ユニリーバがはじめた地球のための商品開発 CAERUプロジェクト
TIPSが『SDGs・ダイバーシティ』をテーマに自ら取材し、発信するWEBメディア RECT。今回は、LUXやDove、AXEといったヘアケア・ボディケア商品など、400以上のブランドを展開する世界的メーカー ユニリーバの日本法人 ユニリーバ・ジャパンがはじめたCAERU(カエル)プロジェクトの取り組みと、その第一弾として生まれた自然に還る全身ソープを取り上げます。ユニリーバ・ジャパンでCAERUプロジェクトのプロジェクトリーダーを務める穐吉麻衣子氏におはなしをうかがいました。
穐吉 麻衣子(あきよし まいこ)氏
ユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティング株式会社 新規事業開発担当。10代の頃から環境問題に関心をもち、新卒で同社に入社。CAERUプロジェクトを企画・提案し、プロジェクトリーダーを務める。
■ CAERUプロジェクトとは
CAERUプロジェクトは、ユニリーバ・ジャパンが取り組み始めた『日常の“変えたい”を“変える”』ユーザー参加のオープンイノベーション型商品開発プロジェクトです。オープンイノベーションとは、企業の技術革新や製品開発などを社内で行うのではなく、外部の人や組織の参画を促して知識や技術を活用することで、CAERUプロジェクトは、商品開発の段階から「ユーザー(消費者)」が参加し、クラウドファンディングによって商品化を決めることを特徴としています。多くの企業が当たり前に行っている、社内での徹底した市場調査による商品開発や代理店を利用した広告宣伝・マーケティングと一線を画し、ユニリーバの社内でも常識外れな体制でユーザーと地球に向き合うCAERUプロジェクトは、なぜはじまったのでしょうか。
▲CAERUプロジェクトのメンバーの皆さま(ユニリーバ様提供、TIPSにて加工)
■ 日本では、企業のサステイナビリティ対応の優先順位が上がらない
CAERUプロジェクトは、穐吉さんの強い思いが原動力になっています。ユニリーバは、『清潔さを暮らしの“あたりまえ”に』をパーパス(目的・存在意義)に掲げ、1883年にイギリスで石鹸の販売をはじめました。190を超える国で400以上のブランドを展開する世界的な企業になった現在は、創業当時の想いを受け継ぎつつ発展させた『サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に※』を世界共通のパーパスに掲げ、約15万人がこのパーパスの下で働いています。
▲引用:ユニリーバ「地球と社会」(画像クリックで同社HPへ)
穐吉さんは、「社会貢献や環境配慮なしに、ビジネスの成長はない」というユニリーバのメッセージに共感し、同社に入社しました。しかし、同社で働くなかで、日本でサステイナブルなブランドや商品を、もっと早く、大きく展開できないかという想いを抱いてきたそうです。同社では、各国の研究・開発部門がサステイナビリティに対応する様々な技術を開発し、それらが世界中で共有されており、なかにはすぐにでも日本で商品化できるようなものもあります。企業としては、それらの技術を活用して、市場のなかでボリュームが大きな層を効率的に獲得する商品を展開する必要があります。日本は、世界のなかでも競争の激しい市場ですが、一方でユーザー(消費者)のサステイナビリティに対する意識が低く、サステイナビリティに対応したブランドや商品を発売しても、市場でヒットしにくい現状があります。これは、ユニリーバに限らず、多くの企業が抱えている課題であり、多くの企業がサステイナビリティやSDGsを掲げながらも変化に踏み切ることができない大きな原因と言えそうです。
10代の頃から環境問題に関心を持ってきた穐吉さんは、ユニリーバとしてサステイナビリティの推進をパーパスに掲げながら、ブランドや商品を通じたアクションが十分にできていないこと、そして、日本のサステイナビリティに対する意識の低さをどうにかしたいという想いから、CAERUプロジェクトを発案し、役員会議に提案。社内の支持を集め、様々な条件をクリアして、プロジェクトを実現させました。
■ CAERUプロジェクトのミッション
ユニリーバは、グローバルブランドを軸とした商品開発を行っています。グローバルでパーパスや戦略を設定し、そのブランドが広く受け入れられるとみられる市場に参入して、様々な商品を展開していきます。LUXやDoveはその代表例です。しかし、CAERUプロジェクトは、顧客起点で商品開発から行う、ユニリーバの常識から外れた全く新しい試みです。そのため、CAERUプロジェクトから生まれた商品には、まだブランドがありません。そんなCAERUプロジェクトのミッションと運営の仕組みは、サステイナビリティへの対応に悩む企業にとって、ヒントになりそうです。
1. ユーザーのニーズ・トレンドに応え、本当にほしいものをつくる。
ブランドを軸とした商品開発ではなく、生活者のトレンドやホットトピックにできるだけ早く対応し、本当にほしい商品を開発するため、ユーザーが参画するオープンイノベーション型の商品開発プロジェクトを採用しています。
2. 当たり前のことを、徹底的にやる。
『生活者が本当にほしい製品をつくる』ことは、メーカーにとって当たり前のようで、実践が難しいことでもあります。社内でリサーチを重ねて、完成した製品を世に送り出す従来の商品開発ではなく、商品化する前からユーザーに見てもらい、クラウドファンディングという「製品を世に送り出すか投票をしてもらう仕組み」を利用することで、ユーザーにその製品が「本当にほしいか」を判断してもらう、商品開発の原点に立ち返った取り組みになっています。
3. 地球にとって、限りなく優しいものをつくる。
コストや市場のボリュームゾーンを狙うといった効率を重視すると、やらなくてはならないにも関わらず優先順位が下がってしまいがちな「サステイナビリティへの対応」を徹底し、地球に優しい商品開発を重視しています。前述のプロジェクトを発案したきっかけを表した、プロジェクトの根幹となるミッションです。
CAERUプロジェクトは、それぞれ営業職などの本業を持つ有志のメンバーが社内で集まり、社内ベンチャーのような体制で運営しています。プロジェクトに参加するユーザーは、メンバーがSNSをタグでたどって、参加してほしいと思った方にひとりひとりダイレクトメッセージを送り、趣旨を伝え、賛同してくれた方を巻き込むという地道な方法で集めています。企業のSNS活用というと、ステルスマーケティングと批判されることもある代理店を経由したインフルエンサーマーケティングが一般化していますが、CAERUプロジェクトではお金をかけず、時間と手間をかけてユーザーを集めました。その結果、「自分も、地球や環境のためになにかやりたい」という想いをもった人と活動ができ、プロジェクトに関わるユーザーがそれぞれ自身の想いをのせて情報を発信してくれる、良好なつながりが生まれているそうです。
■ プロジェクトから生まれた『100%自然に還るコンパクトソープ』
CAERUプロジェクトの第一弾として誕生した製品は、微生物が分解可能で100%自然に還る、持ち歩きを考えたコンパクトな石鹸です。2021年10月~12月にクラウドファンディングを行い、目標金額を達成しました。この石鹸は『自然との共生』をパーパスに、環境に特化し、地球に優しいことを徹底した製品設計を行っています。また、環境に配慮した製品は、従来の製品と比べて品質・性能面で妥協している、劣っているといった「環境にいいから我慢する」が起こってしまいがちですが、世界的なメーカーであるユニリーバとして、品質も妥協しない、環境配慮と品質の両方に応える石鹸に仕上げています。
製品パッケージはイメージです。最終の形状・仕様ではありません(パウチまたはチューブいずれかの形状になります)。
▲商品の3つのポイント(ユニリーバ様提供、TIPSにて加工。背景撮影 山崎翼)
製品のポイント① 100% 生分解性(=自然に還る)の原料
既存のシャンプーやボディソープには、界面活性剤や防腐剤、着色料などの原料が含まれています。これらの原料には、自然のなかで分解されないものや、分解に時間がかかってしまうものもあります。この石鹸は、河川や海の水質汚染を防げるよう、微生物によって分解される生分解性の原料のみを使用。ほかの不純物を一切含まないため、分解後は二酸化炭素と水だけになります。これにより、環境にかかる負荷を最小限に抑えた「地球にとって限りなく優しい」製品になっています。
製品のポイント② トレンドに応える、固体と液体の中間の濃縮石鹸
ソーシャルディスタンスや自然のなかでのストレス開放などを背景に、キャンプなどのアウトドアや、サーフィンなどのマリンレジャーの需要が急速に成長しています。このユーザーのトレンドに応え、本当にほしい製品をつくるため、コンパクトで持ち運びやすく、シャワーの際にも流れにくい、水分量を減らした歯磨き粉のような硬さのある濃縮石鹸としました。濃縮タイプのためしっかり泡立ち、身体についた海水や、焚き火の煙のにおいを落とせる洗浄力を備えており、環境にかかる負荷を最小限に抑えながら、アウトドアやマリンレジャーを楽しむことができます。また、使用感と香りが異なる海向き・山向きの2つをラインナップしています。
製品のポイント③ オープンイノベーション
この石鹸は、もちろんユーザーが参加したオープンイノベーションで開発されました。サーフィンをライフワークとしていたり、毎週キャンプに行ったりといったターゲットとなるユーザーの声(定性情報)をコンセプトテストの段階から収集し、SNSを活用して定量的な声も集めています。前述の使用感・香りのほか、パッケージのデザインや、カラビナなどを通してひっかけて持ち運び・使用ができる「穴」まで、ユーザーの声から製品設計が行われています。
■ 今後の展望
プロジェクトは、ようやく第一弾の製品が形になった段階です。クラウドファンディングの活用も、オープンイノベーションも、ブランドではなく商品開発からはじめる手法も、“はじめてづくし”のなかで、今後さらに社内を動かしていくために、現在は第一弾の製品を成功させることに注力しています。一方で、CAERUプロジェクトが正しいことをしているということは、社内的に認知されてきていることは感じているそうで、社内の体制構築も進めていきたいそうです。第一弾の製品をつくる過程で、ユーザーの参画やクラウドファンディングの活用方法などのノウハウを身に着けてきたため、今後はユーザーのコミュニティ形成を進めていくそうなので、サステイナビリティに関心のある方にとって、注目の取り組みになりそうです。
■ 編集後記
▲取材の様子
今回、CAERUプロジェクトからTIPSにコミュニティへの参加のお声掛けをいただいたことをきっかけに、TIPSからRECTでの記事化を提案し、オンラインでインタビューを行いました。ご協力ありがとうございました。(Writer:小山田萌佳、中村美心、三浦央稀)
※ユニリーバでは、サステナビリティと表記
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