【レビュー①】第38回直方谷尾美術館室内楽定期演奏会
当夜のメインに奏でられたシューベルトの《死と乙女》は、創作の充実期を迎えた背後に抱えていた多くの辛苦の吐き出しです。
オーディエンスの誰もの人生に共鳴し、心奮える時となったと確信しました。
私も一人のオーディエンスとして、この5年ばかりの自身が壊れそうになるほどの辛苦に重ねました。
即物的なことが幅を利かせる時代だからこそ、純潔な音楽からもらう幸せな時間を、皆さんと継続していかねばなりません。
それをあらためて肝に命じた次第です。
ところで、皆さまに考えてほしいことがあります。
人口6万人弱の小都市で、このような時を堪能できる土壌は誰が耕したのでしょう?
それは以下の4者です。
《クァルテット・エクセルシオ》
《長く聴き続け、演奏者に反応を還すまでに育ってくれたオーディエンス》
《経済的・実務的に支援してくださる会員さん》
《開催に手厚く協力してくださる直方谷尾美術館の職員の皆さん》
クラシック音楽において、弦楽四重奏はオーディエンスを育てることができる数少ない分野の一つです。
チェロやヴァイオリンの音楽ではそれができません。
クァルテット・エクセルシオは、そうした音楽を、13年間、聴かせてくれたのです。
そして、弦楽四重奏団は基礎建築に10年ほどかかる上に、継続が極めて難しくあります。
そうした状況にありながら、クァルテット・エクセルシオを、1994年の創設以来、支え続けてきた後援者の方々がいらっしゃいます。
私どもの街で、
《弦楽四重奏の深い味わいを感じられるになった》
《それを定期的に体感できる》
ことは、クァルテット・エクセルシオはもちろん、こうした方々がいらっしゃることを知っていただきたいのです。
この室内楽定期演奏会に来場してくださる皆さまには、中央からこの幸せな時を享受するだけでなく、《私たちの地域から発信する私たちの弦楽四重奏団を育てる》側に廻ってほしいと願います。
今年2月からスタートしました《福岡発弦楽四重奏団育成プロジェクト》はこうしたコンセプトにあり、この室内楽定期演奏会の最終的な目標です。