遺産相続制度の改正
今回の改正の要点(平成30年1月17日付記事)
1 故人の配偶者に厚い生活保障
(1) 居住権の確保
(2) 預貯金の利用の確保
2 故人の生前、介護などに尽くした相続権のない親族の保護
従前(現行)の相続制度との比較
1(1) 現状、故人の配偶者が故人と一緒に住んでいた居住建物を立ち退かなければならない不都合
故人の遺産で、預貯金、現金などの流動資産がなく、住んでいた土地と建物のみで、配偶者以外に子ら(特に、前妻の子など)との相続争いがあって、配偶者の相続分だけでは、単独で現居住たてものを相続確保できない事態
今回、配偶者居住権の新設
建物(敷地利用権等含)の所有権が別の相続人や第三者がわたっても、配偶者の居住権を保障するもの。
要綱案のたたき台段階では、短期居住権と長期居住権の確保と消滅を規定していたが、要綱案の詳細を確認する必要がある。
また、生前贈与を配偶者が故人から受けていた自宅は遺産分割の対象外とした。
(2) 従前、最高裁は相続財産たる金銭その他可分債権について法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものとしていた(最高裁第1小法廷S29.4.8判決・民集 8巻4号819頁)。ところが金融機関は、それでも預金債権につき、相続人らによる遺産分割合意がないと任意に相続分の預金返還には応じておらず、この点の裁判実務との齟齬が問題となっていた。
その後、相続の対象となる被相続人の預貯金について、最高裁(普通預金債権及びゆうびん貯金についてH28.12.19大法廷決定、定期預金債権、定期積金債権についてH29.4.6第一小法廷)判例変更され、当然分割ではなく、遺産分割の対象財産とされるに至った。
しかし、遺産分割の対象となると、故人の葬式や当分の配偶者の生活費のための資金が口座から下ろせないという不都合が生じる。預金(貯金も)を下ろすには、遺産分割協議による合意書を示すことを求められるためです。
このような不都合を回避するために、相続人同士の話し合いで受け取る遺産の内容を決める「遺産分割」が終わる前でも、生活費や葬儀費用の支払いなどのために故人の預貯金を金融機関から引き出しやすくする「仮払制度」の創設も盛り込んだという。
2 今回、相続人以外の親族が、介護などをした場合、相続する権利がなくても、遺産の相続人に金銭を請求できる制度も新設するという。典型的な例として、故人の息子の妻が義父を介護してきたというような場合に、義父が亡くなって、それ以前に息子である夫もなくなっていたような場合に、息子の妻には、義父の遺産相続権が発生しない。そのような者にも、遺産の相続人に金銭を請求できる制度を新設した。
参考までに、相続人間でも、故人の財産の増加や維持に貢献した場合には、「寄与分」といって遺産の取り分を法定相続分より多く請求できる制度が、現行民法にも規定されている。その拡大版といったところか、上記請求権利者への支払額は当事者間の協議で決めることを第一次的とし、合意できない場合に家裁に裁判で決めてもらうことにした模様である。
3 なお、今回の改正で、注目されるのは、事実婚や内縁など、戸籍上の配偶者や親族でない者については、依然として上記のような配偶者保護あるいは親族保護の恩恵にはあずかれないこととなっていることである。
公的援助などが既に事実婚、内縁の者にもある程度認められるようになってきている動向に照らすと、この点の改正がないことは、不満足の感がある。
4 要綱案自体を未だ確認できていないので、今後、確認でき次第また検討してみたい。
平成30年3月13日付記事
5 その後(H30.3.12)、要綱案から正式に上記の記事のとおり、遺産分割についての民法改正案が政府によって閣議決定された。
婚姻期間20年以上の残された配偶者について、特に住宅の居住権を中心に厚く保護される内容
となっている。
今回の改正案で、注目されるのは、遺言についての改正である。
従来の公正証書遺言のほかに、自筆証書遺言を法務局に預ける制度が創設されるとともに、自筆証書遺言の財産目録を自筆ではなく、パソコンなどでも作成可能にしている。
前段は、偽造・変造や紛失などのリスクを減らすことができるような工夫であり、それに伴い、後段では、従来の自筆証書遺言の厳格な「自筆についての要件」を緩和している。