祝本屋大賞!辻村深月さんの『かがみの孤城』はすべての子どもたちに読んでほしい本!大人の読書感想文
「ねぇ、この本すごいよ」
その小説を紹介されたのは、世の中が2018年になるちょっと前のことだった。
「すごい面白い」と紹介されたけれど、ファンタジーものをあまり読まない私にとって、厚くて表紙から既にファンタジー感満載の『かがみの孤城』は、とってもハードルの高い本だった。
辻村深月さんという作家の方はもちろん知っていたけれど、著作は読んだことがなかった。
それが新年、中高生の生徒と実施している「読書会」の課題図書に合う本を探していたこともあって、「折角紹介してもらったから」と、この本を読んでみることにした。
それがはじまりだった。
あなたを、助けたい。 学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた―― なぜこの7人が、なぜこの場所に。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。 生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。一気読み必至の著者最高傑作。
そう、あらすじさん、その通り。一気読み必至でした。読んだらとまらなくなって、それこそ一気に読んでしまった。
冒頭の自己紹介から心を掴まれた。子どもたちの心の描写がリアルで細かくて、大人の自分でも感情移入をこれでもかとして読めた。圧巻は415ページからの怒涛の展開。ちなみに小説自体は544ページだ。ページをめくる手が止まらなくなって、お陰様で寝られなかった。でも、睡眠以上の価値があったように思う。本の世界にのめり込んでいた。
そこには、ファンタジーなのにリアルな、なんとも不思議な世界があった。うん、それはまるで主人公たちにとっての『かがみの孤城』のような、そんな世界に出会えた気分だ。
もっと早く読んでおけば!が感想。「ファンタジーが苦手。厚いし」なんて思ってごめんなさい。そして、読後すぐに辻村さんの他の作品を本屋で探したことは言うまでもない。ネタバレ感想は以下に書き記しておきます。
とにかく、子どもたちに最高にオススメしたい本。辻村深月さんもインタビューで「10代に読んで欲しい本」と述べている。
そして、今何かに苦しんでいてそこから抜け出すヒントを見つけたい大人にもオススメな一冊です。さぁ、手に取ってみよう。
【ここからネタバレ有】『かがみの孤城』は主人公たちだけでなく多くの子どもたちにとっても大切なもの!
そこへ入ると、不思議な世界が待っている。
欲しいものがあって、楽しいものもあって、話したいことがあって、訊きたいこともあって、現実とは何となく似ているけれど、少し違う、会いたい人がいる場所。
主人公たちにとって鏡の向こうに広がるお城がそんな場所であるように、私にとっても、この本の中に広がる『かがみの孤城』は、確かにそんな場所であった。
そして、そんな場所に出会えたら、救われる子どもや保護者の方々も沢山いるんじゃないかなと思った。例えば、学校に行けないと悩む子どもや保護者の方々がこの本を読んだら、すぐに「あ、世界はとっても広いんだ」ということに気付けるだろう。
物語の主人公たちは、中学生。普段指導している生徒たちと同年代だ。
彼らは時に悩み傷つき闘い苦しむ。主人公たちのように、学校に行けない自分を責める子もいる。本当は世界はもっともっと広くてやさしくて素晴らしいのに、なかなかそれに気付けない子たちも。
「闘わないでいいよ」とフリースクールの喜多嶋先生は彼らに言った。その通りだなと思った。闘うことも必要だけど、闘わないことも大切なのだ。どこで闘うかは、何に本気になるかは、各々が選べばいいんだ。広い広い世界で、君が夢中になることは、君が見つければいい。
ただでさえ現代は、価値観多様化が叫ばれ、家に居ながら世界中の人とつながれる時代だ。『かがみの孤城』とまではいかないけれど、例えばインターネットの世界では匿名で多くの人が世代を超えてつながっている。
生きる場所は、どこにでもある。自分にとっての『かがみの孤城』が、あなたにとっての『かがみの孤城』が、きっとどこかにある。「願いの鍵」はないけれど、願いを叶えることはいくらでもできる。たった自分一人だとしても、私たちはどこへでも行ける。何でもできる。
そう、『かがみの孤城』が自分にもあると知ることで、人は強くなれる。
もう少しだけネタバレ感想を。途中「あ、これ君の名はみたいに時代が違うんじゃないか」と気付いたけれど、その怒涛の展開っぷりにワクワク感が途絶えることは決してなかった。
ミステリーって謎が解けちゃうと魅力は半減するはずなのに、そうならなかったのはなぜだろう。考えた末に出した結論はこうだ。
きっと、それが大切ではなかったからだ。
圧巻の後半戦。伏線が次々と回収されていく中で「やっぱりな」「やっぱりな」とは思いながらも、目を見張ったのは、彼ら一人一人の心の葛藤と成長だ。
ウレシノの一歩。マサムネの「お疲れ様」。こころが乗り越えた痛み。スバルの夢。フウカのやさしさ。リオンの秘密とお別れ。オオカミさまの願い。アキの未来。
見どころがこれだけあって、謎なんていい意味でどうでも良くなっていたのだ。そんな一人ひとりの成長譚が、とてつもないワクワクドキドキ感と感動をくれた。『かがみの孤城』に迷い込んだ子羊たちは、見事に迷いから解き放たれたのだ。
素敵で温かい気持ちも、嫌で汚い気持ちも、抱えることってあるよね。人間だもの。大切なのはさ、それにちゃんと向き合って、「怖いもの」にしないことだ。そんな色とりどりの気持ちたちを見つけて、「取っておく」「捨てる」を選んで、必要なら闘って、必要じゃなければ忘れちゃって、そのどれもが難しいようだったら、逃げちゃったっていいんだから。だからさ、どうしようもなくなった時の声の出し方や逃げ方や逃げ場所は、ちゃんと知っておかなくちゃ。
そして、子どもたちがそうやって闘っている時に、または苦しんでいる時に、そっと手を差し伸べられるような大人でありたいなと思った。喜多嶋先生のような。今、彼らの日々がうまくいってなくても、気持ちがちゃんと言えなくても、どんなに大きな不安や迷いを抱えていても、そんな彼らに気付いて、「あなたはあなたのままでいいんだよ」って、言える大人に。
塾という場所も、子どもたちの『かがみの孤城』みたいな存在に、なれたらいいな。
本日もHOMEにお越しいただき誠にありがとうございます。
今年はいい本にたくさん巡り会える予感。そして、辻村さんのドラえもんも楽しみです!
過去の「大人の感想文シリーズ」
・人とロボットだけど「つながり」の物語。『ロボット・イン・ザ・ガーデン』