最低共通文化
2018.01.23 08:15
「(その社会では)オーケストラの演奏会などというのも、テレビで見せ
たりするでしょうね」
「やったとしてもポピュラーな曲ばかりをショウ的にやるでしょうね。
本格的な交響楽というのはやはり特殊なもので、一部のインテリのための
藝術とされているだろうから」
「しかしそれだと、オーケストラとはこのようなものだという誤解が広まり
ませんか」
「当然拡まるでしょう。つまり文化というのはすべて面白おかしく、やさ
しく、娯楽的でなければいけないとするしゃかいですからね」
(中略)
「つまり何もかも、そのう、本来の文化ではなくて、いわば最低共通文化
とでもいうべきものに落ちるわけだな」
おれは思わず手を打った。
「まさにそうだと思うね。そうだ。テレビだけではなく、新聞や雑誌など、
あらゆる情報機構によって、すべての文化が、その最低共通文化にまで
落ちるんだ。
映画や音楽だけじゃない。文学も、科学も、歴史もだ」
(筒井康隆:『美藝公』)
※筒井康隆がこの小説を書いたのは1980年。2018年の日本の社会はすっかりこれを追い越してしまった。