものとする。

このような労災認定基準の第1次的運用機関が労働基準監督署(長)である。

ここで、労災と認定されることが、まず重要であり、そのための資料等を集めて上記認定機関にその理解を得ることが最も確実で早道ではある。

しかし、不幸にして労基署長が労災の認定基準に当たらないとされた場合には、次のステップとして、当該認定を争って、審査機関に不服を申し立てることができる。いわば、第2次的な認定(運用)機関である。まず、3か月以内に労働者災害補償保険審査官に審査請求をし、そこでの決定でも認定されず、さらに不服を申し立てる場合には、2か月以内に労働保険審査会に再審査を求めることができます。

そして、そこでも労災の認定に至らなければ、さらに次のステップとして、裁判手続による処分取消の請求(具体的には労基署長の不認定処分の取り消し)としての行政訴訟を提起することになる。例外として、審査請求に対する決定後6か月以内、審査請求し3か月経過しても決定がない場合には、再審査請求の裁決前、再審査請求の裁決後6か月以内のいずれかに該当すれば、訴訟提起できます。

冒頭の新聞記事にもあるように、訴訟まで争われる事案は、上記の認定基準にはそのまま当てはまるものではない複雑・微妙なケースが多い。

上司の叱責(しっせき)や職場の人間関係に苦しんで心の病を発症した後で、より深刻な長時間労働やパワハラで症状が悪化し、自殺に至ったというケースのようだが、記事にあるように、病気が自然に悪化したのであれば、基準外となり、仕事が原因で悪化して自殺に至ったのであれば、基準に照らして労災と認定される可能性が高いことになる。

いずれにせよ、第1次、第2次、そして裁判手続のどの段階においても、法律的な対処が知識・技術面で必要となる。

相談者・依頼者となる遺族の方々には、心労もおありかとは思いますが、上記認定のための資料となる生前の故人の動静、言動、日記、メモその他あらゆる証拠を収集・駆使して公的機関に訴え・対峙してゆく気丈さが求められる。

私共弁護士としては、職業人として可能な限り、全力を尽くしてそのような依頼者に配慮したサポートに努力したいと考えています。