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源法律研修所

「弁」は、かんむり

2022.06.28 21:55

http://qiyuan.chaziwang.com/etymology-19137.html


 下記の記事によると、フランス政府は、フランス語の純粋性を維持するため、英語由来のゲーム関連用語の公的機関における使用を禁止したそうだ。

 フランスは、個人主義が強い国柄ではあるけれども、祖先から相続したフランス語を保守し、これを子孫に継承させることの大切さを分かっており、たとえゲーム関連用語であってもフランス語の伝統を守ろうと努めている。


 ところが、しばしばこのブログで指摘しているように、我が国の文科省・文化庁・国語審議会は、日本語の伝統を破壊することに努めている。


 例えば、①「弁」、②「辨」、③「辯」、④「瓣」は、それぞれ語源も意味も異なる漢字であって、古来より使い分けてきたのに、戦後、当用漢字表・常用漢字表は、これら4つの漢字を「弁」に代用させたのだ。

 なんたる暴挙か!おかんむり!


 ①「」は、「両手でかんむりを持つ形」を表し、「かんむり」を意味する(『角川新字源』)。例えば、「武弁」は、①武官のかんむり、②武官・武士を意味する。


 ②「理士」の「辨」(べん)は、「刀で分けて処理する」が語源であり、「わきまえる。わける。処理する。」という意味だ(『角川新字源』)。

 「辨理」とは、「物事を判別して適切に処理すること」をいう(『デジタル大辞泉』小学館)。

 技術に関する専門知識や法律知識を刀の如く用いて、特許権が認められるか、特許権を侵害しているか等を判別し処理するから、patent attorneyを「理士」と訳したのだろう。

 なお、弁理士の歴史については、日本弁理士会の下記のリンク先が詳しい。

 ③「護士」の「辯」(べん)は、「訴訟を分け治める、ひいて、ことわけを明らかにする」が語源であり、「かたる。話す。述べる。説きあかす。また、言葉づかい。」という意味だ(『角川新字源』)。

 「辯護」とは、「その人の利益になるように主張して助けること。また、その人に代わって事情をよく説明してかばうこと。」を意味する(『デジタル大辞泉』小学館)。

 

 ④「花」・「膜」・「安全」の「瓣」(べん)は、「瓜(うり)を二つに割った中身」が語源であり、「はなびら。また、液体や気体の出入りを調節するもの。」を意味する(『角川新字源』)。


 当用漢字表・常用漢字表により、「理士」が「弁理士」に、「護士」が「弁護士」にされてしまった結果、「かんむり理士」、「かんむり護士」ということになり、意味不明な言葉になってしまった。

 日本弁理士会も日本弁護士連合会も、raison d'êtreレーゾンデートル(存在理由)に関わるのに、なぜ「辨理士」・「辯護士」に戻すよう主張しないのだろうか。


 同様に、「弁解」、「弁証」、「弁済」、「弁償」、「弁別」も、「かんむり解」、「かんむり証」、「かんむり済」、「かんむり償」、「かんむり別」という意味の分からない言葉になってしまっている。

 旧漢字(正漢字)で「辯解」、「辯証」、「辨済」、「辨償」、「辨別」と書けば、辞書を引くまでもなく、見ただけで意味が分かる。


 「弁解」=「辯解」:言葉で誤解を解く→言い訳をする

 「弁証」=「辯証」:言葉で証明する

 「弁済」=「辨済」:返済を処理する→借金を返す

 「弁償」=「辨償」:償いを処理する→損害を償う

 「弁別」=「辨別」:わきまえて区別する



 余談だが、「弁」つながりで、私は、職員研修においては「懸河(けんが)の辯(弁)」(勢いよく、よどみのない話しぶりのこと。)でありたいと思い、努力はしている。

 しかし、もともと口下手で人見知りなので、なかなか思うようにはいかない。研修講師としては失格だな。。。苦笑


 支那(シナ。chinaの地理的呼称。)の西晋の思想家に郭子玄(かく しげん)という人がいた。

【原文】王太尉云:「郭子玄語議如懸河寫水,注而不竭。」(『世說新語卷中之下』131)


【読み下し文:久保】王太尉は云(い)えらく:「郭子玄(かくしげん)が語(かた)る議(ぎ)は懸河(けんが)の水(みず)を寫(そそ)ぐが如(ごと)く、注(つ)げども竭(か)れず」


【意訳:久保】王太尉は言った:「郭子玄が語る意見を聞いていると、まるで空に懸かった河(滝のように急斜面を流れる河)の水がそそぐように、流れが途切れることがない。