凸と凹「登録先の志」No.17:小橋祐子さん(NPO法人わくわーく 理事長)
やればできるのに、障がい者が守られすぎているのではないか
結婚して子どもを出産後、精神障がい者を対象にした無認可作業所でパートとして働き始めました。それまでは障がいを持つ方とかかわることがなく、精神障がいの方とも初めて出会いました。日々「なんで?」と思うことばかりでした。なんで寝てばかりいるのだろう…。なんで自分でできることなのに動くことをしないのだろう…。
その作業所は西日本で初めて牛乳パックを使った紙すきを行っていました。そのためには道具の準備が必要ですが、当時の利用者は自分でできそうなことも準備してもらうことを待っていることが多くありました。作業所に来られる人は症状などが少し軽くなっている人です。入院を余儀なくされるようなもっと大変だった状態を見ている利用者の家族は、作業所に行けるだけでもよかったと感じ、また悪くならないようにと、できるだけあれもこれもと世話を焼いているように見えました。同時に、家族の方たちが大変な思いをされていることを知ることにもなりました。作業所で十数年働いている間に、利用者が自主的にできる活動も見てきました。やればできるのに、周りに守られすぎて、できそうなことがあってもチャレンジする機会を失くしていることに違和感を覚えていました。
利用者の方たちとかかわる中で、自分たちだけで当事者を支援してもうまく進まない、当事者だけを対象に支援しても周りの理解を得ることは難しいと感じるようになりました。もっと違ったアプローチがないかと考えた結果、作業所で一緒に活動していたメンバー5人でわくわーくを立ち上げました。
いろいろな人がかかわれる場をつくりたい
わくわーくでは、いろいろな人たちがかかわれる場をつくりたいと考えています。
例えば、北九州市では放置竹林の問題があります。ある時、竹を使って楽器をつくる特許を持っている60代の男性が、竹楽器づくりのできる広い場所を探していて、わくわーくの場所をお貸ししました。この時、私たちの事業所を利用している障がいを持つ一人に声をかけ、楽器づくりを手伝ってもらいました。その利用者の仕事振りをみた男性から「彼はセンスがあるからインストラクターになってはどうか」と認められ、指導を受けて楽器をつくるインストラクターに育てていただきました。
私たちの事業所は利用者の平均工賃(給料)が月1万円にも満たないのですが、竹チェロは1本4万円以上する楽器で、1本つくると1か月分ぐらいの給与になります。モチベーションが上がって本人もすごく喜びました。彼の親御さんも音楽が好きで、楽器をつくってみたいということで、お母さんがインストラクターとなった息子さんに習い、竹チェロをつくることができました。家ではほとんど会話がなかったのが、楽器づくりのワークショップで会話がたくさんできたことを親御さんもすごく喜んでいました。
彼がつくった竹チェロで音楽教室が開かれるようになる等、活動が広がっています。新聞社から取材を受けて掲載されたこともあり、負担になりすぎないか心配しましたが、本人のペースで広げられているようです。
一緒にかかわる人も自分の力を発揮できる場にしたい
これらのプロジェクトの立ち上げにはどうしてもお金がかかるため、助成金を活用することもあります。竹のプロジェクトも助成金を受けて1年間活動して手応えを感じていますが、継続していくためには講師料や材料費が必要です。そこで、こうしたプロジェクトを他にも生み、育てていくために、2022年度からは「Be Happyプロジェクト」ととして各プロジェクトの基盤づくりにも着手することにしました。
Be Happyプロジェクトでは、一緒につくりあげていくボランティアの方も募りたいと考えています。職員だけでやっていくには限界があるため、いろいろな知恵をお借りしたい。プロジェクトに参加してもらうことで、一緒にかかわる人も自分の力を発揮できる場をつくれるのではないかと思っています。わくわーくは自分たちの拠点がある場所を活かして、当事者以外の方がさまざまな活動にチャレンジできるのが強みです。昔は「精神障がいの方と一緒にいて怖くない?」と聞かれたりもしました。障がいの方に対する理解が進み、知ることは、地域での人の広がりにつながるはずです。いろいろな人が集まる拠点だからこそ、いろいろな人とつながり、さまざまなプロジェクトが生まれる拠点にしていきたいです。
取材者の感想
小橋さんのお話を聴いていて、私は精神障がいの方のことをどれだけ理解しているのかなと感じました。精神障がいの方は30人に1人の割合でいると言われています。精神疾患は特別な人がかかるものではなく、誰もがかかる可能性のある病気であり、精神障がいの方は年々増加する傾向にあります。
知らないことやわからないことを「怖い」と思ってしまうのは、心理的には致し方ないことなのかもしれません。でも、だからこそ「知っている」「わかる」状況をいかにつくれるか。そのためにいろいろな人たちがかかわれる場をつくられているのだと思いました。
わくわーくは立ち上げから今年で13年目になりますが、親御さんの介護で離れた方以外は、今も創業メンバーで一緒に活動しているとのこと。
利用者のことを思うからこそ、必要以上に甘やかしすぎない。一人ひとりの持っている可能性を引き出すために、多様な人がかかわれる場をつくる。利用者の方の可能性を信じるメンバーのみなさんの思いを感じました。(長谷川)
小橋祐子さん:プロフィール
NPO法人わくわーく 理事長
北九州市生まれ。北九州市立戸畑商業高校(現北九州市立高校)卒業。新日鐡(現日本製鐵)の関連会社を経てアメリカに短期留学し、多様性について考える機会を得た。後に精神障がいを持つ方たちを対象にした小規模作業所に約17年勤務。この間、無認可の作業所が社会福祉法人の事業所となる過程を経験し、当事者や家族、地域環境や制度について多くの学びを得た。2010年、福祉・就労支援を目的とするNPO法人わくわーくを有志で立ち上げ、理事長に就任。障がい福祉サービス事業や地域コミュニティ事業を実施する中で、SDGsを達成するためのさまざまな実践に取り組んでいる。精神保健福祉士、社会福祉士の資格を持つ。
NPO法人わくわーくは、凸と凹「マンスリーサポートプログラム」の登録先です。