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yoyo

2022年上半期に読めてよかった10作品

2022.06.29 15:28

2022年上半期に読んだもののなかでよかったもの10作品。主に文芸系から選んで、再読と著者かぶりのものは除いています。


1.永井玲衣「水中の哲学者たち」

2.若松英輔「本を読めなくなった人のための読書論」

3.島田潤一郎「古くてあたらしい仕事」

4.山本 善行,清水 裕也「漱石全集を買った日―古書店主とお客さんによる古本入門」

5.尾形亀之助「カステーラのような明るい夜」

6.池田彩乃「発光」

7.小手鞠るい「早春恋小路上ル」

8.安達茉莉子「自分のことを"女"だと思えなかった人のフェミニズムZINE」

9.宇佐見りん「くるまの娘」

10.新胡桃「何食わぬきみたちへ」


キーワードを拾うと、興味があったのは哲学、詩、本、本屋(あと夏葉社)といったところかなあ。ざっくり。善行堂さんへ行き、島田さんの本と出会ったのが大きなイベント(イベント?)だったと思います。あと近所に古書店ができたのも嬉しい出来事でした。

2021年のまとめで感想上手く書けるようになりたい!と書いたけれども、そうすることにより読書に差支えが出ることが分かり、うまくかかなくていいし、独りよがりでいいし、そもそも書かなくてもいいというスタンスで今はやっています(けれどもこういう振り返りの機会のためになるべく書きたいなとは思っている)。いい作品は感想を書こうと前は思っていたけれども、書くか書かないかは作品の良し悪しより自分の状況次第という感じです。感想はこの日記の「review」にあげてからインスタにあげています。どうぞよしなに。


以下は個別の感想(ほぼ抜粋)です。


1.永井玲衣「水中の哲学者たち」

上半期に読めて良かった本ナンバーワンなのに感想書いてなかった。。

ずっと言葉が言葉になる以前のものを、じっと待つ。そんなことをしてくれる場所が、人がいるなんて、という安心感が読んでいるあいだじゅうずっとあった。めっちゃ良かったので読んでください。永井さんの文章をもっと読みたくて群像を図書館で取り寄せるようになった2022年上半期でした。


2.若松英輔「本を読めなくなった人のための読書論」

読まなければならないものも、語らなければならないことも、私たちにはないということ。窮屈になってしまった考え方を一度ほぐしてくれるような本。このあいだ読んだ『水中の哲学者たち』然り、自分を元いた場所へとかえしてくれるような本に出会えて嬉しい。


3.島田潤一郎「古くてあたらしい仕事」

大きな資本が小さなものの息を止める、大衆に寄せるか自分のやりたい方向で行くか。なんて現実はそんなに単純ではない。島田さんというひとりの人の目を通すから見えてくる、二項対立では捉えられない仕事をめぐる物事たち。

読み終えた後、大きな世界の目線で小さい世界を捉えていた自分に気づく。『本屋さんしか行きたいとこがない』でも仰っていた「大きな世界ではやっていけなくても小さな世界ではやっていける、悲観することはない」という言葉に、ああそうだよなあ、もっと早くこの本を読みたかったなあと思う。世の中にはいろんな社会があり、それらはただ社会として存在し機能しているだけで、対立することもあるが支え合うこともある。その中でみんな自分の持ち分をつくり、守りながら、過ごしているのだ。

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この本に出会えたから「これは未来」を書くことができました。「仕事」の見方もかなり変わった。いちばん最初に善行堂さんで手に取った「本屋さんしか行きたいとこがない」も、最近ちくまから文庫化された「明日から出版社」もほんとによかったです。働くことに迷いや疑問を感じている人はぜひ手に取ってほしいです。そのほか「レンブラントの帽子」「美しい街」なども読み。2022年上半期の読書は夏葉社さんとともにあったという感じです。


4.山本 善行,清水 裕也「漱石全集を買った日」

古本屋店主の山本さんと、古本を買いはじめて数年のお客さん清水さんの対談。清水さんがいかにして古本にはまったかが、実際に買った本とともに紹介されていく。とにかく面白かった。

自らを「古本病」と称するお二人の対談を読んで見えてきたのは、たしかに読書の道筋に普遍的な部分はあれども、基本的に自分の中に自分でこしらえていくものなのだということ。こしらえるにはSNSで知る、古本仲間や書店で聞く、という方法はあれども、基本的に「本を読むこと」だということ。読書欲が掻き立てられます。


5.尾形亀之助「カステーラのような明るい夜」

読みながら浮かんだのは「生活に染みついた孤独」という言葉だった。編者の西尾勝彦さんははそれを「永遠の淋しさ」と表現されている。内から外へ向けた視線で描かれる詩は少し日記と似ていて、ときどきとぼけた顔を覗かせながらもどこか淋しい。何をしていても何を見ていても孤独はそこにあるのだと語る。そしてそれは現在自分が見ている景色に自然と重なっていく。


6.池田彩乃「発光」

この詩集を読んでいるときの、私は語り手と同じものを見たことがある、同じことを感じていたことがあるという実感、ほんのりとした明るさ。この詩集は、私の隣にいる人なのだ。こうして池田さんは知らないところから、知らない誰かに宛てて、大丈夫だよと言い続けているのだと思った。

感情に依りすぎず、観念的にもなりすぎず。そのバランスにほっとする。感情的すぎたり観念的すぎると、私は叱られているような、惨めな気持ちになってしまう。こうならなくては、ああならなくてはと、焦ってしまう。今の私では不十分だと、何にも及んでいないと悲しくなる。けれどもこの詩集はそういうものとは別の世界にある。すべての言葉たちが、この言葉たちを目にしている私のままでいいのだと語っている。


7.小手鞠るい「早春恋小路上ル」

著者が18才から28才になるまでの出来事を描いた自伝的小説。舞台は70年代から80年代にかけての京都。京都というキーワードに惹かれて手に取ったのだけれども、すごくよかった。

もっとも惹かれたのは、物語を駆動させる小手鞠さんの実直でエネルギッシュな文章と人柄。この小説を読む限り小手鞠さんは頭の回転が速く、アクティブで仕事もできる方なのだろうと思う。しかしそれを鼻にかける描写がひとつもない。自伝的小説やエッセイによくある、自分を貶めることでかえって自慢する、みたいな仕草や、当時の過ちを弁明し現在の自分の体面を整えるような行為もない。描かれるのはとにかく仕事にも恋愛にも愚直な、泥臭い女の子の生き様。あくまで現在からの視点で、過去の気持ちが率直に書かれている。過去の自分を尊重する姿勢から小手鞠さんの実直な性格が浮かび上がって、好きだなあと思った。


8.安達茉莉子「自分のことを"女"だと思えなかった人のフェミニズムZINE」

個人的な体験が切実な願いと誓いになり、私たちの祈りへと昇華されていく過程が淡々と記されている。

悪意は女の女である部分に切り込んでくる。『いっぱしの女』でも印象的だったシーンだ。そこにはたしかに怒りがあり、しかし読後はほのかな温みが心に残る。こんな怒りのかたちがあるということにあたらしい光を見つけた心地になる。


9.宇佐見りん「くるまの娘」

これも感想書いてなかったな。。「毒親」「共依存」「ヤングケアラー」そういう単語を用いることで光に照らされることがある。救われる人がいる。一方で、単語が覆い隠してしまうものもある。その覆い隠された部分がただただ的確に、詳細に描かれていた。個人の抱える矛盾、家族の抱える加害/被害の曖昧さ。今読めて良かったと思えるような、時代を代表する一作品と思うし、同時に普遍的な物語であるとも思う。



10.新胡桃「何食わぬきみたちへ」

ここまで「軽蔑」というものに切り込んでいってくれる人がいることに救いのようなものを感じた。希望的に終わってくれたのがいいなあと思うし、希望的じゃなかったとしても繰り出される切実で真摯なフレーズの数々に私は安心していたと思う。

人種差別、女性蔑視、マイノリティへの差別。「社会問題」として取り上げられるそれらはつまるところ身近な人へのカテゴライズや見下しに、もう潜んでいる。そうした差別の種ともいえる存在がそのままに描かれているところに信頼を寄せる。