エマソンの言葉に励まされる
私は小学生の頃、誰とも遊ばずに、一人で本を読んでばかりいました。
小学五年生のとき、江戸川乱歩が大好きで、図書館にあった『怪人二十面相』は全部読破してしまいました。『怪人二十面相』の他のシリーズもないかなと探していると、隣の棚に興味をそそられる一冊がありました。『ゲーテ格言集』と書いてあります。「格言ってなんだろう?」そう思い、とりあえず借りてみることにしました。
ゲーテは「自分自身を信じてみるだけでいい。きっと、生きる道が見えてくる」と言っています。自分が里親の夜逃げ以来ずっと考えていた疑問の答えがそこに書いてあるかのようでした。その一つひとつの言葉に、心が救われたように感じました。これが私にとって哲学との初めての出会いでした。
そこから同じ棚に置いてある本は片っ端から読んでいきました。プラトン、カーライル、ソクラテス、ニーチェなど。中でもカントやヘーゲルは難しく、当時の自分にはあまり意味がわかりませんでした。
その一方でラルフ・ウォルドー・エマソンの本は、言葉自体は難解だったのですが、そのメッセージは「要は自分を信じることが大事ってことか!」となぜかスッと入ってきました。今思うと、エマソンに私自身を投影して読んでいたために共感しやすかったのかもしれません。
一九世紀のアメリカで哲学者・思想家・文学者・詩人として活躍したエマソンは、小さい頃に父親を亡くし、貧困の中で育ちました。友達もおらず、結核やリウマチなど複数の病気を患い、劣等感に悩まされる日々。結婚後もわずか一年半で奥さんを失くし、三〇歳ごろまではボロボロの人生を過ごしますが、それでも小さい頃からの憧れだった牧師の仕事も手放してでも、自分を信じて自分の生き方を貫き、結果としてその思想がニーチェや福沢諭吉など多くの人に影響を与えました。
当時の私は里親の喪失体験があり、統合失調症などの精神障害も抱え、友達も作れず、「自分は不幸な人間なんだ」と劣等感に苛まれる毎日を過ごしていたため、うまくいかないことばかりだったエマソンの人生が身近に感じられました。
これまでの人生で何度も「自分を信じる」ことが困難になったことがありました。そのときに私を励ましてくれたのがエマソンの言葉たちでした。
そんなエマソンに関する本を出版できるチャンスをいただいたのが昨年のことでした。
自分を救ってくれたエマソンの本を書くことで、今度は私が誰かを救えるかもしれない。
そんな思いで『エマソン-自分を信じ抜く100の言葉-』を書きました。
すべての人に信じてもらえなくてもいい、
せめて自分だけは自分を信じてあげよう。
オリジナルの原稿より