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とある冒険者の手記

A.魔力の枷の真実

2022.04.22 02:03

黒衣森最奥にある白き一族の集落跡地に、アリスの身体を借りたルナは、ヘリオと共に訪れた。

ここに訪れる前に、ルナは中にいるアリスと情報を共有していたが、いざ跡地に来ると切なさが込み上げていた。

すると、小さな家から気配を察知したジシャが姿を現した。


「おや、ヘリオ…と、お前は誰だい?」


アリスの姿を見て、中身が本人じゃないと気付いたのは、流石白き一族と言うべきか。

ルナは自己紹介をし、事の経緯を説明すると、ジシャ驚いたが納得した。


「いやはや、なんと言うか…黒き武人に会う事があろうとはね」

「私も、こんな形で己の子孫に顔を合わせる事になるとは、妻と出会うまでは考えたこともなかった」


そんな雑談を交えながら、ジシャも自己紹介をし、本題に入った。


「それで、ここに来た要件はなんだい?」

「うむ。実は、私の血を濃く受け継いだ者達と話がしたいのだ」

「黒き一族の者達と?」


ルナは頷く。

そして、理由を詳しく話すと、彼女は"そういう事か"と腕を組んだ。


「それなら、少し待っていれば、此処にヴィラと言う黒き一族の者がやってくる。彼女は一族の代表だから、話すにはもってこいだろう」

「おお!そうなのか!それは運が良かった!申し訳ないが、此処で待たせて貰っても良いだろうか?」

「あぁ、構わない。…と言うか、ここはお前の住んでいた場所でもあるだろう?遠慮はいらないさ」


ジシャの言葉に"そうであったな"と笑うルナ。

ルナは適当な所に腰掛け、ヴィラを待つことにした。

その間、ヘリオはジシャと何か話しをしている様だった。


その時だった。


ルナの全身に悪寒が走った。

咄嗟にその場を飛び退くと、先程まで居た場所に、双剣を振り下ろした女が居た。

女が顔を上げると、その顔は感情が読み取れない、殺気も感じられない、なのに瞳だけは鋭く、ルナを捉えている。


(気配も殺気も感じられなかった…)


直感だけで飛び退いたものの、いつ襲いかかって来るかも分からず睨み合う形になる。

すると、ジシャから声が上がった。


「ヴィラ!そいつは敵じゃない!」


その言葉に、ヴィラは素直に武器をしまった。

だが、ヴィラはルナに対して怪訝な表情をし、口を開いた。


「貴様、何者だ?何故アリスの身体を使っている」


何度目かになる質問をされ、自己紹介と事情、目的を話した。

ルナの話を理解すると、ヴィラは呆気に取られた顔をした。


「にわかには信じ難いが、視えているエーテルがアリスと違うことを考えると…信じざる得ない…か」


ヴィラは片手で頭を抱えるが、直ぐに気持ちを切り替え、顔を上げた。


「それで、カ·ルナ様」

「あいや!様付け等せずとも良い。ルナと呼んでくれ」

「…では、ルナ。貴方の目的は我々に付いた魔力の枷を外す事と伺ったが…」

「うむ。お前さんは魔力を使いたいと思うか?」

「いえ。特には。と言うのも、元より魔力を使わずに生活してきたから、不便も感じなかった」


迷わずに即答するヴィラ。

それを聞きながら、思考を巡らすルナ。


「だが、若い者達はどうだ?」

「若い者達も同様です。私達黒き一族は、幼き頃より使命と生活の為、武力を磨き、魔力を必要としませんでしたので…」

「そうか…」

「ですが、これから産まれてくる次の世代はどうかは分かりません」

「と、言うと?」

「つい先日、私は一族の代表となり、掟と使命を廃止しました。これから外の世界で生きていく者達が子を成した時、今までとは違ってくる」


ヴィラは目を伏せ、胸に手を当てた。


「今までと違う新しい生活をしていく事になる新たな世代に、私達の背負ってきた業を、そのまま引き継がせたままではいたくないのです」


それを聞いて、ルナは満足したように頷いた。


「お前さんの考え、しかと承った。ならば、一族に伝わっている子守唄。あれも廃止する様、皆に伝えてくれ」

「子守唄を?」

「白と黒、どちらにも伝わっている子守唄。あれは魔力の枷の術式なのだ。妻は私の血に印を付けた。それが蝶の痣だ。その痣を持つ者のみに効果があるのだ」


ルナの説明に、ヴィラは納得したようだった。


「なるほど。だから妊娠が分かった時から唄うように習慣づけられたのか」

「うむ。胎児ならば、まだそれほど魔力を持っていないからな。枷を付けるのに母体の魔力消費が最小で済む…と妻が言っていた」


元々は一緒に住んでいた2つの一族。

その頃から根付いていた習慣の意味を理解したヴィラは、腑に落ちたようだった。


「枷の解除が必要ないとなれば、私の役目は終わった…この身体を主に返s…」

「ルナ、それは少し待っていただけないか?」

「?どういう事だ?」


ヴィラの静止に首を傾げるルナ。

すると、ヴィラは理由を話し始めた。


「実は、私には娘がいるのですが、娘はまだ掟が廃止された事を知りません。あの子はガウラを護る使命を受けている為、1箇所に留まっておらず、連絡のしようが無いのです」

「それを伝えて欲しいと?」

「それもなのですが、恐らく、あの子は枷を外したいと思っている筈なのです」

「ふむ」


ヴィラの言葉に、軽く頷くと、ルナは言った。


「あい分かった。そういう事であれば、役目は終わって無いのだな。しかと承った」

「ありがとうございます」


ヴィラはルナに頭を下げた。

そして、里へと帰って行った。

ルナはそれを見届け、ジシャとヘリオの方へと向き直る。


「さて、私の用は終わったが、ヘリオはどうする?」

「俺はまだここに居る」

「分かった。私は先に帰るとしよう。恐らく、お前さんが帰ってくる頃には、私は居ないであろう」

「そうか」

「少しの間だが、世話になった!ジシャも、急な訪問ですまなかった」

「気にしないでいいよ。こちらは貴重な体験が出来たからね」


ジシャの言葉に"恩に着る"とルナは言い、2人に別れを告げると、テレポでオールド·シャーレアンへと戻ったのだった。