突然いなくなった「パパ」と「ママ」
五歳のとき、里親の「パパ」と「ママ」が突然いなくなりました。
夏の暑い日。いつものように幼稚園から帰り、里親の家に行くと、家の前に人だかりができていました。嫌な予感がして、中を見てみると、家には何もかもがなくなっています。私が読んでいた絵本も、遊んでいたおもちゃも……。
そのときの私はわかりませんでしたが、どうやら「パパ」が事業に失敗して、借金をつくって夜逃げしてしまったようでした。
今日も私が家に来ると知っていたはずなのに、何も言わずにいなくなってしまった……。
私は現実をうまく受け入れられずに、ただ立ち尽くしていました。
「どうしてパパとママは内緒でいなくなったの?」
「どうして一言も言ってくれなかったの?」
その瞬間、私は、「裏切られた」と感じました。
さらにショックだったのは、大好きだった周囲の大人たちが大好きな「パパ」と「ママ」の悪口を言っていたことです。
「夜逃げなんかするような連中だったんだ」
「借金なんかしやがって」……。
そのときに思ったのです。
世界は敵だらけ。人は信用できない。頼りになるのは自分だけ。
もう弱さを人に見せない。自分のつらさを人に知られてたまるか!
そう決めた私は、感情を表に出すことをやめることにしました。
このときから、深い喪失感と絶望と孤独を抱え、長い長い間、暗闇の中をひとりでさまようこととなります。
もしも私が自分の両親に「どうしてパパとママの悪口を言うの?」とか、「寂しいよ、つらいよ、助けて」と言えたなら、その後の人生は変わっていたのかも知れません。
「寂しいよ」と言えたなら、その後の
人生は変わっていたかもしれません。
『大丈夫。そのつらい日々も光になる。』
(PHP研究所)
第1章 突然いなくなった「パパ」と「ママ」
P24〜P26 より