ジェンダーレスコンドームケースをきっかけに 性の健康や多様性を問いかける 橋本阿姫さん、古川さくらさん(ともにCosmos代表)
いつもコンドームを持ち歩いているという人はどのくらいいるだろうか?
性を語ることが何かとタブー視されるお国柄ゆえか、日本では、例えば男性の財布からポロッとコンドームが落ちようものなら「この人、遊び人?」と疑われてしまうことすらある。女性が持っていた場合は「はしたない」と、さらにひどい偏見の眼差しを向けられそうである。
しかし、欧米先進国では、男女問わずコンドームを持ち歩くことが大人のマナーとして当然のことという認識が定着している。コンドームを携帯することはエチケットであり、自分を守り、大切な人を守る。ジェンダーレスコンドームケースというプロダクトを通して、それを日本でも啓蒙しているのが、セクシャルウェルネスブランド「Cosmos」の橋本阿姫さんと古川さくらさんだ。
Think Of US Projectは、彼女たちの活動に強く共感している。阿姫さんの記事と少々、内容が重複してしまう部分もあると思うが、改めて、ジェンダーレスコンドームケースの誕生秘話を聞いた。
言葉でメッセージを伝えるだけではなく、
目にして触れらるプロダクトが行動や意識変化のきっかけに
性教育講師でもあり当コラムですでにご登場いただいた橋本阿姫さんと古川さくらさんが共同代表を務める「Cosmos」とThink Of US Projectの出会いは、世界初のフェムテック専門オンラインストアを運営しているFermataが主催する「フェムテックフェス2021」。「あなたのタブーをワクワクに変える“フェムテック交差点”」をテーマとし、世界6地域、27ヵ国から157ものプロダクト・サービスが大集合したイベントだ。
吸水ショーツなど生理期間中を快適に過ごすアイテムや、セクシャルウェルネスに注目が集まり話題となっているセルフプレジャーグッズなどが展示販売される中、Cosmosの二人はジェンダーレスコンドームケースを商品化し、販売するためのプロモーションを行っていた。
(写真はフェムテックフェス2021でのCosmosブース/筆者撮影)
「なぜコンドームケースなんですか?」とたずねると、阿姫さんとさくらさんは共に海外在住経験があり、「海外では男女問わずコンドームを持ち歩くことが大人のマナーとして定着しているのに、日本ではそういう習慣がない。それを当たり前にするためにコンドームケースを販売しようと思った」と教えてくれた。
確かに、日本では「コンドームを持ち歩くのは恥ずかしい」と思っている人が多いと感じる。案の定、Cosmosが独自に行ったアンケートでは、「いつもコンドームを持ち歩いているという人はどのくらいいるだろうか?」という冒頭の質問に対する答えは23%という結果。海外在住経験のある二人が「どうして持ち歩かないの?」と、疑問に思うのは当然のことである。
橋本阿姫さん:前回のインタビューでもお話した通り、私は大学時代に性科学(セクソロジー)を学んでいて、その時に包括的性教育に関しても軽く学びました。大学4年のときに、個人的にコンドームケースを作りたいと思って先生に話をしたら「持っていたとしても、使う環境になったときに『使って』と言える勇気と行動が必要なのであって、ただ持っていても意味がないし、需要もない」と言われて、あきらめていたんです。その話をさくらにしたら、「コンドームケースを持つだけでも変わるし、持つという行動ができたら、次のステップにも繋がるから作ってみよう」というポジティブな意見で背中を押してくれて。
古川さくらさん:阿姫はいつもそう言ってくれるんですけど、本当に私がそこで背中を押せたのかということは疑問(笑)。若い世代の二人だからこそ、やるべきことだと思いました。セクシャル・ウェルネスを啓蒙する活動としても、ただ言葉でメッセージを伝えるだけではなく、コンドームケースという「物」があるのは大きいですよね。目にして触れられるプロダクトがあることで、性教育だけじゃなく、自分の体を大事にして、自分の人生を大事にするきっかけになるんじゃないかと思いました。
ジェンダーレスコンドームケースには
社会に発信したいメッセージがすべて詰まっている
ジェンダーレスコンドームケースは、写真の通り木製のナチュラルなイメージで、雑貨としても素敵なデザイン。中に何が入っているのかは他人には知られず、コンパクトで持ち運びやすく、手にも馴染む、雰囲気を壊すことなく開けやすいなど、機能性、デザイン性にも優れている。これは、二人のこだわりでもある。
古川さくらさん:「温かみがあって、馴染む」というのが私たちが大事にしていたことでした。最初に出来上がったものは素材がシリコン製で構造やコスト面で厳しいということになって、最終的に木製に落ち着いて。設計は美大の方にお願いしたのですが、商品化されたものは、スライドで開閉するので、コンドームを準備するときも片手でさっと開けられてムードを壊さない配慮もしています。
橋本阿姫さん:スライド開閉はさくらの案ですが、蓋がどこかに行かないのもいいですね。布団の中に紛れて、あとから探すのもちょっと不格好ですから。
最初は石の素材はどうかという案もあったんです。Cosmosを支援してくれているFEMMAさんもアイデアを出してくれていて、その中に、石とステンレスが半々でデザインされたおしゃれなオブジェがあって、「いいね」ということで素材をさがしをはじめたら現実的に難しくて。そこで、私たち自身も工場と直接やりとりができて、なおかつ手に取りやすいもの…と考えたら木という素材にたどり着いたんですね。
工場選びの時も、私たちの意図をお伝えして、いろんなところにお願いしたのですが、返事をいただいたところは「いいですね!」というスタンスで。工場の方にも小学生のお子さんがいらっしゃる年齢だったり、子育ての中での性教育にもすごく興味を持ってくれて「やりましょう」というところもあったので、進めやすかったと思います。そこからいろいろお話をしながら完成に至ったという感じです。
何段階もの試行錯誤を経てジェンダーレスコンドームケースが誕生したのは、発想から1年2ヶ月後。
古川さくらさん:モノを作るというのは時間もコストもかかります。結果的にこういう最終形態にたどり着いて、やりがいのあるプロジェクトでした。工場の方も、協力してくれる企業も、私たちの考えに賛同してくれる方々と一緒にモノ作りをしたいと思いましたし、セクシャル・ウェルネスへの理解も大切にしていたので、そういうところへの理解を深める苦労はありましたが、大変という感じではなかったです。
自分たちが考えて構想を練ってきたものが、商品として形になるというのは、人生の中でもそうない経験。阿姫は手先が器用だから、モノづくりの機会があったかもしれないけど、私の場合は、今までモノづくりが好きだったわけでもなかったので。私にとっては自分の思いや、社会に発信したいメッセージがすべて詰まったものが出来上がったということがうれしかったですね。
性教育の分野だけに限らず、
多様性を受け入れる社会に繋がってほしい
Cosmosのクラウドファンディングを行ったWebページには彼女たちのこんな思いが綴られている(以下、一部転載)。
・世界の性教育を体験したからこそ、30年前とほとんど変わらない日本の性教育をアップデートしていきたい。そのためには、ポジティブに性に向き合う場を提供し、日本の性に取り巻くタブーやスティグマを無くすことで、性をインクルーシブにディスカッションできるようにすることが必要なのではないでしょうか。
・どんな身体の性・心の性を持とうとも自分に合った選択肢で自分を受け入れ愛することができる世界人生はコントロールできあなたが人生の主役です。
・「コンドームは男性が用意するもの」という固定概念を払拭することも、このジェンダーレスコンドームケースの目的です。セックスにジェンダーは関係なく、自分の体を主体的に守ることは誰にとっても必要なことではないでしょうか。
・多くの方がこのケースを通して、自らの身体について考え、「ジェンダーを問わず自分の性の健康のためにコンドームをもつ文化」を築いていくことで、自分の人生を自分でコントロール出来るようにするきっかけになれば嬉しいです。
二人の熱量が伝わるこのメッセージにたくさんの人が賛同し、クラウドファンディングは175%を達成。大成功を収めた。
古川さくらさん:「多様性とチョイスが溢れる社会へ」をCosmosのビジョンとして掲げています。一人一人、顔が違うように、人はそれぞれ違います。相手を受け入れる、自分を受け入れる……性教育の分野だけに限らず、コンドームケースがその一つのきっかけとなり、そういった多様性を受け入れる社会に繋がればいいなと思います。
最近では、フェムテックが注目を集め、生理や更年期についての話題がオープンに交わされるようになってきてはいるが、性教育においては「はどめ規定」があるせいで、コンドームを使って避妊することを教えるのは、中学を卒業するまでは不適切とされている。しかし、性について隠せば隠すほど、思春期の子どもたちは興味を持つ。「はどめ規定」が生まれてから未成年の人工妊娠中絶は右肩上がりというデータや、初体験の年齢の平均が、年々、下がっているという報告もあるそうだ。
ジェンダーレスコンドームケースが引き金となり、コンドームを持ち歩くことが当たり前になり、望まない妊娠や性感染症を防ぐだけでなく、男性も女性も、自分の体のことは自分で決め、自分を主体とした人生を歩めるようになればいいと、筆者も願ってやまない。
構成・文:大橋美貴子 人物写真:金山裕一郎
Profile
古川さくら(ふるかわ・さくら)写真向かって右側
Cosmos共同代表。宮城県仙台市出身。青山女子短期大学にて現代教養の中で女性学を学んだのち、カナダのカレッジに留学。2年半に渡ってジェンダーやセクシャリティ、女性学についての知識を深める。4年間の海外生活では、大学教授の元で生理についての研究員として働く傍ら、性被害に苦しむ女性たちのシェルターなどでボランティア活動を行う。帰国後、志を同じくする橋本阿姫さんと出会い、セクシャルウェルネスブランド「Cosmos」を立ち上げ本格的にコンドームケースプロジェクトを始動。
橋本阿姫(はしもと・あき)写真向かって左側
性教育講師、Cosmos共同代表。兵庫県加東市出身。大阪府立大学にて、福祉視点よりセクシャルヘルス、性教育を学ぶ。卒業と同時にニュージーランドへ渡り、女性支援活動を行う。海外で多文化共生を経験したことで多様性の重要性に改めて気づく。NPO法人「せいしとらんし熊本」にて性教育講師として実践的教育方法を習得。大学在学中に得た性教育の知識と合わせ、従来の「生殖」を中心とした性教育とはひと味違う、世界基準の包括的な性教育を行う講師として活動する。
性教育クラス C+ https://cpluscosmos.wixsite.com/cplus
Cosmosオフィシャルインスタグラム https://www.instagram.com/__cosmosofficial/
●ジェンダーレスコンドームケース(Cosmos)
スライド開閉の蓋は紛失の心配もなく、片手でもスマートに開けやすい。中に何が入っているかも見えにくく、手にも馴染みやすい木製。コンドームを持ち運んだり保管するだけでなく、ピルケースやアクセサリーケースとしても使える。
4250円(税込)
詳細・ご購入はこちら→https://femma-official.com/products/cosmos-condom-case
INFORMATION
Think Of US Projectのメンバー、タナカナミが主催する「おっぱい展 2022」にCosmosの参加決定。ジェンダーレスコンドームケースを実際に手にできる!
おっぱい展 Nami Tanaka Exhibition「OPPAI=TABOO?」
開催日程 7月30日(土)~8月5日(金)
10:00~18:00(初日13:00~18:00/最終日10:00~17:00)
会場:COMI×TEN Café
(福岡市中央区大名1丁目12番5号 アペゼビル2F)
入場料:高校生以上500円(おっぱいガチャ1回付)
チケットをお持ちの方は会期中何度でも入場可/中学生以下無料
◆おっぱい展の詳細はオフィシャルホームページにて
おっぱい展のオープニングトークイベントでは橋本阿姫さんが性教育講師としてご登壇!
オトナの性教育座談会「性教育はタブーですか?」
開催日 7月30日(土)
受付開始:17:00
開催:17:30~19:00
参加費:無料(入場料別)
↓チケット申し込みは↓
https://peatix.com/event/3258830
※ Think Of US Projectインスタアカウントより一部ライブ配信あり
講師に橋本阿姫さんを迎え子宮や生理の仕組みを
自分でデザインしながら学べるワークショップも開催
コドモの性教育「子宮と月経のワークショップ」
生理の仕組みを毛糸・ビーズ・レースなどの素材を用い、好きな色や好きな素材を自由に選んで生理の時の子宮の様子を参加者さまが自分で創造するワークショップです。可愛い材料を使いながら楽しく生理について学べます。
開催日 8月2日(火)
講師:橋本阿姫(Cosmos共同代表・性教育講師)
開催時間①受付10:30〜11:00〜12:30
②受付13:30〜14:00〜15:30
対象:小学3年生〜中学生
定員:各回6名(+その保護者さま6名)
参加費:お子様1人500円
※付き添いの保護者さまや見学希望の大人は別途入場料500円が必要です
https://peatix.com/event/3258272