棒高跳を教えるための言葉
筑波大学大学院で行われている「高度スポーツコーチングのための英会話」という授業で以下のような課題が出ました。
Q.「ある運動を言葉だけで説明してみよう!」
日ごろのコーチング実践において動きを伝えるときは言葉だけでなく実際の動きを見せることがほとんどです。
「言葉」のみで動きを伝えるには、姿勢や方向、屈曲伸展、角度などを総動員して説明することが必要です。ここで「動きの早さ」や「力の大きさ」「感じ」を伝えることで、求める運動により導くことが出来ます。
また、この時似た言葉の中からどんな「言葉」を選択するのか?によって、与える印象が大きく変わります。
例)スクワット:膝を曲げる、腰を下げる、腰を落とす、しゃがむ etc.
棒高跳のコーチングにおいても言葉を上手く使うことで、より選手から求める動きを引き出すことが出来ます。コーチングにおいては「見せる」ことと同時に「言葉」によって見えないものを伝えられるでしょう!
ではここで質問です。
Q.「棒高跳の動きを言葉で表現してみると?」
皆さん、どのように棒高跳の運動を言葉だけで人に伝えますか?
「鉛直運動面、片逆手の握り、正面懸垂から振動振り、握り点を中心とした一回点未満の後方への左右軸回転、屈身逆懸垂、1/2倒立正ひねりの長体軸回転運動」
池和田ら(2007)は、棒高跳の踏切後の運動を以上のように表現していました。
言葉だけで表現するには、少し工夫が必要です。
棒高跳をコーチングする際に用いられる単語を一度振り返ってみると、
棒高跳・突込み・助走・踏切・入り・ポール降ろし・・・
が挙げられます。
英語で書かれた指導書や研究を見てみると?
Pole Vault・Plant・Run-up・Take off・Penetration・Pole drop・・・
と記載されます。
言葉によって動きの印象が変わってきます。
① 棒高跳/Pole vault:
足で跳ぶもの/手を支えにして跳ぶ
Pole "vault"という言葉から、棒高跳の「手」を用いるという意味が見えてきます。
② ポール降ろし/Pole drop
ポールを上から下に移動させる/ポールを落とす
ポールの降ろし方、特にスピード感が異なるように感じます。
③ 突込み/Plant
勢いよく入れる、差し込む/植える
ポールをボックスに入れるときの、ポールの動きが違うように感じられます。
このように日本語と英語を使った表現を見るだけでも、棒高跳の動きを表現する言葉の選択の可能性が見えてきます。
これまで当たり前のように使っていた「言葉」を考え直すことで、今まで以上に選手に伝わるコーチングが出来るかもしれません!
「百聞は一見に如かず」
という言葉があります。現に人間は87%の情報を視覚から手に入れているといわれています。
しかし、言葉も侮ってはいけません!
"一見"では見えないものを「言葉」は伝えられます。
どのように伝えるのか、動きを表現する言葉の選択を工夫することは、コーチングにとって大切なポイントの一つです。