孤島の鬼 ~香椎さん編~
こんにちは。
6月も後半に差し迫り、2022年は早くも上半期が終わるらしいという感じですね。
このブログも多くのサポーターズ仲間兼友人たちの助けを借りて、どうにか休まず週二回更新を続けていけております。ということで今回も、サポーターズ仲間、二回目の登場となります香椎さんにこの場をお任せします。
前回好評だった江戸川乱歩特集の中でも、特に一番熱量があったと見えた『孤高の鬼』について、それ一本だけをたっぷり詰め込んだ記事を書いてくれないかと私が依頼しまして、今回実現しております。わたくしの待望でございます。
では香椎さん、どうぞです。
江戸川乱歩『孤島の鬼』
こんにちは。早くも二度目の登場となりました香椎です。
前回の記事、あひるさんやご店主から良いお言葉をいただきまして、日々の生きる糧にさせていただいております。(笑)
今回も江戸川乱歩の作品について語らせていただくのですが、実は6月、乱歩関連のイベントで忙しい時期でございました。
5月末日から6月頭にかけて、スネ夫の声優でお馴染みの関智一氏が座長を務める「劇団ヘロヘロQカムパニー」にて、「5人の明智小五郎」という朗読劇が催されていました。
明智小五郎が登場する作品の中から4作品を5人の名優たちが演じる、といった趣旨で、配信でも非常に見応えがありました。
配信では「怪人二十面相」と「D坂の殺人事件」の回のみでしたが、叶うことなら「何者」も観たかった…!
また、月末にはリーディングシアター「RAMPO in the DARK」が開催されるとのこと。
こちらも朗読劇です。(この記事が載る頃は開催中かもしれません)
本シリーズは作品の選出具合が絶妙で(大変私好みで)、今回で三作目になりますが、本当に楽しみにしております。
乱歩作品の朗読劇や舞台は、実は最近多く催されています。
幸か不幸か、ご時世的にも配信で観られるものも多いので、ご興味ありましたら観てみてください。小説を読むのと違った趣きが味わえます。
さて、前回チラリとご紹介した『孤島の鬼』がなんと!ポラン堂に入荷したとのことで!!
今回は『孤島の鬼』について語らせていただきます!!!!
まずは簡単にあらすじから
主人公の簑浦は、婚約者の初代を殺され復讐を誓います。
生前初代から、彼女の不思議な身の上話を聞き、彼女の生い立ちにまつわる系図帳を預かっていましたが、どうやらその系図帳がきっかけで、簑浦のもとに刺客がやってきたり、関わった人たちが次々と殺されたります。
そして、生前の初代に結婚を申し出ていたのがもう一人。諸戸道雄という簑浦の旧友なのですが、彼は学生時代、簑浦に思いを寄せていた人物でした。
どうやら諸戸も事件に深い関わりがあるようで、二人は奇しくも捜査を共にすることになります。そして諸戸と初代の実家で、とてつもなく不気味な計画が進んでいることを知ることに…
この作品は、「連続殺人事件・探偵」「怪奇・猟奇」「同性愛」など、さまざまなストーリーが複雑に絡み合っていて、乱歩作品の醍醐味とも言える要素が一度に楽しめる、夢のような大傑作です。
夢のようなというと綺麗に聞こえますが、非常に不気味で、しかし途中下車できないほど惹きつけられます。
そして、乱歩の隠れた名作との呼び声も高い長編小説です。
まず本作のメインの「連続殺人事件」について。
ネタバレに関することは何も書けないので多くは申しませんが、謎の多い証拠たちがポツポツと上がってきて、後半でどんどん繋がっていく様は、本当に見事です。
そして、証拠の一つ一つが不気味で、忘れられない場面、眠れなくなる場面がが一つは見つかるはずです。
また、全貌が露わになった時の独特の恐怖感も、乱歩ならではです。
それから本作は、犯人を特定するタイプの殺人事件ではなく、裏で糸を引いている大ボスを捕まえるようなお話で、探偵もののはずなのに、巨悪に立ち向かう簑浦の姿にどこか少年漫画の文脈を感じます。
本作を冒険小説と捉える文学者の方もいらっしゃるほどで、途中お宝探しをする場面もあるのですが、なんとも言えないワクワク感を味わう方もおられるのではないかと思います。
そして、作中でも特に目を惹くのが、諸戸と簑浦の関係です。
簑浦はいわゆる、女にモテないが男にモテるタイプの人で、本人にもその自覚があるようです。
諸戸が自分に恋慕の情を抱いていると知りながら、されるがままにされてみたり、拒絶することも受け入れることもしなかったり。相手の好意の都合のいいところだけを享受しています。
諸戸がはっきり同性愛者だと自覚しているのと同様に、簑浦も異性愛者であるという、難攻不落の城を死んでも崩すまいという強い意志が感じ取れます。
現代のBL作品に触れたことのある方なら同じ経験をされた方も多いのではと思いますが、こういった作品においては、異性愛者であっても簡単に絆され、性別の壁など簡単に越えてしまって、いつしか恋愛関係に発展することがほとんどです。
しかし、現実もそうであるように、本作もそう易々とはくっつかせてくれません。(誤解がないように記載しておきますが、私は早々にくっついてくれる作品も生命維持の上で必要であると考えています)
『孤島の鬼』が刊行された頃は、同性愛ものは需要がなかった、と自作解説にて乱歩は語っています。
今ほど読者の需要が確立されておらず、男色を研究した乱歩が同性愛を描くと、「あぁ、このようになるんだ…」と、ネタバレにもなりますので、後は何も申しません。
長々と語りましたが、何を申したいかというと、ただただ諸戸に幸せになってほしい!という一点につきます。
彼は私の知る限り、乱歩作品の中で一二を争うほど、壮絶な人生を生きたと思っております。それだけ本作の事件の真相は重苦しいのです。
なんだか簑浦が悪いのでは? とも取られない文章になってしまいましたが、彼も立派に被害者でございます。
すべて傷心中の出来事ですから、彼の心中も相当に荒れていたと思います。
最後になりましたが、前回の私の記事で、「最後の一文で悶絶する」と書いたのを覚えておいででしょうか。(覚えておられると勝手に思っておきます!)
最後まで読むと、きっと貴方は諸戸道雄のことを忘れられなくなります。
そしてこの作品、夏のお話でございますので、これからの季節にぴったりではないかと思います。
気になったらぜひお手にとってみてください。
ありがとうございます、香椎さん。ブログ主のあひるに戻ります。
私も数年前、芦屋の、今はもうないのですが、未来屋書店のミステリー特集でひときわ目を引いていく存在だった『孤島の鬼』を、先生(ポラン堂店主)からの評判も聞いていたのもあって、即決で買って帰ったのを覚えています。
ミステリーの展開もそうですが、もっといろんなところに驚きながら読みました。
なんていうか、容赦がないな、と。簑浦と諸戸もそうですが、いろんな表現に容赦がなかった。それはこの小説に、私の知っているブレーキがないことを示していて、とにかくどきどきしながら読んだのです。
香椎さんの文章の熱量はそのときの高揚感を思い出せてくれるようなものでした。それと同時に味わったことがない方に味わいたいと思わせるような力があったのでは、と身内びいきながら思います。
『孤島の鬼』は検索いただくとわかると思いますが多くの表紙があります。ただポラン堂古書店にある創元推理文庫版は、竹中英太郎氏の雰囲気抜群の挿絵付となっております。
興味を惹かれた方、どうかその興味を素通りなさらず、手にとって、ぜひ一頁目を開いてみてほしいです。