ジャンダルムにエンジェルが舞い降りた
小森武夫 2014年9月26日掲載 E-51
バスは釜トンネルを抜け、帝國ホテル前の唐松の樹林の中を走っている。 木漏れ陽が緑を一層引き立たせている。 『さっきまで、雨がポツポツしていたのになぁ、この分なら岳沢まで雨に降られずにすみそうだな!』と一人呟く! バスターミナルで下車し、登山計画書を投函して、レストハウスの階段を登ると、店内は丁度昼時のためか、かなり混んでいる。 一番奥の窓際のカウンター席に座り『カツカレーッ!』と、注文した。 流石に、これからの登りを考えると『生ビール!』とは言えなかった。 下の広場には、観光客・登山者で溢れている。 “槍からかな?それとも奥穂高から下山かな?” そんなことを考えながら昼食を済ませた。
!さあッ 出発 13:00だッ!!
上高地かっぱ橋から岳沢展望
河童橋は相変わらず、人・人・人! 人混みを抜け、右岸に沿った林道を行くと、後ろからブロロロロォーーーッ! 作業用トラックが横を通り過ぎて行く、その後は何も無かったように静けさが戻り、梓川の清流は滔々と流れている。
暫く行き「岳沢登山路入口」の標識を左に折れると、いよいよ登山道に入った。 登りながら徒然に考えた。思い起こせば、北アルプスに最初に登ったのは、このルートを岳沢ヒュッテ(当時の名)に泊まり、重太郎新道から奥穂高岳に登ったのが、最初だったな!あれから、三十年近く経ったかッ!早いものだなッ! 暫し、懐かしさと、感慨に浸った。 そう言えば、今回の山行に至ったのは、昨年「初代ジャンダルムのエンジェル」の、支柱が外れ、ボロボロに錆びて、岩の上においてある写真を見た時から始まったのだった。今日迄の、エンジェル作成のことなどに、あれこれ思いを巡らしているうちに、岳沢小屋(現在の名)に着いた。
身支度を済ませてから夕食までが、至福のひと時、今日を振り返り、明日へと思いを馳せながら呑むビールは格別だッ! ブルルッ! オッ!ちょっと冷えて来たなッ! 夕食を済ませると、早々に“Good night” ZZZZZZZ!!
朝、3:00起床、三日月が雲間に見え隠れしている『上空は風が強いなッ!』今日は、降らなければいいが!あの稜線は、雨では、ちょっと手こずるからなッ!』空が次第に白みかけてくると、ガスが山腹を降りてくる「降る霧は晴れる」かッ、その通りならいいんだが・・・・・。
朝食を済ませ、テルモスにお湯を頂き、既に準備をして置いたザックを背負って 『さあッ! 出発!』誰に言うでもなく自分に言い聞かせた。 第一・第二・第三お花畑を通過する。 トリカブト・フウロなど、紫色の花が、秋の気配を感じさせる中、「天狗沢」を登る。
だいぶ登り詰めて、稜線直下になると、「岩場」などと言う状態では無く、正に「砂礫の河」だ、石と石がお互いにバランスを保っている時はいいのだが、石を踏んで、力を入れると、ズズズズゥーーーッ!と流れる。下手をすると連鎖反応して、上の大きな石まで落ちて来かねない、ソォーット・ソォーット!進む。 幸い、前にも、後ろにも誰も居ないので、落石を起こしても心配ないのが、せめてもの救いだ! “砂礫との戦い”の末、「天狗のコル」に着いた。
天狗のコル、まだヒュッテの標識が
ピユゥーーーーッ!飛騨側からの風が強い!
“寒いッ”すぐに天狗のコルを後にする。 そこからは、岩稜帯を、「登っては下り、下っては登る」の連続だ! 岩間のチシマキキョウや、近くの岩に止まるイワヒバリが、心を和ませてくれる。幸い雨は降らないが、ガスが辺りを覆い視界は効かない! もう!だいぶ登ったなッ! そんな時、風が、フゥーッと吹いたと思ったら、突然、ジャンダルムが姿を現した。Ohhhhhhhh----ッ!!
西穂高から来た強者が、追い越して行く、それから鞍部へ下りてジャンに取り付く、そこからは、難なくジャンダルムのピークに着いた。 早速、ザックからエンジェルを取り出し、石を集めてエンジェルを建てた。
2014年(平成26年)8月20日(水)AM10:15
ジャンダルムにエンジェルが舞い降りた瞬間!!
その時居合わせたのは、西穂からの強者三人・父娘二人・女性のソロ一人、と小生の七人だった。写真を撮り終わると、早々に出発!ロバの耳の基部を回りこむように下り、鞍部に出ると、もうひとつ大きなピークを越える。 すると、ウマノセへの取り付け点へ着いた。 ヨシッ!最後の詰めだッ!
ウマノセを登りきると、僅かで、奥穂高岳山頂(3,190m)に着いた。
山頂から山荘へは、慎重に下山、「何事も、 9部終って5部とみる」最後 の最後が肝心なのだ! まだ、気を抜くなッ!!
13:00奥穂高岳山荘到着!! ---!終わった!--- ホッ!
山荘では、ジャンのピークで会った、山形県のSさん・安曇野のHさん・神奈川県のHさんと、4人で大宴会!“楽しい・楽しい、とろけるような時間“が流れた。
明けて、8月21日は曇り、5:20に!Go!! ザイテングラードを涸沢へ下り・横尾へ出て、10:20上高地に着いた。シャワーを浴びて、またまた、レストハウスの暖簾をくぐる、定番の「カツカレー」「生ビール」「日本酒」を注文した。
“もう!ここのカツカレーも何度食べたことだろう!俺の「北ア」の歴史だ”
ジャンダルムに、「二代目エンジェル」を建てられたことの満足感に浸っていると、ふと琥珀色のビールの向こうにエンジェルが見えたような気がした。 グビグビィーッ!想い出とともにビールを一騎に飲み干した。
初代エンジェルが、今までジャンに登った方々の想い出となったように、 「二代目エンジェル」も、今後、多くの人達に愛されるとともに感動の一助とならんことを祈念する次第です。 末筆ながら、奥穂高~西穂高間の稜線を試みる人が増えている様であるが、何時までも、エンジェルに安全登山を見守って頂きたいものである。
完
【追記】
岳沢小屋のスタッフが『あのザックに括りつけてあるのは何ですか?』『ンッ! な・い・しょ!』 フフフフッ! ★後日判ったことだが、他の登山者も不思議に思っていたらしい!(?スコップ?だって!)
【エンジェルの仕様】
◆初代エンジェル 長さ:14cm 高さ:8cm 材質:鉄製
自宅に回収して、額に収まった初代エンジェル
◆二代目エンジェル 長さ:23cm 高さ:18cm 重量:1.3kg(支柱含む) 支柱の長さ:90cm 材質:ステンレス製