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猫の爪研ぎについて

2022.07.20 01:00

猫を飼っている方に多い悩みとして、爪研ぎの問題があります。気が付いたときには、家の柱やカーペットなどが、ボロボロになっていたという方も多いのではないでしょうか。しかし、猫にとって爪研ぎは必要不可欠なものです。今回は、猫が爪研ぎをする理由についてお話をします。


猫の爪の構造

人間の爪(指)の数は手が10本、足も10本ですが、猫の爪(指)の数は前足が10本に対して後足が8本です。爪は内側と外側の二層構造になっており、爪の内側には神経と血管が通っています。猫の爪をよく見てみると、中心にうっすらと赤い血管が見えます。そのため、「深爪」をすると神経や血管が切れてしまい、痛みを伴いながら出血します。

爪からの出血は止まりにくいので、慌てて動物病院を受診する方もいらっしゃいます。深爪の応急処置としては、清潔なガーゼやコットンなどで1~2分ほど爪の付け根をしっかりと押さえて止血し、止まらない場合は綿棒の先に片栗粉をつけて出血した爪にピンポイントで塗りつけるなどの対策を取りましょう。(コーンスターチでも可。デンプン質が血液の水分を吸収して、血を固めやすくしてくれます)

外側の爪はスリッパをいくつも重ねたような構造になっており、時間が経つと一番外側の古くなった爪が剥がれるようになっています。猫はこの古い爪を抜き取るために「爪研ぎ」をするのです。

人間の爪と同様に、猫の爪も放っておけば伸びていきます。


猫のハンティングと爪の関係

「能ある鷹は爪を隠す」ということわざの語源と同じで、猫も通常は爪を引っ込めて隠しています。

犬の祖先である狼は「追跡型」動物で、捕獲した獲物を振り回したり、首筋を狙って噛み付き仕留めます。特に爪を隠す理由がないため、常に爪が出ています。一方、猫は「待ち伏せ型」動物であるため、獲物に気付かれないように小さな足音も消すため、爪を引っ込めておくことができる仕組みになっています。獲物が近づいたら突発的に襲い掛かり、ジャンケンでいう「パー」のように指をおもいっきり開いて爪を剥き出しにし、獲物を押さえ込む戦略をとります。出し入れが自由な爪の方が、効果的にハンティングに活用できるのです。


爪研ぎの意外な目的

猫の鋭い爪は、ハンティングの際に最強の武器となりますが、ハンティングする機会の少ない現代の家猫にとっては一生懸命爪を研ぐ必要性は少なくなりました。しかし、爪研ぎには爪を尖らせておくこと以外にも目的があります。

人間は汗をかくための汗腺「エクリン腺」が全身に分布しています。一方、猫はエクリン腺が足の裏(肉球)にしか存在しないので、肉球からしか汗をかきません。動物病院で猫が緊張すると診察台に肉球の跡がくっきり残る理由も汗によるものです。人間はエクリン汗腺以外に、「ワキガ」や「加齢臭」などの体臭の要因となるアポクリン腺が存在しています。猫にはこのアポクリン腺が全身に分布しますが、セルフグルーミングを行う動物のため、体臭はほとんど気になりません。   

フランスの獣医行動学者の研究(the World Small Animal Veterinary Congress in 1996)で、猫が分泌するフェロモンがはじめて確認されました。猫の顔やしっぽにはそれぞれ特有のフェロモンを分泌する臭腺(アポクリン腺、皮脂腺)があり、室内の柱や家族にその部分をスリスリとこすりつけることで自分の匂いをつける「マーキング」をします。このフェロモンを分泌する臭腺は肉球にもあり、爪研ぎの際に出る分泌物をこすり付け、自分の臭いをつけることにより、安心しているのではないかと考えられています。


後足の爪研ぎ

基本的に爪研ぎは前足だけ行いますが、後足の爪も何もしなければ伸びてしまうので、猫が自分で噛んで古くなった爪を剥がします。人間でも、爪を噛む習癖のある子がいます。これは医学的に「咬爪症(こうそうしょう)」といい、心理学的な影響が強いといわれています。爪を噛むことにより気持ちを落ち着けかせたり、集中しやすくする作用があると考えられ、乳児の指しゃぶりにも同じような効果が認められています。猫が後足の爪を噛む行動も爪を剥がす目的以外に、気持ちを落ち着かせる効果やストレス解消の意味合いも含まれているかもしれません。

完全には引っ込まない後足の爪は、前足の爪ほど鋭くありませんが、取っ組み合いになった際に前足で相手を抱えて後足で蹴りつける、いわゆる「猫キック」の際には効果を発揮します。また、闘争に負けると判断した猫が、逃亡する際の「木登り」にも鋭い爪は欠かせない存在となっています。


おわりに

このように、爪研ぎは猫にとってさまざまな目的があり、必要不可欠な行為です。爪研ぎによる柱や家具への被害を抑えるためにも、定期的な爪切りや、猫が爪研ぎをしたくなるような場所へ爪研ぎグッズを用意するなど対策を行い、猫と人が暮らしやすい環境作りを心がけましょう。