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とある冒険者の手記

V.それは誰の為

2022.07.03 16:18

ゴブレットビュートにあるアパルトメント。

その一室にヴァルはいた。

何故、ヴァルがアパルトメントを持っているかと言うと、ガウラと接触して間もない時に、動きやすさを考えて冒険者登録をし、GCに所属したのをきっかけに、暗殺家業の拠点にしていたからだった。

一族の掟が無くなり、自由になってからは、部屋の掃除をしに来るだけになっていた。


ヴァルは、ある人物を待っていた。

玄関の扉がノックされる。

扉を開いた先に居たのはザナだった。

ザナはヴァルの姿を見て、溜め息を吐いた。


「やっぱ、男の姿か……」

「余程のことがない限り、女に戻るつもりは無い」


キッパリと言い放ち、"さっさと入れ"と彼を促す。

肩を落としながら室内に入るザナ。

そして、本題に入った。


「で、今日俺を呼び出した要件は?」

「お前に被検体になって欲しい」

「ひ、被検体??」


あまり良いイメージの無い言葉に、ザナはたじろぐ。


「あぁ。特殊メイクの練習台になって欲しいんだ」

「な、なんだ。そういう事か…、なら最初からそう言ってくれよ。俺はてっきり、ヤバい薬を飲まされるのかと思ったよ」

「それは悪かったな」


悪びれる様子もなく、ヴァルは道具をテーブルに並べていく。

ザナは肩を竦めながら言った。


「それで?なんだって特殊メイクの練習をするんだ?」

「ガウラの為だ」

「あー……」


その言葉だけで納得した。

だが、何故特殊メイクが必要かは深くは聞かない。

ザナは黙ってヴァルの指示を待った。


「上半身を出せ」

「分かった」


抵抗することなく、ザナは上半身を露わにする。

その背中は程よく筋肉が付いているが、左側に大きな傷があった。

ヴァルは、その傷を隠すように、特殊メイクを施していく。

作業が終わると、激しく動くように指示を出した。

それに従うザナ。

最初は何も無かったが、5分もすれば特殊メイクは剥がれ落ちてしまった。


「まぁ、こうなるか…」


剥がれた特殊メイクの一部を手に取り、手触りを確認する。


「…なるほどな…」


メイクの仕方を変え、何度も何度も同じ事を繰り返す。

ヴァルの納得する出来にするのに、時間がかかるのは分かっていたようで、また後日練習台になる事を頼み、その日は終わった。


それから、何日もかけながら、特殊メイクを理想に近づけていく。

簡単にメイクが落ちなくなってからは、どんな環境でも対応出来るかの確認。

対応出来なければ、またメイクの仕方を変えてを繰り返していく。


そして、季節は夏にさし掛かろうかと言う時、特殊メイクの最終確認の為、ヴァルとザナは海へと来ていた。


「俺はここで大暴れすればいいんだな?」

「あぁ」


ザナの言葉に短く答えるヴァル。

それを聞いたザナは首を鳴らし、腕を回した。


「よし!行くぜっ!!」


ザナは、手始めに近くにいるシェル系のモンスターを狩り始める。

彼の強さなら簡単に倒せる魔物だが、これは特殊メイクの確認であるため、ワザと攻撃を食らったり、大袈裟に避けて砂浜を転がったりする。

それが終わると、今度は海の中にダイブし、泳ぎ始める。

そして、数分泳いで戻ってきたザナはヴァルの元に戻ってきた。

ヴァルはメイクの状態を確認する。


「うん。良い状態だ」


満面の笑みで言う。

メイクは剥がれることも、落ちることも無い状態であった。


「耐久も、防水も問題ないし、砂にも暑さにも耐えられる…完璧だ」

「そうかい、満足出来たならよかったよ」


満足気に言うヴァルに、苦笑しながら答えたザナ。


そのヴァルの表情は、ザナも見た事がないほど嬉しそうだった。