『W旦那+(プラス)』第113話 三代目妄想劇場
「理愛の店」に入り奥の部屋の扉を開けると、8帖位の和室にセミダブルサイズのソファーベッドが置かれていた。
部屋には、コートなどを掛ける木のハンガーが一つ、部屋の隅には隆二愛用のミネラルウォーターと、臣が好んで飲むコーヒー豆が入った段ボールが並べてある。
剛典は、厨房の横にあるドアから奥の部屋に入る時、カウンター後ろの棚にあった写真に気がついた。
銀色のフォトフレームに入っていたのは、
「理愛の店」オープンの日に、店の前で撮った写真のようだ。
すました顔の臣と、笑顔の隆二。
二人の間に無表情だが光を放つ女性、理愛が写っている。
記憶をなくした人間でも、5年も一緒にいれば情もわいてくるはず…
理愛にとってあの二人とこの店は、心の拠り所なんだろう。
剛典が思いを巡らせながらコートを脱ぐと、
すぐに理愛が受け取りハンガーに掛けた。
理愛も真っ白なカシミヤのコートを脱いだ。
今日の気温は3度、真冬の寒さなのに、コートの下は薄手のシルクワンピースのみで、素足だった。
匂いたつ髪を揺らし理愛が振り返り、剛典に声を掛ける。
「なにか飲まれますか?」
剛典は一瞬躊躇した。
(酒はまずいな…この前のホテルの夜も、結局途中から何も覚えていなかったし…)
朝起きると、隣に寄り添うように、理愛が眠っていた。
自分の体のことは自分が一番知っている。
酔った勢いで…ということは、どうやらなかったようだ。
しかし酒を飲むことで、いつ理性が崩れるかもしれない。
理愛が自分を選ばない限り、最後の一線は越えたくなかった。
「ん…と、理愛ちゃんが入れたコーヒーが飲みたいな」
「はい。とびっきり美味しいコーヒー入れてきますね」
剛典はソファーに腰掛け思う。
理愛とこうなる前にも、メンバーと一緒に何度もこの店に足を運んだが、理愛が感情を表に出したことは一度もない。
でも…自分とデートするようになってからは、明らかに感情が表に出ている。
ついさっきも、少しはにかんだように、微笑んでくれた。
End