卒業
路上にて斬りかからんとする暴漢に、「いいか小僧ども、この時代に老いぼれを見たら生き残りと思え」と老人。つまりはあの凄惨な銃撃戦をくぐり抜けた地獄の帰還兵と覚悟せよ、の意。漫画「ゴールデンカムイ」の一幕なれど、「老いぼれ」と見るか、「生き残り」と見るか。
「定年」「退職」はどことなく暗く、「卒業」と言い換える昨今。エッセイストの酒井順子さんの新刊に見る「ことば」の考察。区制四十周年、式典を前に「卒業」秒読みの区長がこれまでの四十年を振り返るに当時のままに登場せんと衣装選びに悩んどると聞いて、前のめりにならぬよう願うばかり。
四十年には些か及ばぬまでもこの間の戦歴に敗北なく、数多くの舞台となりし事務所。併設される来客用の駐車場に掘削が進むは国政進出に向けた新たな事務所、なんて訳ないでしょうに。現状のままでは金を生まぬ、ばかりか安からぬ固定資産税を徴収されるのだから。新たな需要に対応すべく、と地主の都合で。こちとら気になる賃料の行方。
老朽化に浮上する更新計画。別々な二棟を一つにすれば浮くコスト。さすれば余った土地とて、と進む複合化の動き。従来の区役所の支所にて行われていた申請・届出の業務を区役所に集約するは「合理化」以外の何物でもなく。一方、一部の利用者には今までの徒歩圏内からバス利用となるだけに、そこに多少の負い目があって然るべきも計画に謳われるは「行政サービスの質や量を今まで以上に確保する為の機能再編」。そりゃかえって相手を逆なでせぬか、と。
複合化ともなれば自ずと求められる合理化の成果も見えてこず。その後における施設の管理・運営は一社に限ると記されるもそこは都合よき逃げ道があったりもするから。やはり一社云々よりも全体の維持費を下げられるか否か、が焦点。従来の縦割りの垣根を取り払い、相乗効果を生まんとの狙いやよし、が、見えぬ垣根に阻まれて従来の権益そのまま、となっては。
常任委員会にて語られる抽象的な表現に核心を問わんとすれど、それは「向こう側」の範疇などと答弁されたりもすれば両者の距離感も窺い知れて。とすると市議会への報告などはあくまでも実現に向けた布石であって、そこに反対なきは賛成の証拠、と解釈されるは前回に同じ。十分条件も必要条件になく。合否を判断するに材料が足りぬ、というだけの話。徹底的な合理化といわぬまでも安からぬ支出を伴う以上は何かしらの成果が伴わなければこちとら説明がつかんではないか。
そう、最終形が見えぬ中にあって拠り所となりし計画案。確かに計画自体は人目に触れるものだけに立派な内容が綴られとるのだけれども、まだ見ぬ理想に文章だけなら誰だって。追及側とて軸足が計画にある以上はその高い理想とかけ離れた現実に批判が向きがちであって、計画そのものの完成度を以て立案側が評価されるに現場が不憫にあるまいか。
簡潔明瞭、もそっと泥臭くとも。理想より現実でしょうに。
(令和4年6月15日/2716回)