ショートショート「ノウヘル」(DJ寝床)
ある悪人が、死にました。
それはそれは酷い男だったので、彼の死を悲しむ者はいませんでした。
しかし、喜ぶ者もいませんでした。彼に歯向かう者は、全て消されたからです。
それくらい悪人だったから、当然、地獄に行くだろうな、と、自分でも思っていました。
悪人は気が付くと、真っ白な部屋にいました。
「やあ、お久しぶりですね」
にこやかに挨拶してきたのは、悪人が数十年前に会った男でした。
篤志家として知られる人物で、生前は、悪人にも手を差し伸べてくれました。
だから悪人は、彼を徹底的に苦しめ、全てを奪って捨てたのです。
何もかもを無くし、人知れず朽ち果てたはずの男が、悪人の前に立っていました。
「……テメエがいる、ということは、俺は死んだのか」
「その通りです」男は頷きました。
「ということは、ここが地獄ってことか。ずいぶん想像と違うが」
「どうして、そのように思うのですか?」
「俺が天国に行ける筈がないからな」
悪人はあっさり言うと、冷淡な目で男を眺めました。
「お前が地獄にいるとはな。最期まで善人ヅラしてた癖に。何をやったんだ?」
「何もしていません。苦しい一生でしたが、誰も苦しめませんでした」
「ほざくな偽善者。結果テメエも地獄にいるんじゃねえか」
悪人は笑いながら、男の腹を蹴って、蹴って、蹴りました。
「死なせてやることもできねえみたいだな。とっとと失せろ、腑抜け野郎」
冷酷に言い捨てると、悪人は倒れた男に背を向け、歩き出しました。
ゆっくりと起き上がった男は、悪人の背後へ音もなく立ちました。
ずいぶん空いていた距離も、この空間では一瞬で詰められるのです。
男は悪人の肩に手を乗せ、そして、そのまま身体を引き裂きました。
唐突に袈裟懸けにされた悪人が、ものすごい悲鳴とともに地面に倒れました。
穏やかな笑みを、返り血で真っ赤に染めた男が、苦悶する悪人の顔を覗き込みます。
「私は、天国にいます。わかりませんか。ここは私の天国なのです」
朗々と声を響かせながら、男は悪人の内臓を取り出していきます。
「神様が下さった救済、それがこの時間なのです。私はあなたをずっと待っていた」
断続的な断末魔をBGMに、男は嬉々として解剖を続けます。
「私はかつて、人を苦しめたことがない。だから私は、いくらでも苦しめていい」
内臓をすべて地べたに放り出された悪人の耳元に、男がささやきかけます。
「見てごらんなさい。『腑抜け野郎』は、あなたですね」
そして男は大笑いしながら、床に広げた内臓の上で踊りました。
悪人の悲鳴はいっそう大きくなり、突然静かになりました。
肺が二つとも、潰れたからです。それでも死後の世界ですから、悪人は死ねないのです。
こうして悪人は、いつまでも、今この瞬間もずっと、苦しみ続けているのでした。
めでたし、めでたし。<完>
いやまあ全然メデタクはないよねー!!!
どうだった?この話。俺が作ったんだけどわりと良いっしょ?シサに富んでて。
作者こと俺の伝えたかったテーマ、わっかるかなー?
「悪いことをしてはいけない」とか「因果応報」とか、いろいろ入ってたよね。
でも一番伝えたかったのはズバリこちら!
「死ねない苦痛が一番の地獄」ってこと!
これだけ伝われば十分!ね!はっきり覚えといてねー!
じゃ、お話の時間も終わったし。
拷問、はじめよっか。