「好ましく、楽しく、きれいなもの」
2018.01.13 19:04
ルノワールは抜群の人気を誇る一方で、アンチ派も少なくない。あまりに健全過ぎて芸術としてはもの足りないということだろうか。例えば、池田満寿夫はこう書いている。
「女の魅力を風俗的になめ廻すように表現した筆力には感心するが、何故か私は芸術的な強力なパンチをルノワールの女たちからは受けなかった。上等なリキュールではあるが心底から揺り動かされる感動がないのである。」
自分自身、魂を揺さぶられるような強烈さはルノワールの絵から感じないが、魅かれる絵がほかの画家に比べて多いのは確かだ。そしてその理由は、おそらく彼の芸術に対する考え方にあるようだ。彼は、アトリエで画家アルベール・アンドレにこう語っている。
「私にとって絵は、好ましく、楽しく、きれいなもの・・・そう、きれいなものでなければいけないんだ!人生には不愉快なことがたくさんある。だからこれ以上、不愉快なものをつくる必要なんかないんだ。絵というものが、楽しくありながら、しかも偉大な芸術足りうるということを認めさせるのは難しい。そのことは、私もよくわかっている。フラゴナールはよく笑ったというだけで、大した画家ではないと見なされてしまった。よく笑う人間は、相手にされないんだ。絵画だろうと音楽だろうと文学だろうと、フロックコートを着たようないかめしい芸術が、いつの世も注目を浴び続けるんだ。」
この姿勢を生涯貫いたところがルノワールの偉大さだと思う。
(1879「シャトーのボートを漕ぐ人」)
(1876「ぶらんこ」)
(1876「劇場で」)
(1878「ジャンヌ・サマリーの立像」)
(1881「テラスにて」)