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自然保護と生物多様性の保全

2022.06.29 01:36

https://tanba.jp/2021/02/%e3%83%8f%e3%82%b9%e5%be%a9%e6%b4%bb%e4%ba%8b%e6%a5%ad%e3%81%8c%e5%85%a5%e8%b3%9e%e3%80%80%e5%a4%96%e6%9d%a5%e3%82%ab%e3%83%a1%e9%a7%86%e9%99%a4%e4%bd%9c%e6%88%a6%e8%a9%95%e4%be%a1%e3%80%80%e6%97%a5/ 【ハス復活事業が入賞 外来カメ駆除作戦評価 日本自然保護大賞で】より

かつて名所として知られた兵庫県丹波篠山市にある篠山城跡南堀のハスの復活を目指し、消失要因と考えられた外来カメ、ミシシッピアカミミガメを駆除している「農都ささやま外来生物対策協議会」の取り組みが、「日本自然保護大賞2021」で入選した。活動が功を奏し、2019年には固有種のハス「篠山城蓮」が約15年ぶりに復活。その後も群落が再生、拡大を続けている。

同大賞は、公益財団法人・日本自然保護協会が、自然保護と生物多様性の保全に大きく貢献した取り組みを表彰するもの。7回目の今回は、全国から129件の応募があり、大賞3件、特別賞3件、入選20件が選ばれた。

拡大を続ける群落の様子(上空から撮影)

南堀のハスの群落は、2005年ごろに突如、消滅。復活を望む小学生たちの声を受けて市、市民、事業者、神戸大学の産官学民連携で対策協議会を組織。2014年からカメの駆除を始めた。

カメ捕獲専用網と日光浴罠で駆除に取り組み、これまでで累計1371匹を駆除。「根絶」が視野に入っており、今後も駆除に取り組んでいく。

開花している篠山城蓮は、かつて咲いていた固有種を栽培していた「京都花蓮研究会」から市がレンコンを譲り受け、地元の小学生らと植えたもの。月1回程度、ドローン空撮で調査を続けており、昨年は南堀の19・8%(約2500平方メートル)にまで拡大。今年中に約60%、来年には全面に広がると予測している。

昭和30年代の写真では堀一面を覆っていたため、往時の姿があと少しでよみがえることになる。市は、「景観写真コンクールやデカンショ節大賞の題材にもハスが登場するようになり、市民のみなさんからも関心の高い事業。対外的に評価を得られてよかった」と話していた。


https://www.nikkei.com/article/DGXNASFK2702P_Y0A920C1000000/ 【生物多様性、「保護」と「保全」の大きな違い】より

レスポンスアビリティ・足立氏に聞く

編集委員 滝順一

2010年9月29日 7:00

生物多様性条約の第10回締約国会議(COP10)が10月半ばに名古屋で開幕する。多種多様な生きものがすむ豊かな生態系を守るのが目的の条約だが、生物資源の持続的な利用など経済的側面も色濃い。環境問題について企業に助言するレスポンスアビリティ(東京・品川)の足立直樹代表取締役は「生物多様性の保全は資源戦略だ」とみる。

生物多様性条約の目的

(1) 生物多様性の保全

(2) 構成要素の持続的利用

(3) 遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分

1993年発効、約190カ国が加盟

――日本を含む世界190カ国以上が加盟する生物多様性条約の意義は何だと考えますか。

「条約の目標は3つあるが、その第1は多様性の保全。保護ではなく保全だ。囲い込んで触らないのではなく、手を付けてもいい。ただ損失しないように、持続的な利用ができる形で使う。それが第2の目的である構成要素の持続可能な利用につながる。さらに遺伝資源の利益の分配が第3の目標。生物多様性は経済性を持ち、その利用を前提とする条約だ」

「言い換えれば、生物多様性は資源であり、国や企業に資源戦略が必要だということだ。石油やレアメタルと同じだ。石油資源はすぐには枯渇しないが価格は高くなる。エネルギー源としての石油は代替エネルギーがあり、そちらにシフトするのは大変であるものの、進む道は見えている。石油資源の2割は樹脂などの素材原料でもある。これを代替するのは生物資源しかない」

足立直樹・レスポンスアビリティ代表取締役

「生物由来の素材はうまく使えば再生可能で、環境への負荷も小さくできるかもしれない。もっと着目されてもいい。ただ量的な確保には土地が必要だ。すでに食料生産のためランドラッシュ(農地の取得合戦)が始まっており、こうした動きに拍車がかからないとも限らない」

「バナジウム、コバルトなどのレアメタルは海水中に薄い濃度で含まれる。工業的な手段では濃縮にコストがかかりすぎるが、ホヤはバナジウムを数万倍の濃度まで濃縮できるという。またクモの糸は鋼鉄より高い強度を持つうえ、つくるのに溶鉱炉を必要としない。夢物語に聞こえるかもしれないが、人間の技術ではできそうもないことが、生物の力で実現できる可能性がある」

――生物多様性の持続的な利用が大事だとの総論では多くの国々は一致するのでしょうが、どのように実現するかをめぐっては先進国と発展途上国で意見が食い違っています。

「先進国は生物資源の重要さを認識し保全を考えるが、途上国にとって土地は開発の場であり、これから工場や住宅を建てていきたい。その押し問答では解決がなかなか見えない。新しい発想が必要だ」

「南米のエクアドルが面白い提案をしている。同国内のヤスニ国立公園の地下に眠る石油資源を開発しないと決めた。これで同国は60億ドル以上の利益を逸失することになるが、その負担を国際社会で分担するよう求めている。フランスなど欧州諸国や国際機関が賛同してお金を出し、約34億ドルの基金をつくる計画だという。その資金を使ってエクアドルは再生可能エネルギーの開発を進め石油資源への依存を転換するという」

「日本人の多くは突拍子もない話だと感じるかもしれないが、筋が通っている。生物多様性を守り温暖化ガス排出が少ない低炭素社会に移行するというのは先進国の主張をそのまま実現するものだ。国際的な文脈にあっている」

生態系市場の規模と潜在的な成長性

市場の種類 2008年の規模 2010年までの

潜在的規模 2050年までの

潜在的規模

認証を受けた農

業と漁業 260億ドル 600億ドル 2000億ドル

森林による二酸化炭素の吸収・隔離 1億ドル 15億ドル 60億ドル

認証を受けた林産物 50億ドル 150億ドル 500億ドル

水に関連した生態系サービスへの政府支出 メキシコ1500万ドル、コスタリカ500万ドルなど 30億ドル 200億ドル

流域管理への民間の支払い 500万ドル(一部公的支出含む) 5000万ドル 100億ドル

規制による生態系オフセット 10億ドル 15億ドル 30億ドル

規制による生物種オフセット 米国

4500万ドル 6500万ドル 2億ドル

自主的な生態系保全へ支出と生物多様性オフセット 2000万ドル 2500万ドル 1億5000万

ドル

政府による生態系保全へ支出と生物多様性オフセット 30億ドル(動植物の保全のみ) 40億ドル 100億ドル

土地信託、保全地の地役権 米国

60億ドル 100億ドル 200億ドル

注)国際自然保護連合のBishopらがまとめた報告書"Building Biodiversity Business 2008"をもとに作成

「森林や海洋などの生態系は資源を提供し環境を浄化するなど私たちの社会に大きなサービスを提供してくれている。その価値をお金としてはかり、生態系サービスの大きさに見合った額のお金を負担すべきだというのが、ペイメント・フォー・エコシステム・サービス(PES=生態系サービスへの支払い)という考え方だ」

「エクアドルは産油国であり恵まれた例であるかもしれないが、こうした動きがこれから当たり前のものになっていくだろう。先進国が納得してお金を出し途上国も進んで保全に取り組むことを可能にする新しいメカニズムについて、もっと話し合う必要がある」

――名古屋のCOP10で、そうした新しい仕組みが話題になりますか。

「名古屋での議題はすでに決まっており、革新的な資金メカニズムについて具体的に決まる段階ではない。名古屋では政府開発援助(ODA)など従来の援助手法で途上国を支援し保全を進める考え方が主流だが、次のステージに向けてよく議論すべき段階だ」

「ただ、生態系サービスの価値を何らかの手段で測定し、開発時に等価の生態系をどこかで保全することを開発側に義務付ける生態系オフセット(埋め合わせ・相殺)の考え方は、すでに欧米で一般的だ。米国では湿地などの開発に伴うオフセットは数十年の歴史がある。欧州でも重要な生物種が生息する地域を開発する場合は埋め合わせとなる保全抜きでは認めないとする欧州連合(EU)指令がある。こうした制度がないのは先進国では日本くらいだ」

――COP10の焦点の1つが、遺伝資源から得た利益の配分の問題ですが、議定書として合意をまとめるのは困難との見方もあります。

「多様性条約ができたころから先進国と途上国が対立しており難しい問題だ。長年、熱帯林など動植物を先進国に利用されてきたとの途上国の思いは理解できるが、条約発効前までさかのぼって利益配分を求めるなど、やや要求水準が高すぎる」

「利益配分の手順などには拘束力のある共通した取り決めがあってもいいが、一律で売り上げの何%を払えなどと決めるのは行き過ぎではないか。これは途上国政府と先進国企業などの間で個別に相対で決めるべきものだ」

「ただ日本企業は遺伝資源の問題にもっと敏感であってほしい。レアメタルなどと同じで、何トンの資源をいつまでにほしいと、商社に頼んだり市場で発注したりすれば手に入っていた時代ではなくなりつつある。資源の最上流で何が起きているかに配慮しないと予想外の事態を迎えるリスクがある」

「例えば、米政府はコンゴ産のレアメタルに対し事実上、禁輸措置を発動している。コンゴ国内のゴリラの生息地の破壊が理由の1つだ。これを受け、フィンランドの携帯電話メーカーであるノキアはコンゴ産のタンタル(レアメタルの一種)を使わないと決め、トレーサビリティーがある(原産地がわかる)素材を使用するよう部品メーカーにも指示している」

「英蘭系の日用品メーカー、ユニリーバはインドネシアのパーム油農園などと広範に提携し、環境に負荷をかけない栽培の認証制度をつくり、認証農園で生産した油でつくったせっけんなどを発売している。こうした制度づくりでは欧州のグローバル企業が先んじている。森林資源、水産資源の認証制度はこれから普及するだろう」

〈取材を終えて〉 エクアドルのコレア大統領は9月に来日しヤスニ国立公園の構想を日本政府に提案したようだが、報道を見る限り、日本政府が賛同したようには見えない。保全するだけで巨額の資金を手に入れる提案に耳を疑ったのかもしれない。

 森や海など生態系の価値を金額に換算するとの発想に日本人の多くは居心地の悪さを感じる。しかし、どうやら世界の潮流はそちらにある。COP10でも地球の生態系サービスの価値を見積もった報告書が公表される予定と聞くし、足立さんが指摘しているように、開発で壊す生態系と等価のものを手当てして、埋め合わせするという手法が海外では提案され実施に移されている。

 生態系の保全と開発・経済成長をどう両立させるか。居心地の悪さを意識しつつも、これに代わるアイデアの提案力がないのなら、私たちもこの新しい発想に慣れていかないと、遅れをとりそうな気がする。